貼り紙
日曜日、前の晩から泊まりに来ていた恋人と、近くのファミレスに出かけた。
私たちは先月末つきあいはじめたばかりだった。mixiの飲み会で、なんとなく、そういうことになったのだ。なんとなく始まったつきあいだが、彼はスポーツマンで、顔も端正だし、清潔感もあった。思いがけずいい相手と出会えたと思っていた。
ファミレスの前の横断歩道で信号待ちをしていたとき、恋人が「あ」と言った。
「え、なに?」
「いや、あれ。貼り紙」
恋人が左側を指さしていた。電信柱があった。紙が貼ってある。不動産屋の広告だ。
「売マン」
「マンションの広告でしょ」
「うん。でもあれ見るたび思うんだけど、なんか卑猥じゃない?『うりまん』って」
私は、とりあえず曖昧に笑った。ファミレスで向かいあってカレードリアを食べた。会計は割り勘にした。アパートに帰って、電話とメールを着信拒否にした。mixiのアカウントをブロックした。それから二度と会わなかった。