技術士はアイデンティティクライシスの処方箋になるか?
アイデンティティクライシスとは何か
個人が自己のアイデンティティや自己認識に対して、不確かさや混乱を経験する心理的な状態を「アイデンティティクライシス」と呼びます。
30-40代の管理職が抱えるキャリアの問題として、最近注目されているようです。
私は化学系のメーカーで技術者として働いていますが、技術者においてもアイデンティティクライシスは重要な問題です。
技術開発の仕事をバリバリこなしていた技術者がチームリーダーとなり、苦しんだ末に転職したという話はよく聞きます。
技術をもっと追求したいけど、リーダーとしてはGOを出すことができない。
技術者としてのアイデンティティと、リーダーとしての自分の対立。
あるいは少しでも良い品質を出したいという仕事をしている自分と、家族との時間を大事にしたいという自分の対立もあります。
私も30代となりチームリーダーを経験し、今までと異なる仕事の進め方に漠然とモヤモヤしていました。
もちろん転職などで解決すれば良いのですが、私は転職を考えていませんでした。
そんな時に知ったのが「技術士」です。
技術士になることで、技術者としてのアイデンティティを取り戻すことができるかもしれない。
その様に考え、技術士試験を受けたのでした。
技術士試験はケアである
実は技術士試験は、教科書的な知識だけで合格することは難しい試験です。
では他に何が必要かというと、自身の仕事経験を専門性やリーダーシップなどの観点から整理すること。
もちろん仕事の情報をそのまま書くわけではありません。
情報管理上の問題もありますし、経験が設問にそのまま対応しているわけではないでしょう。
重要なのは、設問の文脈で経験を再解釈することです。
経験を技術士コンピテンシーの観点から整理するのです。
技術士の立場から、過去の仕事をレビューする感覚と言えるかもしれません。
例えば以下のような問題が出題されています。
そういえば、過去に似た経験をしたな。
普段は製品を提供する側だけど、逆の視点で書けるかもしれない。
少し違うが、構造的には同じ経験をしたな。
この様に考えを巡らせて、自己の認識をアップデートする。
この技術士試験対策を通して得られる学びが、アイデンティティクライシスを克服することにつながると考えています。
なぜなら、アイデンティティクライシスの克服には、自己探求や自己理解が重要であるためです。
自己理解が深まることで、混乱状態から回復し、自己肯定につながる。
「技術士としての自分」という視点から自己観察することで、技術者としての自分と、リーダーとしての自分を肯定することが可能となる。
技術士試験対策という自己探求が、自分は何者であるかという理解につながります。