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「オリジナリティを出すために何が必要か」

私はネイリストをしています。オリジナリティを出すために何が必要か悩んでいます。

ケラ(大阪/21歳)


昨年末、HIDDEN CHAMPIONがキュレーションを行うグループショー『AN ANNUAL 2024』(伊勢丹 新宿店本館6F アートギャラリー)に参加した。そこで僕は計8点を出品し、そのうちの2点は新基軸の作品だった。

自分的には手応えのある作品だったので、「観に行きますね」と連絡をくれたとある知人に、「今回新しい方向性の作品も出しました!」と伝えたが、その後、特に反応はなかった。すると年始にその人から電話があった。

「昨年末は連絡せずにすみませんでした。正直、新作がアレだったので何と声をかければいいかわからず、新年の挨拶を兼ねて連絡させてもらいました」

要はお前の作品が面白くないから気まずかったというのだ。なんて正直な人なんだろう。人によっては怒る人もいるだろうが、僕はこの人は信用できると思った。そして、この人に悪気がないとわかるのは、挨拶もそこそこに、今年、某アパレル企業と事業を立ち上げることになったので協力してほしい。ついては、「奇太郎さんっぽい感じで好きにやってください!」という。おそらくこの「奇太郎さんっぽい感じ」がオリジナリティにあたるのだろうが、自分ではそれが何なのかわからない。「っぽい感じ」でつくったものが「アレだった」にならないだろうか……。


僕が道を踏み外すきっかけをつくってくれた恩人の林文浩氏(『DUNE』編集長)は、インタビュー等で『DUNE』のコンセプトを問われた時、いつも「オリジナリティの追求と模倣の追放」と答えていた。大学生の僕にはそれがまぶしくて、ある日、酒の力を借りて弟子入り志願に行った。そうしてわかったのは、先の言葉は(©️林文浩)ではなく、『Harper’s BAZAAR』誌のアートディレクターとして知られるアレクセイ・ブロドヴィッチが創設した『デザイン・ラボラトリー』というワークショップが掲げていたスローガンだった。とはいえ、実際に林さんのつくる雑誌がそれを体現していたのは間違いなかった。

『DUNE』編集部に顔を出しながら、単位を取るためだけに学校に通っていた。一切、学校の授業に興味が持てず、いつも一番後ろの席で寝ていたのだが、ある日、教授から居眠りを注意されたことがあった。

「君はなぜ勉強をしないといけないかわかるか? それはこれからの時代、新しいものをゼロからつくることができないからだよ。例えば、高枝切りバサミだって元々ハサミというものがあったから発明されたもの。あらゆるものが発明し尽くされた現代においては、換骨奪胎(先人の形式に工夫を加えて自分独自の作品にすること)なくして新しいものは生まれない。だから、色んなことを知っている人は有利になるんだよ。勉強はその役に立つ」

ぐうの音も出ないとはこのことだ。子供の頃から大人に言われ続けた、「勉強しなさい!」の中で一番説得力があった。

僕には20代の頃、林さんを含め、強く憧れていた5人の先輩がいた。その人たちの仕事のやり方、遊び方、インプット、アウトプット、真似できるものは全て真似た。自分の好き嫌いや向き不向きも問わず、盲目的に真似ていたので、そのうちに真似が続かないものも出てきた。そうして、5人の真似の集合体が徐々にシェイプされ、そこに自分発で好きになったものをくっつけたりしながら今に至る。

5人に憧れて真似し続けてきたはずなのに、結果的には5人の誰とも似ていない訳のわからないポジションにいる。これぞ換骨奪胎である。あなたも憧れのネイリストの真似を徹底的にやってみてはいかがでしょうか? 模倣を追放せず、逆に追求することでオリジナリティと出くわすかもしれません。

                            岡本奇太郎 Analog Collage 2023

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