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「やりたいこともないです。自殺するしかないですか」
私は大学卒業後、就職もせず学生時代からのコンビニのバイトを続けて生活しています。彼女どころか友達すらおらず、やりたいこともないです。自殺するしかないですか。
東洋の魔術師(姫路市/26歳)
僕が20代半ばに付き合っていた女のコはAV女優でソープ嬢だった。人気商売ゆえに、彼女には2ちゃんねる(現5ちゃんねる)にスレッドが立っており、そこに書き込まれた自身への誹謗中傷を見ていつも泣いていた。そして、誹謗中傷を見た後にソープの仕事が入っている時は、いつものように「もう死ぬ」と言って包丁を持って暴れたり、幹線道路に飛び出したりした。
暴れる彼女をなだめたある日の夕方、書店で『自殺されちゃった僕』(吉永嘉明著/飛鳥新社発行)という一冊の本が目に留まった。まるで、自分の行く末を予感させるようなタイトルに、中身を確認することなくレジに持っていった。
著者の吉永さんは、5年の間に仕事仲間と親友と妻を相次いで自殺で亡くし、自身も極度のうつ状態に陥ったことからろくに働けず、家賃17万円の家から一転、ガスも水道もないゲストハウスに移り住んだと書かれていた。当時、雑誌編集者だった僕は、この吉永さんの現状が知りたくなりコンタクトを取ることにした。
知り合いの編集者を介して新宿の喫茶店ではじめて会った吉永さんは、お世辞にも普通とは言い難い状態で、僕が『自殺されちゃった僕』のその後について書いてほしいとお願いしても、反応が鈍く、話が通じているのか心配になるほどだった。どうにか原稿を書いてもらえることになり席を立つ際、吉永さんが手づかみで持っていたいびつに膨らんだ本が目に入った。
「その本なんですか?」
「これは私がつくったコラージュ本です」
それは『自殺されちゃった僕』の中で、
「金がないから、BOOKOFFの100円コーナーに行って、『Newtone』『WIRED』などヴィジュアル雑誌を買い、気に入った写真を切りとって、魂を癒すためのコラージュ作品を作る。それが唯一、僕を慰めてくれた」
と記されていた、まさにそのものだった。
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その後、吉永さんの連載を担当することになり、数年間公私ともにかかわるのだが、付き合いはじめた当初は特に「死にたい」と口にすることが多かった。そして、「コラージュをつくっている時だけは死にたい気持ちを忘れられる」らしく、作品の量は増える一方だった。実際、コラージュの制作は「コラージュ療法」としてカウンセリングの現場などで用いられる治療法のひとつのようだが、吉永さんはそうとは知らず偶然その行為にハマり、命を繋ぎ止めていたのだ。
2014年まで吉永さんはコラージュをつくりながら生きていた(精神状態の安定に伴って、出会った当時ほどのペースではコラージュは制作されなくなった)。しかし、現在は行方不明である。この件については今年、五庵保典さんによる『吉永嘉明を探せ!』という連載が『情況』誌上で開始されるので、そこで明らかになることもあるかもしれない。
吉永さんがコラージュによって最終的に救われたのかどうかはわからない。だが、「うつは心の風邪」とはよくいったもので、長年吉永さんと交流があった僕もうつを患い、希死念慮に駆られた時期があった。それでも首を吊ることはできず、手元にある分の向精神薬と睡眠薬を大量の酒で流し込むオーバードーズを繰り返す日々だった。そんな時、ふとコラージュをつくってみようと思った。それまで、いわゆるアート作品をつくった経験など1度もなかった。わずかに残っていた生きたいと思う気持ちが、僕をコラージュ制作へと向かわせたのだろう。
素材になりそうなイメージを探して切って貼る。ひたすらそれを繰り返して自分なりのゴールを目指す。たったこれだけのことだが、その行為に没頭することで現実世界を忘れ、今自分がつくろうとしている理想の世界に没入できた。吉永さんがいったように、確かにその時は死にたいという気持ちを忘れられるのだ。なおかつ、作品の完成を目指す生産的な姿勢はポジティブな感情を喚起させ、実際に完成すれば幸福感が味わえた。
やりたいこともないです。自殺するしかないですか。
僕自身も過去にそう思っていた。しかし今は、コラージュをつくることがやりたいことになり、おまけにそれが仕事にまでなった。あなたもコラージュをつくってみてはいかがでしょうか? BOOKOFFの100円コーナーに行って、ヴィジュアル雑誌を買い、気に入った写真を切りとって貼るだけです。
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