「3%」の分水嶺。ー「株」か「米国債」か。「インフレ」と「潜在成長率」。
一時的かもしれないが、NYダウやナスダック指数に底入れの兆しも見える。S&Pの「イールドスプレッド」(1/PERー米10年国債金利)もヒストリカルな標準偏差の@▼2.7~▼3.0%辺りで踏み止まっている印象だ。
元・金利トレーダーの筆者は、どうしても「金利」から考えてしまうが、今ドル投資で悩むとしたら「株」か「米国債」か。おそらくグローバル投資家も同じ事を思案している。1つキーワードになるのが「潜在成長率」だ。
「FRBの ”中立金利” は@4.0~4.5%」
「潜在成長率」の話でいつも思い出すのが、忘れもしないグリーンスパン元・FRB議長が、非農業部門雇用者数(Non-Firm Payrolls、通称NFP)がマイナスの段階で1994年2月に突如開始した「利上げ」。政策金利のFFレートをたったの半年で+0.25%×6回=+1.5%引き上げた。
この時はFOMC以外の日、例えば強いNFP直後の緊急FOMC(電話ベース)でも「利上げ」を行ったので、「グリーンスパンは一体どこまで金利を引上げるのか」と市場関係者を震え上がらせた。その時に出たのが:
”中立金利” =「潜在成長率」@+2.5~3.0%+1.0~1.5% ≓ @3.5~4.5%
実際この理屈に沿って「利上げ」され、 "オマケ" として「メキシコ通貨危機」を引き起こしたが、米経済の急回復を見事に先取りした。
その後中国の台頭でグローバリゼーションが進み「安い製品」が大量に供給されて ”ディス・インフレ” が進行。2004年6月から17回連続で「利上げ」を敢行した時には米国長期債が逆に買われ金利が低下。2005年2月の議会証言で "Conundrum" (謎)という名言(迷言?)が飛び出した。この時に「アメリカの潜在成長率の低下」が議論になり、従来の@+2.5~3.0%から@+2.0~2.5%程度に低下したと考えられた。
さて、この議論を踏まえて今の「利上げ」の行方を推定してみよう:
”中立金利” =「潜在成長率」@+2.0~2.5%+1.0~1.5% ≓ @3.0~4.0%
確かに2008年の「リーマンショック」以降、10年米国債金利が4%を超えることはなくなった。 「金利」より「量」 Ⅱ。 ー ”ワールドダラー” と株価。|損切丸|note 強烈な金融緩和で ”ワールドダラー” がそれまでの2兆ドルから一気に7兆ドルまで急増した影響もあろう。
だがそれでも上がらなかった「物価」と「金利」はいみじくも「アメリカの潜在成長率の低下」、つまり「弱ったアメリカ」を証明。
この観点から現在のパウエルFRBの「利上げ」戦略を見ると「3%」の分水嶺が見えてくる。5月から3回連続+0.5%は1994年に匹敵するハイペースだが「3%」近辺で蓋をされている。それを上回る成長に確信が持てないのだろう。確かに「弱ったアメリカ」は事実で、最早「経済1強」ではない。
ここで問題になるのが「インフレの高進」である。
まずは「米中対立」からくる「サプライチェーン再構築」で「グローバリゼーション」が終焉。コロナ後の世界 - 「グローバル分業」は断裂へ。|損切丸|note が拍車を掛け、「安全保障」の観点から安い製品を効率的に供給、購入する仕組みが崩れた。SDG’sも「脱炭素」もコストがかかる取組で、多分に「インフレ」的。今後この "潮流" は止まらないだろう。
ところが米国債や米物価連動債市場 ↓ を見ると「低い米潜在成長率」の呪縛から抜けきれず「3%」の分水嶺を強く意識。行き過ぎた「利上げ」による経済の "オーバーキル" を怖れているようにも映る。
さあここで話も元に戻してみよう。
今ドル投資で悩むとしたら「株」か「米国債」か。
①「弱ったアメリカ派」は10年米国債@2.91%を選ぶだろう。10年複利はグロスで@33.63%(四半期利払いベース)。仮にダウを@$33,000で買うと10年後には@$44,097になる計算だ。「過剰流動性」の助け無しに「潜在成長率+2.0~2.5%」では到達は難しい。
もう一つは②「高インフレ派」。仮に「インフレ率」が平均+3%ではなく+5%なら「潜在成長率+2.0~2.5%」に関係なく名目株価は10年複利で@64.36%、NYダウ@$33,000→@54,238。米国債は暴落する。
要は米政府+FRBに対する ”Trust” (信頼)の問題だが、「バイデン+パウエル」コンビを信じていない筆者としては、↑ ①:②=3:7の心持ち。ペースにもよるが、政策金利は最低@4%までは引き上げないと今の「インフレ」は止められまい。反面、10年後NYダウが@$50,000を超えるかというと、これもかなり怪しい。同じ "Conundrum" を抱えているトレーダー、投資家も多いように感じる。
ちなみにJGB10年@0.25%の10年複利はたったの@2.53%。10年後の日経平均が@27,413.88.-→@28,107.45-といってもあまり違和感がない。というより「夢」がない(苦笑)。ある意味 この国の現状を”リアル” に示してはいるが、さすがにこれは人為的な「異常低金利」。CPI+2.5%を10年複利にすれば@28.3%。 値上がりの時代。|損切丸|note を考慮すれば、10年後の日経平均は@35,000円といったところだろう。
ちょっとクオンツ(金融工学を駆使して行う投資手法)のまねごとをしてみた(苦笑)。個人的にはあまりに長く「ドル安」を見過ぎたせいか、いつまでたっても「ドル」に強気になれない。今の政権運営を見ていると、最終的には「ドル安・株安・債券安」のトリプル安を起しそうで怖い。
もっとも このままでは「円」の「信用」がボロボロになる。|損切丸|note で「円」も問題含みなので、あとは「比較」。今後も日本で暮らす予定の「損切丸」としては国内で「インフレ」対策をぼちぼちするしかなさそうだが...。果たして本当にこの国に死ぬまで居続けられるのだろうか。