おみくじ

(いまのままでいいのだろうか)
 道ならぬ恋とか。不貞とか。不倫とか。婚外恋愛とか。そういうことをしている人間は、誰でもいちどはそう思うんじゃないだろうか。深大寺でバスを降りたわたしは、しばらくその場に立ったまま、そんなことを考えていた。秋。薄い青色の空と紅葉は美しかったが、風は冷たかった。
 リスクしかない恋愛に酔っていられた時期はとうに過ぎた。相手にも自分にも関係そのものにも、わたしは冷めてしまった。相手も同様に冷めている。まわりをうまく騙しているつもりで、じつはまわりが騙されたふりをしてくれていたことにも、最近気づいた。
 深大寺のおみくじを引くのはきょうで2回目だ。前回はふたりで行って、ふたりとも凶を引いた。なのにわたしは、そこで発奮してしまったのだった。
 本堂へ行こう。おみくじを引いて、それからお蕎麦屋さんで天もり蕎麦とビールを頼もう。さあ早く。心のなかで自分に喝を入れ、わたしは歩き出す。