プロダクト成長に関わるすべての人に役立つ!チームの目線をそろえるインセプションデッキ活用法
開発チームとのコミュニケーションの悩み
プロダクトデザイナーにとって、開発チームとの協力体制の構築方法は、よく課題に上がります。
例えば、エンジニアに仕様背景が伝わっていないケース。そうすると、デザイナーからのコミュニケーションが社内外注のように一方通行になったり、仕上がった実装が想像と違っていたりと、トラブルに繋がることが多いです。
また、お互いに大切にしているものが違うと、「使い勝手の改善のために、この仕様を入れたい」と考えるデザイナーと、「実装コストが高すぎる。そこまでする必要があるのか?」と考えるエンジニアで、コミュニケーションの齟齬が生じやすくなります。
なぜワークショップを取り入れたか
マネーフォワードのValueである「User Focus」という文化は、エンジニアにも根付いており、常日頃、エンジニアの当事者意識の高さには助けられてます。
それでも、デザイナーと開発内とのコミュニケーションで、議論が平行線になったり、仕様の認識齟齬が発生してしまうことがありました。
エンジニアもデザイナーも、開発へのモチベーションは高いのに、問題が起こる原因はなぜだろうと振り返った時に、開発前に、チームの視点をすり合わせできていないのが原因だと考えました。
チームが向かうゴールとプロジェクト背景の理解が、すり合っていない状態では、前提が違うことからスムーズなコミュニケーションが難しくなります。
そこで、この課題を解決すべく、取り入れたのがインセプションデッキでした。
インセプションデッキとは?
インセプションデッキとは、「アジャイルサムライ」というアジャイル開発の入門書/教科書的な立ち位置の本で、紹介されているフレームワークです。
インセプションデッキは、開発前にプロジェクトへの期待と認識を揃えて、開発チームやステークホルダーと、共通理解を得ることを目的としています。(本書では「バスに然るべき人を乗せる」「バスが然るべき方向を向いている」という表現をしています)
インセプションデッキの「10の手強い質問」
インセプションデッキのワーク内容は他サイトにも解説がありますし、ぜひ「アジャイルサムライ」を読んでほしいので、ここでは内容を簡潔に紹介します。
インセプションデッキでは、以下に紹介する10の手強い質問をベースに、開発チーム全員でディスカッションを行います。また、プロジェクトの方針を議論するため、必ずプロダクトマネージャー(PdM)の参加が必要です。
これらの質問に対して、参加者全員に回答してもらい、ディスカッションをしながらチームとしての答えを導きます。ディスカッションの過程でお互いの視点を理解でき、それを踏まえた上でチームとしての方針をまとめることができます。また、関係者へ説明する資料として活用することもできます。
私たちの開発チームでの活用法
インセプションデッキは、一般的にはプロダクトの立ち上げ期に活用されることが多いですが、私たちは継続開発のプロジェクトでも取り入れることにしました。
私たちの担当するプロダクトは、小さな改善であれば短期間のスプリントで開発できますが、プロジェクト化される大規模開発も多く、ものによっては1年以上かかることもあります。この長期プロジェクトでは、特に開発チームとの目線合わせが重要なので、インセプションデッキを有効活用できると考えました。
ここから、ワークの実施方法について説明します。
私たちのチームは、PdMが東京、デザイナーと開発チームが福岡に在籍しているので、オンラインでMiro(オンラインホワイトボード)を使ってワークを行います。
開発チームからのワークの参加者は、プロジェクトに関わる全員です。大型開発では、PdM、デザイナー、エンジニア、QA、スクラムマスターなど、複数の職種が開発メンバーとして加わります。ワークのファシリテーターは、PdM、デザイナー、スクラムマスターと、その時の状況をみて決めています。
1〜2時間程度のワーク設計にしているため、インセプションデッキの質問は3〜6個程度に絞っています。
初めてインセプションデッキを取り入れた時は、全ての質問を行ったのですが、5時間以上かかってしまいました(笑)そうなると、メンバーのスケジュール調整も大変です。
新規のプロダクトであれば、インセプションデッキに5時間をかける価値はあると思いますが(実際、アジャイルサムライでは数日〜2週間程度の見込みとあります)私たちのような、既にリリースされているプロダクトの継続開発では、少し時間がかかり過ぎている印象がありました。
そこで、ワークショップでの質問は、プロジェクト性質によって絞りました。例えば機能開発であれば、「1.我々はなぜここにいるのか?」や「2.エレベーターピッチを作る」など、「この機能開発プロジェクトはユーザー価値につながるのか?」という視点を掘り下げるワークをします。
法制度対応であれば。改修内容がほぼ決まっているので、「5.ご近所さんを探せ!」や「7.夜も眠れなくなる問題はなんだろう?」などで、「ステークホルダー洗い出し」や「リスクマネジメント」を手厚く行います。
どのプロジェクトでも、必ず必要だと考えているの「9.何を諦めるのかをはっきりさせる」で行うトレードオフ・スライダーです。
この質問を通して、プロジェクトの優先度を開発者全員で理解することが重要です。例えば、機能数を多く開発すると、それだけ機能開発やQAテストに時間がかかります。「機能を盛りだくさんにして、かつスケジュールは早く」は同時には成立しません。
UXの充実も、残念ながら同じくコストがかかります。「よく使う機能なのでユーザビリティテストを徹底する」のか、「この機能がなくて困っているユーザーがいるから、出来るだけ早く出したい」のか、それはプロジェクトの性質や周辺環境によります。プロジェクトの優先度は、機械的には判断できません。
トレードオフ・スライダーのワークショップでは、異なるスライダーを同列に扱うことはできません。「期限もスコープも同じくらい大事」と位置付けることはせず、必ず項目間では優先度の優劣をつけます。
インセプションデッキを取り入れるメリット
インセプションデッキを取り入れる前は、PdMがプロジェクト概要や仕様を共有してから、デザイナーとエンジニアが個々に作業していました。
そのため、エンジニアが先行開発したプロトタイプと、デザイナーのプロトタイプが全く違っていたことがありました。
一つのチームというより、職種単位で分断され、個人の士気は高いのに、コミュニケーションが取りづらくなってしまっていました。
PdMから機能概要の説明があれば、「なぜこのプロジェクトを行うのか?」を十分理解できるのでは、と考える人もいるかもしれません。
私もワークを始める前はそう考えていましたが、実際に10の質問に答えようとすると、なかなか回答できないことに気付きました。
インセプションデッキを取り入れると、「なぜこのプロジェクトを行うのか?」という議論から、開発チームも加わることができます。開発前から開発チームみんなで、認識すり合わせや自己開示をすることで、アジャイルサムライで表現している「お互いが同じバスに乗った」状態になることができました。
インセプションデッキのファシリテーションをやってみて
私自身、何度かインセプションデッキのファシリテーションを経験しました。(キックオフに5時間かけたのは私です😂)
これまで、人前で喋ることも、会議の進行をする経験も少なかったのですが、インセプションデッキのファシリテーションは、ワークショップにおけるタイムマネジメントや課題設定力を鍛える、良い経験にもなりました。
前述の通り、インセプションデッキのファシリテーションは、どの職種がやってもいいものですが、デザイナーが担当することで、チームビルディングの役割も、デザイナーとして担うことができるので、オススメです!
さいごに
マネーフォワードの福岡開発拠点は、より良い開発を行うために、みんなで切磋琢磨できる環境です。
そんな福岡開発拠点では、エンジニア、スクラムマスター、QAエンジニアなど、多くの職種で積極採用中です。
また、マネーフォワードでは、プロダクトデザイナーも大・大募集しています。SaaSのプロダクトで働くってどんな感じ?どんなメンバーが働いているの?など、素朴な質問も大歓迎です。
まずはカジュアル面談で、気軽にお話しましょう!