「中立金利」を巡る議論。ー 最早「マイナス金利政策」など論外。
最近マーケットで「中立金利」を巡る議論を目にするようになった。「利上げ」局面で中央銀行のターミナルレート(政策金利の到達点)を計るために良く出て来る。筆者がこの言葉に初めて出くわしたのは、*忘れもしない1994年2月、当時のグリースパンFRB議長が突然「利上げ」を始めた時だ。
その時の議論の中心が:
自然体でアメリカは+3.0~3.5%%の潜在成長率が見込まれていた事から「中立金利」は@4.0~4.5%と推計。実際FFレートは@3.0%→@4.5%まで引き揚げられている。
バブル崩壊に苦しむ当時の日本の潜在成長率は@+1.0~1.5%と見做されており「中立金利」は@2.0~2.5%。ただし、不良債権処理に多大なコストがかかるため、政策金利は▼1%程低く設定されていた。
その後2008年「リーマンショック」を経て訪れたのが中国の台頭による安価な製品の大量供給→「グローバリゼーション」「ディスインフレ」時代。アメリカも日本も潜在成長率 ≓ 潜在インフレ率が▼1%程低下したと推計され、それに合わせるように政策金利が下方修正された。日本の「ゼロ金利政策」はそういう点で合理性があったし、アメリカも長短金利が@3%を超えなくなった。その後20年以上に渡る「低金利時代」の到来である。
そしてアメリカに ”トランプ時代” が訪れ、” America First" →「米中対立」 →「反グローバリゼーション」「インフレ」時代に反転。2019~2022年のパンデミック=「コロナ危機」がトドメを指した。
現在 「金利」の上昇が止まらない。ー 世界的に「逆イールド」は解消へ向かう。|損切丸 (note.com) のはアカデミックに言えばこういう水準訂正が続いているからに他ならず、何も驚くような事でも無い。アメリカの潜在成長率が@+3.5%程度に戻ったとすれば「中立金利」は@4.5%程度。ベビーブーマー4,000万人引退に伴う「人手不足インフレ」に対応するために「中立金利」+0.75%=@5.25%まで政策金利を引き上げているだけ。
今日(9/29)ブルームバーグが元日銀調査統計局長の関根氏の記事を挙げているが、ここで氏が日本の「中立金利」として示しているのは@1.8%。まあ現在の日本の潜在成長率=+1%程度は妥当な線だ。10年JGB金利が@2%まで上昇する可能性があるとしているが、仮にそうなれば1999年以来24年振り(標題グラフ ↑ )。日銀のターミナルレートを@1.5%程度と予想しているようだが、感覚的には筆者と同じだ。
もう不良債権問題もない訳だし、日銀が政策金利を「中立金利」以下に留め置く合理性はない。まして「マイナス金利政策」など論外。グリースパン元FRB議長もそうだったが、 ”学者” 出身の総裁なら "理詰め" で政策運営を行って頂きたいものだ。
ポイントはなぜこのタイミングでこういう ”元日銀” の記事が出るのか。
大体こういう時は "アドバルーン" (観測気球)の場合が多い。総裁や現役理事の直接発言では影響が大きいから、市場の反応を慣らすために行う。まあアプリで言うとα版とかβ版とか、完成前の "お試し期間" 。日銀としては本番に向けて準備に入ったと考えるのが妥当だ。
植田総裁は為替水準に関しては言葉を濁しているが、やはり 「株安」より「円安」へ。ー またも「7月の変」。YCC運用の "柔軟化" 。|損切丸 (note.com) 対「インフレ」「円安」が最優先事項として浮上している。直近の日経平均の動きを見ても、「円安」=「株高」の構図は完全に崩れ、むしろ株価にも悪影響を及ぼし始めている。
「実質金利」=「10年国債金利」ーCPIで見ても円金利の「マイナス金利」は圧倒的に低く、これでは「円安」は止まらない。アメリカやスペイン、ギリシャがプラス金利に転換、ドイツ、イギリス等のCPIが低下傾向になる中、日銀の「利上げ」は不可避の情勢。最低+1%は上げないと欧米に追い付くことが出来ない。
そしてあとは「政治日程」。
10月20日の臨時国会召集が決まり、永田町では「冒頭解散、11月中旬投開票」の噂が出ている。だから今日もオープニングからJGBは売り気配、このタイミングで ”元日銀” の記事が出るのも納得だ。 ”日本金融村” では「回覧版」が回っていることだろう。
まあこの辺はT.I.J.(This is Japan、日本的、の意)であり、国外の市場参加者には非常にわかりにくい。筆者も現役の頃英訳して伝えるのに四苦八苦したが、彼らは納得しない。厳しく言えば、だからJGBで連戦連敗だった訳で、その辺は「日本」をもっと理解する必要がある。もっとも当の日本人でもわかりにくかったりするので、ドル円や日経平均を手掛けている方は要注意。「みんな飛び込んでますよ!」の円相場は実はとても怖いのである。
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