小さな子供と小さな子猫の物語
ネットニュースでこんな記事をみかけました。
捨て子猫託してくれた小学生に会いたい。
私もこれに似た場面に立ち会った事があります。
懐かしい思い出。
私が初めて勤めた動物病院で出会った子猫と子供達のお話。
小学生仲良し4人組と子猫
私が動物病院に勤めて3年が経ち仕事にも慣れ自信と責任がついてきた頃、子供達と子猫はやってきました。
寒い冬の夕方。
小学3〜4年生ぐらいかな?ランドセルを背負った女の子4人が小さな箱を持ってやってきました。
箱を覗くと生まれてすぐの子猫2匹で、まだ臍の緒がついていました。
体も冷たくほとんど動かない。
微かに呼吸しているけど、今にも消えそうな命。
女の子達に聞いたら学校の帰り道の空き地で見つけたと話してくれました。
とりあえず体が冷えていたのでまずは保温する必要がありました。お湯を入れたペットボトルにタオルを巻いて中に入れました。
私達看護師が診察する前に聞かなければいけない事があります。
診察にはお金が掛かること。
お母さんにちゃんと了解を得ているかということ。
今後この子達を育てる事が出来るのかという事。
拾う事は簡単な事。
可哀想だから拾うなら誰でも出来る。
でも育てる事は簡単ではありません。
まして小学生の子達に育てる事は難しく、家族の協力がないと出来ません。その了解が得られないなら診察することは出来ません。
その場でお母さんに電話をしてもらい、里親が見つかるまでという約束で了解を得る事が出来たので診察室に入ってもらいました。
かなりの低体温で栄養状態も悪く、特に一頭は小さく衰弱がひどい状態でした。すぐに病院にある子猫用のミルクを与え、少量だけど飲んでくれました。飲む事が出来れば後はしっかり保温してもらい、数時間おきのミルクと排尿排便の刺激の仕方を先生から説明しました。
診療の間子供達は真剣に話を聞き、自分達でもミルクを与えたりしました。診察が終わり、受付で子猫の名前を考えてあーだこーだと話している姿を微笑ましく思う反面不安もありました。何かあればすぐに連絡をくれるよう伝え、受付でちゃんと治療費をみんなで出し合って払い帰って行きました。
小さな子猫の死
次の日の診療終了後電話がありました。あの小学生からでした。
一頭が動かなくなった。
すぐに連れてきてもらいましたが、衰弱していた子猫の方はもう冷たくなっていて何も出来ない状態でした。
4人で話し合って交代で連れて帰る事になったけど、帰ってミルクを与えて排泄までうまく出来ましたが少し目を離した間に動かなくなっていたそうです。
お母さんと一緒に来ていた子はずっと泣きじゃくり話もできないぐらいでした。
もう一頭はまだ動く力はありましたが、もともと衰弱した状態だったのでもう一頭も生きていけるのかは難しいと思いました。
泣いている女の子にまた同じ思いをさせたくありません。先生と相談して病院で預かる事を提案しました。とりあえず今日は病院で預かり、また明日みんなで相談してからまた来て。と伝えました。
私達が育てる
次の日学校帰りに4人組でやって来ました。
話し合ってやっぱり最後まで面倒みる。
残った一頭は亡くなった子のぶんまで育てる。
4人の決意は固く、先生と話し子猫を託す事を決めました。また悲しい思いをするかもしれないけど、この子達の決意に賭けよう。不安はありましたが…。
もう一度ミルクの与え方・排泄・保温についてしっかり説明し、何かあればすぐに病院に連れておいでと伝え子猫を子供達に託しました。
それから何回か病院にやって来ましたが、家族の協力もあり子猫は確実に成長し、もうミルクではなく離乳食を食べるまでに成長しました。
ここまで大きくなれば安心です。
今度は里親を探さなくてはいけません。
病院に4人で作った手作りの里親募集のポスターを貼りました。
優しい里親さん
数日後病院の患者さんから連絡があり、あのポスターの子猫をほしい。一度子猫に会ってみたいと。
その人は1年前に可愛がっていた猫を介護し何度も病院に来ていた飼い主さんでした。
亡くなった時に挨拶に来てくれた本当に優しい飼い主さんです。
一年経ち悲しい気持ちが少し落ち着き、また猫を飼いたいと思い病院に連絡をくれました。
すぐに4人組に連絡し、夕方学校が終わってから来てもらい里親さんに会ってもらいました。
大きくなった子猫は、たくさんの愛情をもらい大きくなったので可愛くない訳がありません。
一目で気に入り、是非飼いたいと言ってくれました。
4人組は複雑な顔をしています。
出来れば自分達で飼いたい。
でもそれは難しく里親が見つかった事は嬉しいけど、それは子猫との別れを示しています。
複雑な顔をしている子供達の気持ちを察してくれた里親さんは、また相談してからでいいからと帰って行きました。
里親さんが帰った後4人で相談しています。
後は子供達が決める事。私は見守る事しかできませんでした。
決意
次の日、病院にやって来た4人組は里親さんに引き渡す決意をしてやって来ました。
私から里親さんに連絡し病院に来てもらいました。
里親さんが来られると、可愛いキャラクターのノートに子猫の育て方がイラスト付きで書いており、それを里親さんに渡しました。
みんなで一生懸命書いた命のノート。
みんな泣かないよう我慢していましたが、1人が泣き出してしまいもう我慢できずみんな大泣きしていました。
私ももちろん貰い泣きして、後で来た患者さんを驚かせてしまいました。
里親さんは子供達にまた会いに遊びに来てね。
と優しく言ってくれ、子供達は泣きながら頷いていました。
その後里親さんと子供達の交流は続き、子供達が中学生になる頃まで続いていたそうです。
命の責任
私も子供の頃から犬や猫が大好きで、友達と子猫を拾っては秘密基地や学校の裏でこっそり育てたりしていました。
でも次の日はいなくなったり、家に連れて帰っては親に反対され元の場所に泣きながら返したり…。最後まで育てる事は出来なかった思い出があります。
今はもうあの小学生達も家族を持つ年齢になっていて、あの子猫もだいぶ前に天寿を全うし亡くなりました。
あのニュースをみてあの小学生達を久しぶりに思い出しました。
あの子達の経験は学校では習わない命の勉強。
あの4人組は本当によく頑張ったなと思います。それにすごく貴重な経験をし、悲しい想いもしましたがそれも命の重さを感じる一生の宝物になる経験をした子供達。
きっと素敵な大人に成長したと私は思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。