「Temporary Dollar Liquidity-Swap Lines」Ⅱ - ドル流動性、その後。
「Temporary Dollar Liquidity-Swap Lines」- FRB、新たに9中銀とドル・スワップライン設置。「流動性融通」を拡充。 (3/20稿)の続編。
まずはドル流動性供給オペの利用状況から。3/19に日本、カナダ、イギリス、ユーロ圏(ECB)、スイスの5カ国と7日物、84日物のオペを開始。その後3/27に9カ国を追加してオペ残高は4/3現在3,940億ドル(約47兆円)。 ↓
殆どが「通貨スワップ協定」を結んでいる5カ国向けだが、少額ながらもオーストラリア、シンガポール、韓国、メキシコが利用している。オーストラリアを除く3カ国が163億ドル程度入札しているが、その結果と日銀向けオペ(約1,750億ドル)の対比。↓
3カ国の入札金額は日銀向けの10%にも満たないが、ここから推定できる事実もある。リーマンショック時には、「損切丸」も実際にこのオペに参加していたので、少し説明してみよう。
まずこのドル流動性供給オペは「打ち出の小槌」ではない、ということ。中央銀行とのオペ取引は原則「有担保」、しかも「優良担保」(Elligble Collateralls)を差し出す必要があり、しかも入札のためには+10~20%の担保が必要だ。銀行間の市場取引と比べると条件は極めて厳しい。
お金が有り余っている日本の銀行ならいざ知らず、資金余力のない国の銀行は中央銀行に差し出せる「優良担保」が足りない。ブラジルから応札がないのはそういう事情だろう。出来れば市場で他の銀行と直接為替スワップ(FX Foward)や通貨スワップ(デリバティブ)をしたいのが本音だ。
更にコスト=「金利」の問題もある。↑ 表の右端の欄を見てお気付きだろうか。84日物@0.90~1.08% >> 日銀向け@0.32~0.37。「通貨スワップ協定締結国」には OIS(Overnight Index Swap、1日物金利、ドルならFF金利を基準にしたデリバティブ)+25BPの低金利を適用しているが、それ以外の国には基本高めの市場実勢レート。つまり「信用力の差」が反映されている。わざわざ多めの「優良担保」を積むのに何のメリットもないのである。
それでもこのオペに応札しなければならない理由の一つは取引してくれる銀行が足らないこと。銀行はそれぞれ取引額に上限=枠を設けているので、その設定額を超えればその銀行とはそれ以上取引出来ない。
例えば韓国の銀行に対しては、直接FRBから調達した約80億ドル以外にも、三菱UFJやみずほ銀行が日銀経由で「安く」入札したドルをスワップ取引で「迂回」させていると想定される。*+0.50%以上鞘が抜けるわけで、1兆円取引すれば年間利益は+50億円強。まあ悪くない商売だ。だがデフォルト・リスクも考慮すれば、無限に取引出来るわけではない。
*1990年代後半~2000年代前半の金融危機時、日本の銀行はこの逆の立場に立たされた。「ジャパン・プレミアム」と呼ばれる上乗せ金利を要求される事態が数年続き、特にドルに関しては酷い時で+100~200BPものコストを欧米の銀行に対して払わされた。苦い記憶である。
ノルウェーやスウェーデンで入札実績がないのはさほどドル不足ではないから。更に邦銀がやっているような「ドル・プレミアム」の鞘抜き取引に関しては、①欧米の銀行がデフォルト・リスクに関してより厳格、②担保余力が邦銀ほどない、の理由であまり行われていないだろう。
だが総じて言えば、3月四半期末を超えてドルLIBOR(London InterBank Offerd Rate)は低下に転じており、このオペの効果はあったと評価できる。とりあえず銀行や国家のデフォルトは一旦は遠のいたと見ていい。最近世界的に株価が回復している原動力の一つと考えていいだろう。
だが肝心なことが一つ。日本の銀行がお金が有り余っている、といったが、それは膨大な顧客預金があってのこと。LIBORの金利が例えば ↑ 3カ国向けのオペ金利@0.90~1.08%より高いのは「無担保取引」だからだ。 「無担保資金」がどれだけ調達できるか、が銀行の信用力に直結する。取り付け騒ぎのようになって預金が引き出されれば銀行などひとたまりもない。また、ブラジルなどのように通貨が安くなっている国々も国民が自国通貨をどんどんドルに替えたりするので、銀行には信用力がなくなる。
まあしかし世界を襲う「感染パニック」に比べれば「金融村」は一時的には平和を取り戻しているようだ。だが、ここから景気、雇用の悪化、あるいはインフレなどが起こると肝心の「無担保資金」=個人・企業の預金が枯渇することにもなりかねず、「金融村」が安泰とまでは言えない。「底を打った」と確認するには、まだ丹念な確認作業が必要だろう。