日の名残り第7話あ

「MOON あなたは知ってるの?MOON あなたは何もかも…」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解説・第7話

お~お~~~~お~~~

お~お~~~~お~~~

お~お~~~~お~~~~お~~~

うっうっう… グスン…

やるやんけ、カツオ…

鳥肌モンの声や…

す、素晴らしい…

伝説とされるリンキンパーク「LIVE at テルアビブ」での、ボブ・マーリー『NO WOMAN NO CRY』から『The Messenger』へのメドレーですね…

この鉄板メドレーで堕ちなかった女はいない…

あのライブでは、『The Messenger』のイントロ最中にギターのブラッド・デルソンとボーカルのチェスター・ベニントンが内緒話をして、急遽『ノー・ウーマン・ノー・クライ』が歌われた…

そして、そこでちょっとしたハプニングがあった…

ハプニング?

チェスターは『ノー・ウーマン~』を歌い出した。すると観客は、突然のことにまず驚いて、それから大きく喜んだ…

I remember when we used to sit
In the government yard in Trenchtown…

1番の出だしを歌ったチェスターは、続きを観客に振る。

でも観客は歌詞の続きを歌わずに、サビの「no woman no cry」を繰り返す。

チェスターは笑いながら「beautiful」とだけ言い、『The Messenger』を歌い始める…

それが、どうしたんや?

チェスターが振った後に続く歌詞は、本来こうだった…

Oba - obaserving the 'ypocrites
As they would mingle with the good people we meet

「善人面した奴らが、善良なる人々の中に紛れ込もうとするのを、俺たちは監視してるんだ」

つまり「公安がファンのふりして紛れ込んでるぞ!」ってことをチェスターは観客に歌わせようとしたんだね…

公安!?

ハンチング帽かぶって、耳にイヤホンつけた鋭い目つきのオッサンたちや…

今時そんな古風なスタイルしてないでしょ…

このライブがあった頃は、イスラエルがガザ地区を空爆したこともあって、国際世論だけでなく、イスラエル国内でも和平派が大規模な反対運動をしたりとピリピリしてる状況だったんだ…

だからリンキンパークのライブにも、公安当局が紛れ込んでいたのかもしれない。彼らの歌はメッセージ性が強くて、聴く者の魂を大きく揺さぶるからね…

そしてチェスターは敢えて、ボブ・マーリーがエルサレムの「嘆きの壁」のことを暗喩的に歌った『NO WOMAN NO CRY』を歌い、ライブ会場の状況にも当てはまる歌詞の一文を観客に振った。

でも観客は歌わなかった。

歌詞が咄嗟に思い浮かばなかったのか、わざと歌わなかったのか…

どっちやろな…

どっちでもいいことだ…

カチャ!

しもたァ!

また逃げるチャンス逃してもうたやんけ!

なんでワイがこうなっとるか知らん人は、前回や前々回を読んだらええ!

念の為、我々の簡単な自己紹介も…

それから『日の名残り』のほうもね!

ーー『日の名残り』主要登場人物ーー

執事長スティーブンス(主人公)
女中頭ミス・ケントン(結婚後はベン夫人)
館の主人ダーリントン卿(英国の大物貴族)
新しい主人ファラディ氏(アメリカ人の富豪)
(映画版はファラディ氏がルーイス氏に変更)

さて、例の話の続きをしてくれ。

スティーブンスの旅が「約束の地」の観光案内になっているということを。

まだ1日目しか説明していなかったはずだ…

そうでしたね。

『日の名残り』は、ダーリントン・ホールでの過去の物語と、スティーブンスの「現在」の旅の物語が交互に描かれています。

そして表向きのストーリーとは別に、全体を通して「ユダヤの歴史」と「神としもべ論」が描かれています。ダーリントン・ホールでのシーンは「大英帝国の紹介」を兼ねており、コーンウォールへの自動車旅行は「イスラエルの紹介」を兼ねている仕組みになっていました。

スティーブンスが運転する車「フォード」「契約の箱」に喩えられていたんですね。

小説内で描かれる旅の日程は、全6日間。

旅の1日目は、モーセが山に登って「約束の地」を見渡すシーンの再現です…

今朝、あの丘に立ち、眼下にあの大地を見たとき、私ははっきりと偉大さの中にいることを感じました。じつにまれながら、まがいようのない感覚でした。この国土はグレートブリテン、「偉大なるブリテン」と呼ばれております。少し厚かましい呼び名ではないかという疑義があるやにも聞いておりますが、風景一つを取り上げてみましても、この堂々たる形容詞の使用はまったく正当であると申せましょう。

カズオ・イシグロ; 土屋 政雄『日の名残り』早川書房Kindle版

小高い丘に登ったスティーブンスは、絶景パノラマビューに感動するのですが、これはモーセがヨルダン川東岸のネボ山に登り、「約束の地」を見渡した時のシーンに重ね合わせているんですね…

「約束の地」である「イスラエル」というのは、イサクとリベカの子であるヤコブに与えられた名でした。それは「偉大なる神の勝者」を意味します。ヤコブが天使とレスリングをして勝ったことで与えられた名前なんですね。

カズオ・イシグロは「イスラエル」という名前が「大袈裟な名前」だけど「その国土にふさわしい」と、「グレートブリテン」を使って説明しているんです…

ヤコブと言ったら羊やな…

スティーブンも丘の上から羊が見えるって言うとった…

それじゃあ2日目は?

今度は、逃げたニワトリのネリーと亀が出てくる日!

亀といえば、坂本龍一の父ちゃん「坂本一亀」説もあったな…

せやけど、鶴のワイ的には「かごめかごめ」を出さんわけにはいかへん…

「ユダヤと亀」と言ったらカゴメやろ…

うわあ…ナニコレ…?

ヘブライ語で「鶴と亀がすべった」ってそういう意味なの?

ん?

鶴と亀…?

せや、鶴と亀や。

ねえねえ、もしかしてニワトリって…

ほら、どっちも頭の上に赤いモノがあるし…

せ、せ、せや!

「ニワトリのネリー=鶴」やんけ!

なんで今まで気が付かんかったんや!?

さすが元日本人だけあるよね、カズオ・イシグロは。

ちなみに「ネリー」という名前は、ユダヤ人の作家でノーベル文学賞を受賞したネリー・ザックスから取られている。

Nelly Sachs(1891-1970)

ナチス・ドイツの迫害を逃れてスウェーデンに亡命し、ユダヤ民族の悲嘆を描いた多くの作品を残した。1966年にノーベル文学賞を受賞したんだけど、その受賞理由は「イスラエルの運命を伝える優れた詩と劇作に対して」だったんだね。代表作は『エリ ー イスラエル受難の神秘劇』だ。

なんか切なそうな作品だね…

こんな感じやろな…

あかん…泣けてきた…

2日目の最後には「ガリラヤ湖(ティベリアス湖)」も描かれている。

主人公スティーブンスは「ガリラヤ湖」の投影である「モーティマーズ・ポンド」に行って「ある集団」を見かけるんだ…

かつてガリラヤ湖にいた「ある集団」といえば…

イエスと弟子たちだ!

その通り。

乗っていたフォードのラジエーターの冷却水が切れて、スティーブンスは近くの屋敷に助けを求めた。屋敷から現れた男は、この館の主である大佐の従卒だったという。

この男がラジエーターに水を注いでくれるんだけど、彼はきっと「洗礼者ヨハネ」のことだよね。

さて、元従卒の男の話では、「大佐」は近所の池に釣りに出かけているという。美しい池だから、ぜひ行って来いって言うんだね。そしてスティーブンスは言われた通りに見に行った…

もう三十分以上もすわり、池のあちこちで静かに釣糸を垂れている人影をながめております。いま十二、三人は見分けられますが、低く垂れている木の枝が強い光と影のコントラストをつくって、釣人の風貌などはまったくわかりません。お世話になったお屋敷の主人はどの人でしょうか。池に着いたら、どの釣人が大佐か当ててみようと楽しみにしてきましたが、このゲームはあきらめねばなりますまい。

カズオ・イシグロ; 土屋 政雄『日の名残り』早川書房Kindle版

これが意味することは…

イエスと12使徒!

そしてスティーブンスは「否認」について思いを巡らす。すっかり「イエス」モードだね。この夜は「馬車屋」という宿に泊まる。

厩か!

ちなみに、この宿の酒場でスティーブンスは「刻を告げるめんどり」のギャグをかます。やかましい女将さんのことを言ったんだけど、まったくウケなかった。その後にスティーブンスは、あのギャグが誤解を招いていないか気にする。女将さんの顔が「めんどり」に似ているって誤解されたんじゃないか、って。

これは英国の政治家グラッドストンの逸話が元ネタだ。グラッドストンは、スティーブンスのモデルであるユダヤ系首相ディズレーリ最大のライバルだった。ビクトリア女王はディズレーリを寵愛する一方で、グラッドストンを露骨に冷遇した。

グラッドストンは、そんな女王のことを「ロバのような人だった」と喩えた。

ロバ!?

マヌケでトンマの代名詞やんけ!

いちおうイエスがエルサレムに入城する際に乗っていたロバに喩えたんだ。女王が「大英帝国という巨大な存在を黙々と背負っていた」という意味で。でもこれは建前だね。真意はやっぱり違う。うまいよね。

さて、3日目はヨーロッパでのユダヤ人迫害の歴史だ。

スティーブンスは「ガス欠」で車を乗り捨てて、例の不思議な村モスクムに泊まることになる。

ユダヤ人迫害とガス…

二日目の「ラジエーターの水」だったり、三日目の「ガス欠」だったり、車のトラブルには全て「理由」があったんだね…

よく出来てるよね。

さて、モスクム村では村人と「品格」問答を繰り広げる。村人たちは、誰にでもわかる「何か」がスティーブンスにあるって言うんだね…

「ハリーの言ってることはほんとうですよ、旦那様。本物の紳士か、それとも着飾っただけの偽物かは、見ればわかります。たとえば、旦那様ご自身ですが、それはお洋服のカットもすばらしいし、口のきき方もなんともいえず上品ですが、なんかほかにありますよ。旦那様を紳士だって告げる何かが…。これだって指し示すのはなかなか難しいですが、目のある人なら誰にでもわかる何かがありますね」

カズオ・イシグロ; 土屋 政雄『日の名残り』早川書房Kindle版

これはスティーブンスが「ユダヤ系」だと、「目のある人なら誰でもわかる」っていうことなんだよね。

誰々には「ある」とか「ない」とか言っている「品格」っていうのは「ユダヤ人の特徴」のことを言っているんだよ。

・・・・・

そして4日目は、目的地コーンウォールに到着する。コーンウォールとはエルサレムのことで、ミス・ケントンとの面会場所ローズガーデン・ホテルは「嘆きの壁」のある「神殿の丘」を指していた。

前回この話を聞いた時は、鳥肌モンやったで。

そして6日目は…

あれ?5日目は?

この物語は「ユダヤ」の物語なので、5日目はない。

4日目のあとが6日目になっているんだ。

ユダヤ教では金曜日が安息日だからね。あえて5日目を飛ばすことで「主人公はユダヤ系である」ということを臭わせているんだ。

そういや、映画版ではダンスホールで『ブルー・ムーン』が流れとったな。

それまでは商業音楽なんか一曲も流れんかったのに、あそこで突然かかるんや…

なんか、それまでの重厚なムードが、一気に世俗的で軽薄な感じになったよな。

確かに、なんであんな「ベタ」で「おセンチな曲」を使ったんだろう?

それまでは「これぞイギリス映画」って感じだったんだけど…

僕も最初は不思議に思った。

けどね、あとから気が付いたんだ。

あの歌には重要な秘密があったんだよ…

『ブルー・ムーン』はただのラブソングじゃないんだ。


ただのラブソングとちゃう?

どうゆうこっちゃ!?

ミス・ケントンとの待ち合わせした場所は、ローズガーデン・ホテルの食堂だったね。

小説版では、食堂は「母屋」ではなく、建て増しされた「細長い平屋」…つまり「嘆きの壁」にあった。

だけど映画版では、待ち合わせ場所が「母屋」に変わったんだ。

食堂が「岩のドーム」に移ったってこと?

その通り。

だからこんな風に、円形の回廊状になっていた…

映画『日の名残り』より(@Amazonビデオ)

そして中央部分はダンスホールになっている。

っちゅうことは…

そう。

「岩のドーム」と全く同じ構造なんだ。

そして中央のダンスホール部分とは…

何やアレ!?

恐竜の化石か!?

げ、月面っぽいよ!

これが「聖なる岩」だよ。

アブラハムが息子のイサクを神のために捧げようとした台であり(イサクの燔祭)、ダビデ王がこの岩の上に契約の箱を納め、ソロモン王はこの岩の上にエルサレム神殿を建設した。

そしてムハンマドは、この岩の上から大天使ガブリエルに導かれて宇宙を旅し、アッラーのもとへ至ったんだ。

ユダヤ教とイスラム教にとって、非常に大切な場所なんだね。

月の表面っぽいから『ブルー・ムーン』なの?

違うよ。

『ブルー・ムーン』の歌詞が『日の名残り』の物語そのものなんだ。

主人公スティーブンスが「ミス・ケントンに秘密を知られているかどうか確かめに行く物語」のね…

ちなみに「Kenton」って名前なんだけど、「ken」という単語はスコットランド方言で「知っている」って意味なんだ。そして「kent」はその過去形で、「kent on」とは…

「~に関して知っていた」か…

それを頭に入れて歌詞を見てみよう…

この歌も「恋愛」について歌っているようで、実は違うことを歌っているんだ…

『日の名残り』と同じように…


『BLUE MOON』

作詞:ロレンツ・ハート
作曲:リチャード・ロジャース
日本語訳:おかえもん

Blue moon, you saw me standing alone
Without a dreaming my heart
Without a love of my own

Blue moon, you knew just what I was there for
You heard me saying a pray’r for
Someone I really could care for

And then there suddenly appeared before me
The only one my arms will ever hold
I heard somebody whisper ”Please adore me”
And when I looked, the moon had turned to gold

Blue moon, now I’m no longer alone
Without a dreaming my heart
Without a love of my own

もしや…

「adore」がキーワードなんとちゃうか?

主に女性が「愛してる」って言うときに好んで使う言葉やけど、そもそもの意味は「(神に対する)崇拝」や…

確かに…

そっちの意味で歌詞を読むと…

あっ!

そうなんだよ…

この歌は「祈りが通じて神のもとへ導かれた者」の歌なんだね…

つまりムハンマドのことだ。ムハンマドが大天使ガブリエルに導かれるシーンそっくりのシチュエーションなんだよ。

天に昇ったムハンマドは神から「絶対的な崇拝」を求められる。

そして青い月が金色に変わる…

月の色が「青」から「金」に変わるって、どうゆう意味だろう?

恐らくコレのことだろう…

青い月と、金色の月…

Dartmouth Univ. 「十字軍の歴史」より

ぅわあ!

なんだコレ!?

「岩のドーム」の隣にある「鎖のドーム」だ。

すぐ隣にあるので、写真によっては「岩のドーム」の陰になって見えない場合もある。さっき提示した「神殿の丘」と「ローズガーデン・ホテル」の対照図みたいにね。

ちなみに、スティーブンスとミス・ケントンが別れたバス停も、ここ「神殿の丘」にあるドームの1つがモデルになっている。

こんな風に描写されていたバス停だ。

 雨は相変わらず降りつづ、私どもは車から降りると、急いで停留所に駆け込みました。この停留所は、タイル葺きの屋根までついた、石造りの頑丈そうな建物です。たしかに、畑以外に何もない平坦な地面の真中に、雨風にうたれながら一つだけぽつんと立っているのです。相当丈夫な造りでなければ、長くはもちますまい。内部は、いたるところでペンキが剥がれ落ちていたものの、十分に清潔に保たれておりました。(中略)道路の向こう側はやはり一面の畑で、電信柱の列が遠くまでつづいておりました。

カズオ・イシグロ; 土屋 政雄『日の名残り』早川書房Kindle版

これは「精霊のドーム」のことを指している。

神殿の丘の広場にある大小様々なドームの中で、ひとつだけぽつんと遠くに離れているドームだ。

ISLAMIC LANDMARKS「Dome of the Spirits」より

うひゃあ!

確かに「タイル葺きの屋根」があって「頑丈な石造り」で、しかも内部は「ペンキが剥がれ落ちてる」みたいに見える…

向こう側には「電信柱の列」もあるやんけ!

なんやねんコレ!?

カズオ・イシグロは、コーンウォールと「神殿の丘&嘆きの壁」を完璧に重ね合わせているんだ。

雨が降るのも「嘆きの壁」だからなんだよ。あの壁は元々アラビア語で「 el-Mabka」と呼ばれていた。これは「涙の場所」という意味なんだ。

主人公のコーンウォールへの旅は、自身のルーツを再確認する旅でもあったんだね…

・・・・・

そしてこの『ブルー・ムーン』という歌が映画版『日の名残り』に使われたのは、こんな風にも解釈できるからだ…


1番
蒼き月よ あなたは見ていたのですね
私がひとりで立っていたところを
希望を失い 主の愛を見失っていた姿を

2番
蒼き月よ あなたは知っていたのですね
私がそこで何をしていたのかを
私が心から欲するお方に対して
ひとり祈りを捧げていたことを

Cメロ
突然それは私の身の上に起こった
私が手を放すことのない唯一の存在
そして私は囁くような声を聞いた
「私を良き父だったと言ってくれ」

見上げると月は金色に輝いていた


え?

これって…

スティーブンスのオトンの歌か…?

そうだね。

1番で「蒼き月」が「見ていたもの」とは、スティーブンスのお父さんが、三階の窓から見える庭で、頭を下げて石畳の出っ張り部分を注視していた姿のことだ…

そして2番で「蒼き月」が「知っていたこと」とは、それが「祈り」を捧げている行為だったということ…

Cメロは「私」がスティーブンスになる。父が倒れてからの場面だ…


じゃあ「蒼き月」って…

ミス・ケントンさんのこと…?

その通りだ。

女中頭ミス・ケントンは見たんだ!

家政婦か!

ミス・ケントンの顔が市原悦子に見えてまう!


強引にそっちへ持って行くな!関係ないだろ!

しかもコレいつの家政婦だよ!

ちょっとだけ色っぽいじゃんか!

・・・・・

いや、関係なくはないんだよ…

松本清張サスペンス『家政婦は見た』シリーズ同様に、『日の名残り』も女中頭ミス・ケントンが「秘密」を覗き見てしまったことで、さまざまなドラマが巻き起こるわけだから…

そして、もしかしたら「ミス・ケントン」という名前にも『家政婦は見た』の影響があるのかもしれない…

え~~!?

さっき「kenton」はスコットランド方言で「~を知っていた」を意味する言葉やっちゅうことを説明したやんけ!

そう…

だけど、さらに「ミス・ケントン=秘密を知る女」説をダメ押しする証拠が『家政婦は見た』に隠されている。

それは、市原悦子が演じる家政婦「石崎秋子」の名前だ。

ハァ!?名前が?

英語に直訳してみてごらん…

英語に直訳?

え~と…

家政婦は「メイド」やろ…?

そんで「石崎」は…

「ストーン」と「ペニンシュラ」!

そして「秋子」は…

そんなの簡単だ

秋は「フォール」で子は「チャイルド」!

「お子ちゃま」やな…

イギリスでは秋を「オータム」っちゅうんやで。

・・・・・

もう出そろったね、『家政婦は見た』と『日の名残り』をつなぐ点と線が…

へ!?

どゆこと?

カズオ・イシグロは『家政婦は見た』の石崎秋子から『日の名残り』のミス・ケントンを生み出した…

でも、英国の文学界で、そんなことは言えない…

イギリスで「この小説は『家政婦は見た!』が元ネタなんです」なんて言っても、変な日本人扱いされるだけだろうから…

それでずっと言わずにいたんだけど、心の中では誰かに気付いて欲しかった…

作家心理ってやつだろうか…

そこで彼はある行動に「サイン」を忍ばせた…

『家政婦は見た』に気付いてくださいよ、というメッセージを…

あ、あの決めポーズは…

そうゆう意味やったんかァ!!!


家政婦 石崎秋子=メイド・ストーン・ペニンシュラ・オータム・チャイルド…

ここから全ては始まった…

まず「メイド」と「ストーン」で「メイドストーン」が出来上がる…

なんやねん、メイドストーンって?

メイド用の落とし穴か?

メイドストーンとは、英国ケント州の州都の名前だよ…

ちなみに英国全図での黄色い部分が、スティーブンスの旅の目的地コーンウォールだ。

け、ケント州!?

まさか…

ミス・ケント…ン…

カズオ・イシグロは駄洒落の天才だ。

『日の名残り』の登場人物の名前や言動は、すべて「何らか」のパロディや駄洒落になっている…

せ、せやな…

クリストファー・ノーランも駄洒落好きやったもんな…

「海鳴り」と「バイナリ」の駄洒落とかオヤジギャグのレベルやったわ…

日本人はすぐに「先生、先生」って奉るけど、大作家先生が高尚なジョークしか言わんと思うたら大間違いや…

そして「ペニンシュラ」は、ケント州の東半分が、ドーバー海峡に面した「半島」を形作っていることを指す。

ジミー・クリフの『Many Rivers To Cross』で有名な白い崖「ホワイトクリフ」もケント州にあるんだ。

そしてミス・ケントンの嫁ぎ先は、コーンウォールだったね。あそこも大きな半島だ。

秋の「オータム」は…?

英語の「autumn」には「成熟期・衰退期」という意味もある。秋は冬へと向かう季節だからね…

ドーヴァー海峡を渡ってフランスからイギリスに入って来た言葉で、もともとはラテン語で「収穫期」を意味する言葉だった。

僕の推測だけど、「aurum」と語源が一緒なんじゃないかなって思う。

「aurum」って何?

金…つまり「ゴールド」のことだよ。

ほら、元素記号は「Au」でしょ?

たぶん両方とも小麦畑が金色に染まる様子からきた言葉だと思うんだ。

「成熟期・衰退期」を意味するっちゅうのは、『日の名残り』的にも、ぴったしカンカンやんけ!

それを言うなら「ぴったんこ」でしょ!

「し」と「んこ」じゃ、全然違うんや!

まったく別モンやで!

そしてこれは『日の名残り』の「からくり」にもピッタリなんだ…

普通「秋」と言われると、「冬」へと向かう季節、つまり「衰退」とか「凋落」の始まりをイメージする。

これはよく人生にも当てはめるよね。

『日の名残り』の中の「夕方」も同じ目的で使われている。読者に「物事の終わり」をイメージさせるためだ。

でも、ここに大きな「からくり」があった。

多くの人は「夕方」や「秋」と聞くと、「終わり」をイメージしてしまう…

だけど一部の人にとって「夕方」や「秋」は、「始まり」をイメージさせる言葉でもあるんだ…

もうわかるよね…?

へ?

・・・・・

ヘブライ…

つまり、ユダヤ人や…

ユダヤ暦では一日が日没から始まり、一年が9月頃から始まる…

その通り。

『日の名残り』は「暦」がキーワードだったんだ。

そして「ブルー・ムーン」の謎も、これで解ける。

なんでや?

小説には、こんな描写がある…

 初めてダーリントン・ホールに来た日から、食器室での一件が起こるひと月ほど前までは、ミス・ケントンの休暇の取り方はだいたい決まっておりました。六週間に二日の休みをとってサウサンプトンに叔母さんを訪ねるか、私の例にならってとくに休暇をとらないまま過ごすか、どちらかでした。もちろん、とりわけ静かな時期であれば、一日、お屋敷の庭を散歩したり、自室で読書したりすることもありました。が、ミス・ケントンの休暇の取り方が、この頃、がらりと変わったのです。

カズオ・イシグロ; 土屋 政雄『日の名残り』早川書房Kindle版

ああ!

わかったでェ!

つるべ師匠や!

つるべししょう?

スティーブンスのオッサン…やのうて、カズオ・イシグロはんは、これのこと言うてるんや!

昭和って無神経すぎて困る!

まったくあの頃は今見るとビックリするようなCMが流れてたよね…

しかし、スティーブンスは「下ネタは下品」みたいなことを言ってたくせに、「私の例にならってとくに休暇をとらないまま過ごす」とか真面目な顔して言っちゃってて笑えるよね。

ムッツリーニやな。

さて、「ブルーム―ン」とは元々「3か月の間に4度満月があった場合の3度目の満月」を指す言葉だったんだ。

月の満ち欠けの周期は平均29.5日で、30.5日の暦とは異なっているからね。

それが第二次大戦後に勘違いされて「1ヶ月に2度ある満月」のことになってしまった。

ミス・ケントンは「六週間で二日休む」さかい、ほとんど「ブルー・ムーン」やったわけか…

ねえねえ。

休暇の取り方が「がらり」と変わったってのは、どうゆうことを意味してるの?

なにを「おぼこい」こと言うとんねん!

それくらい知っとるやろ、ボケ!

・・・・・

カツオさん、大丈夫?

さっきから変な汗が出てるみたいだけど…

鼻からも汗が垂れとるやんけ…

スティーブンスのオトンみたいやで…


どうしたんですか?

体調でも優れないのでしょうか?

悪いことは言わない…

もうここでやめておくんだ…

これ以上よけいな詮索をすると、あのお方が許さないだろう…

あのお方を、決して怒らせてはいけないのだ…

あのお方?

誰や?

あのお方は、どこにいたって全てお見通しだ…

全てを知っているんだ…

何もかも…

あのお方とは…

いったい誰のことなんでしょうか…?

あのお方とは…

M…


『MOON』REBECCA(レベッカ)by GUMI

ーー続くーー



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