米国債市場からのメッセージ ”物価は上がるが金利は上がらない?” 。ー 「インフレ」で突っ走る「暗号資産」。
どうやらウォール街は本気で「キャリー取引」による収益拡充を狙っているようだ。前稿にも書いたが「テーパリング」イベント通過後、確かにこれからしばらく金利を大幅に押し上げる要因は見当たらない。
満期まで持ちきりで堅くいくなら@0.40%台の2年債がお勧めだが、ファンドの中には@0.30%台から買って@0.50%台で投げさせられた向きも多いと聞く。それと投資銀行の莫大な「予算」(=収益のノルマ)を考えると、+30BP程度の「キャリー収益」では到底足りない。最近30年債の利回り低下が大きいことからも、より広い "スプレッド" を目指す「キャリー戦略」は見て取れる。「名目金利」が高い国債が買われているのはそのためだ。
このイールドカーブのフラットニングを見て「景気後退のサイン」と深読みするメディアも存在するようだが、それは見誤っている、あるいは相場の「誘導」が狙いだろう。業界の ”都合” と思った方がいいかもしれない。
それが証拠にTIPS(物価連動債)も連れ高になっている。5年BEI(Break Even Inflation Rate、予想物価変動率)は再度@3.0%に乗せ、10年は@2.6%台、30年も@2.4%乗せと、今後も「インフレ」が続く事を示唆している。
まあTIPSも一種の利付け債ではあるので、普通国債が買われれば連れ高になるのも1つの理屈ではある。だが本当に「景気後退のサイン」が出ているのなら「インフレ」に陰りが出て売られるはず。考え方としてTIPSはCPI相当の利回り(9月@5.4%)を得られるので、「キャリー戦略」の一環と考えるのが妥当。いざという時の「インフレヘッジ」にもなる。
この「株買い・国債買い」が続く「桃源郷」相場には死角がないようにも感じるが、最大の「灰色のサイ」は中国だ。一昔前に比べると随分情報が得られるようにはなってきたが、特に不動産の不良債権については未だ「ブラックボックス」のまま。ウォール街がこぞって「中国株買い推奨」をしていたが一向に株価は上がらず、穿った見方をすれば「売るための逆宣伝」ではないかと勘ぐりたくもなる。中国の経済的影響の大きい日本、韓国も株はさっぱり。欧米との明暗がはっきり分かれてしまった。
一見中国の不良債権問題は「金利低下要因」と思われがちだがさにあらず。中国不動産業社の社債の急落や突出して高い中国国債の金利からも判るように「信用リスク」の増大は「金利上昇要因」にもなる。彼の国の経済規模や膨大な資金需要を考えると、金利市場全体に波及するリスクは高い。「株買い・国債買い」の「桃源郷」から一転「株売り・国債売り」の「地獄」へ急転直下も絵空事ではない。それ程この「灰色のサイ」はでかい。
そんな中気を吐いているのがビットコイン(BTC)を筆頭とする「暗号資産」。イーサリアムや日本由来の「柴犬コイン」も急騰し、何やら歯止めが効かなくなりつつある。まさに "我が世の春” 。うるさい顧客も多かろうし、こうなるとファンドにとって「買わざるリスク」も健在化してくる。
これらが「インフレヘッジ」として機能するかどうかは議論のあるところだが、大幅な「マイナス実質金利」の恩恵を受けているのは間違いない。*「イールドスプレッド」の考え方が確立されて「金利上昇」の影響を受ける「株」に対して、"都合良く考えれば" 現時点では優位であるとさえ言える。
*「BTC10万ドル説」を見ているとバブル期の「日経平均10万円説」を思い出すが、少なくとも今「暗号資産」ショート(売り)は危険。①目先の売買に集中するか、②半年後、1年後の資産価値を熟慮するか、③手を出さないか、態度をはっきりさせるべきだろう。 ”中途半端” が一番良くない。
さはさりとて投資銀行も、いつ暴れるかわからない「灰色のサイ」にビビって何もしないで済むような甘い "業界" ではない。彼らも「実質金利」が低すぎるのは充分承知の上で "日銭稼ぎ" のために体を張って国債を買っている。ここはそういう ”事情” を「利用」するぐらいの気持ちで、「金利」は "上昇" だけでなく "低下" の可能性も考慮しながら、株やFX、暗号資産等の「相場」を見ていくのが賢明だろう。
"Trend is Friend" (流れに付け)でいくのか、「逆張り」の機会を狙うのか、方法は人ぞれぞれ。「灰色のサイ」は常に頭の片隅に入れつつ、緊張感を持って進むのみ。「相場」って結構疲れる "仕事" です(苦笑)。
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