米「インフレ」の粘着力。ー 「株価」と「個人消費」の関係。
PCEを見ると徐々に上値は切り下げているものの、コアは@+4%台で高止まり。「インフレ」は確かに酷いが「人件費」がそれに追い付いて上がっており、個人消費には再び活性化する傾向も見えてきている。これと呼応するようにWTI等原油価格も住宅価格もじり高に転じており、やっぱりアメリカで燻る「インフレ」の ”種火” 。|損切丸 (note.com) は消えていない。
鍵を握るのはアメリカ人がたくさん保有している「株」の動向だ。
ナスダックが特にそうだが「金利上昇」→「株価下落」→「個人消費・物価下向き」、逆に「金利低下」→「株価上昇」→「個人消費・物価上向き」の相関ははっきりしている。S&Pの「イールドスプレッド」(株価と10年米国債利回りの比較値)を見ても長期的高値の「ゼロ」に貼り付いており、理論上株価が上昇を続けるには①業績・配当の上昇、あるいは②国債金利の低下が必要になっている。米株価は盤石かと言えば、その基盤は意外に脆い。
地銀がドル債投資で▼数千億円も損失が出たように、*日本から米国市場への「お金」の流出はある程度進んでおり、今回の「YCC修正」による米国債や米株への影響は限定的だろう。
それでも今回@5%まで「利上げ」した分、金融政策には十分なバッファーが出来ている。いざとなればFRBが「利下げ」に動ける安心感は日銀との大きな違いになる。
7/28の欧州、NY市場でスッと@140円台に戻したドル円を見ていると「この程度の修正では円は買えませんよ」とマーケットから問われているよう。今後FX市場と日銀の "神経戦" が繰り広げられそうだ。想定できるパターンとしては「円安」を起点にJGB金利が上昇し、日銀がどう対応してくるか試しに来るだろう。意外に早く10年JGBが@1%に接近する展開も有り得る。
日本の「物価見通し」に目を向けると、どうも「都合」が透けて見える。
日銀が7月の「展望レポート」で2023年度のコアCPIを@2.5%と上方修正したが、これは前日内閣府が発表した@2.6%と整合的だ。それで今回の「YCC修正」に動いたという建前だ。ここまではいい。不可解なのは2024年度を@2.0%→@1.9%に下方修正した挙げ句、2025年度を@1.6%で変わらずとした点。 "Transparency" (説明根拠、透明性)に欠ける。
政府は最低賃金を@1,000円に引き上げたばかりだし、▼8百万人もの「団塊」が抜けて少子化が加速する「人口動態」による恒常的な「人手不足」は政府・日銀共に十分理解しているはず。この点はアメリカも同様であり、特に「安い日本」は競争力に乏しく、「モノ」だけでなく「人」も海外諸国に競り負けている状況。向こう2年で解消するような生易しい問題ではない。むしろ「インフレ」圧力が増すと考える方が自然だ。
植田総裁以下、日銀としては海外経済の減速・後退を心配(期待?)しているのかもしれないが「金利を上げたくない」という意図を感じる。確たるデータや根拠がない中での ”願望” はしつこい「円売り」の背景になる。
市場とのコミュニケーションは簡単ではない。 "Transparency" が大前提で、データ・数値を基にした合理性が求められる。マーケットは手厳しい。「嘘」や「都合」はすぐ見透かされ「弱点」として徹底的に突いてくる。学者出身の植田総裁は得意なはずだが、あとは「政治」を上手く裁けるか。
エコノミストが盛んに使う ”コストプッシュ” という言い方がどうも気に入らない。日銀の「都合」と一緒で、何だか「円安」や商品、エネルギー価格のせいにしているかのよう。つまり "他人事” 。
今回は「人手不足」を起点とする ”真性インフレ” であり一時現象ではない。少なくともばらまいた巨額の「お金」を回収するための「テーパリング」や「利上げ」等の能動的な政策対応が必要だ。「円安」を横目に日経平均や不動産の名目価格は上昇基調を維持するだろう。日銀がどう市場とコミュニケーションを取るのか。お手並み拝見である。
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