⑥さんとななかいき
私の両親はすでに亡くなっていて父は私がお菓子屋になったことを知らず母は店ができたことを知りません。とうぜん実家ももうありません。家が安心できる場所であったという経験は私にはないです。驚かれそうですが私にとってはそうでないことの方が驚きです。それが私の現実で、それを私がどう忘れようと自由です。自分にはどこにも帰る場所がないということはよく思います。母の死は、次は自分の番だという消えない思いを私に植え付けました。何をしていてもどこかでそのことを意識しています。死にたいと思ったことはありませんが、このままだとあっというまにその順番がくると思っています。死の水で満ちたプールに浮き輪も持たずに浮かんでいるのです。
母の三回忌できょうだい4人揃いました。お墓の前で手を合わせて、しばし話しました。三回忌って3周年のことじゃないからね。2年経ったということ?そう。父は来月で七回忌なんだよね。それは6年経ったってこと?そうだよ。七回忌やる?どーする?今ついでにやっちゃったらダメなの?いんじゃない?やっちゃおうよ。ふたたび静かに手を合わせる。きょうだいは歳の順に横並びしていた。別に意識してないけどいつもそうなる。姉がガスバーナーをカチッと鳴らして点火、ゴォーと線香置き場ごと燃やした。お姉ちゃん豪快だね。それ寿司屋が炙りエンガワとか作るやつでしょ。なんで持ってるの?あーわたしお料理好きだから、プリン焦がしたり締めサバ炙ったりしてるよ。まじか。家でやるの怖くない?ちょっとそれ貸して。怖い怖いと言いながら手に持った線香の束に火をつける。炎が見えないね。ここいつも風強くない?
今日すごい、晴れてるね。雲ひとつないね。
姉の車に乗り込むときも前から歳の順だった。