シジフォスの音

 ひとりで悩まないでください。命の相談窓口、24時間ココロダイヤル。
 ところがその番号は、どの時間帯にかけてもいつも「通話中」で、何度、十何度、何十度、百何度かけなおしてもずっと「通話中」で、ぜんぜんつながらなくて、そのうち疲労困憊して薬を飲んで寝てしまって、目を覚まして、なんとなく生きてしまう。生きるうち、また限界が近づいてココロダイヤルにかける。が、やっぱり「通話中」で、何度も十何度も──以下同。そういう番号だった。
 もしかしたらココロダイヤルは、話を聞くことで、ではなく、「電話をかけつづける」というシジフォス的な作業を強いることで、いっとき思いつめた人間を冷静にさせ危機を回避させようとしているのかもしれない。
 この「シジフォス」の日々を生きていたある友人は、生きているうちに思いがけず結婚し、転職し、徐々に安定した人間になっていった。それでも「いまでもごくたまに、あの通話中の音が、懐かしくなる」そうだ。