見た目に騙されるな! ”中身”が大事。 PartⅡ
結婚相談所のアドバイスではない。² (笑)
PartⅡは「アパート経営」編。投資の一環として、賃貸不動産関係の本を何冊か読んで中古のアパート、いわゆる「投資用不動産」なるものを見にいったことがある。その中でも頻繁に出てくるのが「利回り」。物件によって様々だが、5%とか7.5%とか、この金利のない時代には考えられないような数字が並んでいた。
ここで「損切丸」には違和感 - どこかで見たような既視感が...。そう、「高利回り」を謳っているところなど、オプション付の「仕組債」とソックリ。本当にそんなうまい話があるだろうか?
そこで前稿(PartⅠ)と同様、仕組みを解説してみよう。
<商品概要>
OO駅徒歩10分 1棟アパート 8千万円、 年間家賃収入(満室想定)6百万円、表面利回り 7.5%
<取引条件>
自己資金 5百万円 借入金 7千5百万円 @2.0%(20年元利均等)年間返済額 4百58万7千円
こういう ↓ たいそうなシミュレーション表が漏れなくついてくる。
「これにXXさんは別にサラリーが年収で5百万円あるから楽勝です」
セールスポイント(=見た目)はまだある。
「減価償却が毎年2百万ほど認められるので納税額が減ります。」
「ローンを返し終われば資産として残ります。しかも土地付き」
想定される顧客の反応 :
A.ごく一般の顧客(60%)「7.5%?こりゃすぐ買わなきゃ!」
B. 少し投資の心得(38%)「借金が7千5百万円か。ちょっと怖いな」
C.ほぼプロ(2%)「8千万円は高いよ。それから今住んでる人はどんな人? OO駅徒歩10分ね..。そんなにすぐに部屋埋まらないんじゃない?多分年間収入6百万円は無理」
金額が大きくなるので「仕組債」の時に比べ、A. よりB. の割合が増える。特にC.を見て「からくり」にピンと来ている方はかなりセンスが良い。
肝心の”中身”について解説してみよう。
<仕組み(中身)>
土地 45坪 38,000,000円 建物 90坪(建坪) 32,000,000円
家賃の値下がり(見込み) 5年以降年-2%減少。
建物修繕費(見込み) 10年ごとに5,000,000円程度。
お気付きになっただろうか。まず土地、建物の原価を別々に調べると足しても7千万円にしかならない。つまり1千万円ふっかけられているのだ。見た物件のほとんどがこのパターンで、酷いケースだと30%も上乗せされていた。実際筆者が不動産業者の担当者に土地、建物の値段を別々に聞いたらかなり困っていた。「からくり」(其のⅠ)がばれてしまうからだ。
そして次が本丸の「からくり」(其のⅡ)。アパートの”中身”は書いて字の如く「居住者」である。同じ「高利回り」を謳っていても、相手が「人」であるところが金融商品とは決定的に違う。まずは「居住者」を集めないことにはどうにもならない。この「客付け」といわれる作業がとても大変で、賃貸経営の80%以上を占めるといっても過言ではない。部屋が10戸とか15戸とかあれば、そんな簡単に部屋は埋まらない。
*部屋が埋まらなければ「利回り」もへったくれもないのである。
*部屋がなかなか決まらないと、家賃の2~3か月分もの手数料を業者に払って無理矢理居住者を「客付け」する大家もいる。確かに部屋は埋まるかもしれないが、無理をすれば「おかしな人」まで住まわせてしまい、後にトラブルを起こすリスクも高まる。巷ではアパート経営を「不労所得」などと揶揄する声もあるがとんでもない。やはり世の中に楽して収入を得る方法などないのである。
いわゆる「空室リスク」というやつだ。「カボチャの馬車」をはじめ、アパートスキームの失敗のほとんどの原因がこれ。
つまり「7.5%」は見せかけの「飾り」であり、固定収入ではない。
そもそも「空室リスク」回避のためには「客付け」「居住者」が肝、ということを認識していれば、物件に対する判断が根底から変わってくる。まず「立地」が大事なのは当然として、マーケティングが重要になる。e.g. 1人住まい・1ルームとファミリー向け・1LDKではどちらが人気か、賃料の価格帯は?、etc. 特に部屋の「間取り」が顧客に選んで貰う重要ポイントになるため、その後の「客付け」にとても重要な役割を担うことになる。**中古物件だと既に建物が出来上がっているので、検討する選択肢すらない。
**中古の物件なら今居住中の人の素性も判らないし、部屋の中がどんな状態なのかも確認できない。もしかしたら大規模修繕が必要になるかも。これはかなり大きなリスクだ。この「居住者」が「仕組債」のオプション=リスクに当たる部分と考えて良い。買う方には完全に「ブラックボックス」。
「カボチャの馬車」や「スルガ銀行」がブームだった数年前は、「アパート経営」に関する著書も山ほどでていたが、「客付け」が大変とか、「間取り」が大事とか、「真実」を書いた本はほとんどなかった。正直に書いたら「羊のような客」はみんな逃げてしまう。だから、「高利回り」「節税効果」「老後の資産」など「見た目」の良い点ばかりを強調して煽ったのである。不動産セミナーもテレビコマーシャルも一様に同じノリだった。
金額が大きくて***失敗した人に多大な借金が残るのは不動産投資固有のリスクだが、肝心要の”中身”=「客付け」「居住者」、が隠蔽されているところなど、やはり「アパート経営」は「高利回り仕組債」と構図がよく似ている。どんな投資商品でも”中身”を精査することが肝要で「見た目」だけにごまかされてはいけない。「アパート経営」は、サラリーマンが片手間にできるような「気軽な副業」などではない。
***借金のリスクについては、11月14日付.「お金を借りるということ」の中で詳述しているので、ご興味がある方は一読を。銀行は「サラリーマン大家」の給料と担保の不動産から回収すればよい、と考えているため、結局身ぐるみ剥がれるのは「素人大家」ということになる。
おそらく素人とプロの差はこのチェックポイントの差。どれだけ多角的、客観的に検証ができているか。マーケットビジネスでも不動産投資でも、種類は違うが基本は同じだ。
常に好奇心を保ち、主観を排除して納得いくまで不明点を突き詰める事。
確かにちょっとしんどい作業だが、このとても地道な作業の積み重ねが最後に物をいう。「見落とし」が1番怖いのである。
厳しい言い方になってしまうが、納得いかなければ中途半端に手を出すべきではない。お金に余裕がないならなおさらだ。何となくモヤモヤしたまま「ま、いいか」と手を出すと、後でとんでもなく悔やむことになる。ゆめゆめ借金までして「一攫千金」などと思いませんように。自戒も込めて。