これまでにないほど近くに

 5月に父が死んだ。
 7月に、四十九日法要をした。
 
 四十九日法要を終えて、東京に戻ってすぐ、歯が猛烈に痛みはじめた。
 歯医者に通うことになったが、歯の痛みは、強くなったり弱くなったりしながら、ずっと続いている。いまも痛い。
 
 8月の終わりごろ、腹の調子がおかしくなった。胃腸科へ行った。内視鏡検査をすすめられた。内視鏡検査の料金は、高い。しかし受けることにした。検査はあさってだ。不安で、胃まで痛くなっている。いまも痛い。歯も痛いし胃も痛い。

 父が死んで、歯が痛くなり、腹の調子がおかしくなった。
 ただそれだけだ。なのにそれだけで、信じられないほど近くに「死」を感じている。
 ものすごく怖い。
 そのせいで、イライラしたり、他人とうまく話せなくなったり、本が読めなくなったり、満員電車のなかで呼吸がおかしくなったりしている。情緒が不安定になっている。つらい。

 「死」を感じながらこんなにみっともない状態になっていることを、父に申し訳ないと思ったりする。つらい。

 だいたいこのようなことを、いま、夫に話した。
「気持ちはわかるけど、まあ、大丈夫だ」と言われた。

 とりあえず、あさっての検査の結果が、なんともなければいいなと思う。

 父が死んでからもうずいぶん時間がたつのに、こんなことで取り乱すとは思わなかった。自分の痛みのことしか考えられないことや、自分のささいな痛みをどこまでも大きくとらえて、その原因を父の死につなげる自分の思考を、薄情だと思う。思いやりがない。と思う。

 つらい。

 そして申し訳ない。