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「深読み INCEPTION(インセプション)⑮」(第213話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
『インセプション』は…
まさしくエンゲルベルト・フンパーディンクの『ヘンゼルとグレーテル』…
それでは、物語の後半…
父親のアイデアが現実化してしまった「The Nibblewitch(噛み砕き魔女)」のシーンを見ていこう…
魔女は「お菓子の家」で子供たちをおびき寄せ、捕まえた子供をかまどで焼き、ジンジャーブレッドにして食べてしまう…
さっき父親が、そうホラを吹きました。
その通り。
この物語のテーマは「強く思ったことは現実になる」だからね。
父親は迫真の演技で「子供を食べる魔女」のホラを吹き、母親は必死に「神の救済」を求めた。
だからヘンゼルとグレーテルの未来は、あの時点で決まっていたわけだ。
では続きを見ていこう。44分40秒あたりから…
Hänsel und Gretel
(Engelbert Humperdinck)
『カッコウの歌』のあと、日が暮れて夜になってしまい、二人はサンドマンの「魔法の砂」で眠らされてしまうわ。
そして「白い14人の天使たち」の夢を見るの。
「14」という数字は父親が買ってきた卵の数だったけど、父親のホラにあんな妖精は出てこなかった…
ちなみに歌われるのは、名曲『Sandman's aria(砂の精のアリア)』と『Abendsegen(夕べの祈り)』ね。
あのサンドマンは父親が作り出したものではない。
ヘンゼルとグレーテルが作り出したものだ。
え?
辺りが暗くなり、二人は急に怖くなった。
吹き始めた風に草木がざわざわ揺れる音を聞いて、ヘンゼルは「人の声が聴こえる!」と言い出す。
こちらへ向かって「子供たちや、子供たちや」と呼んでいるとね…
それを聞いたグレーテルも、枯れ枝を見て「誰かがいる!こっちに手招きしてる!」と言い出し始める。
二人は森の奥に向かって「そこにいるのは誰?」と呼びかけた。
返って来たのは「やまびこ・木霊」だけ…
だけどそれを二人は「妖精の返事」だと思い込んでしまったんだ…
こうして二人は一緒に「サンドマン」のイメージを作り上げていき、この物語のルール「強く思ったことは現実になる」が適用されたというわけ。
つまり…
『インセプション』でドムとモルの子供たちが…
砂で「崖の上のおうち」を作りながら、本当に「崖の上の家」を生み出してしまったのと同じこと…
だね。どちらも「あの親にして、この子あり」だ。
そして、自分たちが生み出した想像の産物「魔法の砂」によって、ヘンゼルとグレーテルは深い眠りにつく。
草を敷き詰めた地面に、二人並んで横たわりながら…
二人はまったく同じ夢を見る…
床に敷いたカーペットに並んで横たわり、同じ夢を見ていたドムとモルだわ…
ちなみに、ヘンゼルとグレーテルが見た夢「白い14人の天使たち」は、こんな感じのものだった…
うふふ(笑)
何が可笑しいのですか?
だって「そのまんま」じゃん(笑)
え?
夢の中の「白い天使たち」でしょ?
『インセプション』にも出て来たわよね(笑)
そんなの出て来ましたっけ?
白い「Los Angeles(天使たち)」のことだよ…
あれは現実ではなく、夢の中だった。
げえっ!
そしてヘンゼルとグレーテルは「魔法の露」で目覚める…
すると森の奥に突如…
お菓子の家と、それをガードする無数のジンジャーブレッドマンが姿を現した…
これは「雪山の要塞」ね…
そして、お菓子の家をガードする無数のジンジャーブレッドマンは…
要塞を守る警備兵たち…
その通り。
さて、突如現れたお菓子の家に対し、ヘンゼルとグレーテルは期待と不安で胸が高鳴った…
そして、扉を開けて中に入ろうとする…
こ、これは…
クリソツです…
二人が扉を開けようとすると、壁の向こうで何かが光り…
建物全体が白黒のコントラストに変わる…
なんてことなの…
やるのう、クリストファーめ。
すると家の中から年老いた魔女が姿を現す…
なぜか「虫取り網」を手にして…
風車…
魔女はヘンゼルを捕まえて、檻の中で育て始める…
たっぷりと太らせてから、焼いて食べようとね…
その間グレーテルは、ヘンゼルの食事を作ったり、魔女の雑用をやらされていた…
魔女の家で何日も過ごしていたってことね…
森の外では1日の出来事だったのに…
『インセプション』も、夢の階層によって流れる時間のスピードが変わる…
そしてついにヘンゼルを焼く日がやってくる…
魔女はグレーテルに、かまどの準備を指示した…
そこでグレーテルは機転をきかせ、魔女をかまどの中に誘い込み、そのまま鉄扉を閉めてしまう…
そうして二人は魔女の家を脱出…
すると、かまどが大爆発を起こし、家ごと木っ端みじんになってしまった…
ああ…
魔女が死んだことで、ジンジャーブレッドマンにされていた子供たちが、元の姿を取り戻す…
しかし、なぜかまだ眠ったままだった…
雪山の要塞が爆破された後も…
上の階層では、落下中のバンの中で、皆がまだ眠ったままだったわ…
ヘンゼルとグレーテルは、子供たちの頬にショックを与える…
すると子供たちは、ようやく目を覚ました…
バンの乗員も、水面への落下のショックで、目覚めました…
ヘンゼルとグレーテルは、子供たちを引き連れて森の出口へと向かう…
レオナルド・ディカプリオ演じるドムも、ロサンゼルス国際空港の出口へ向かいました…
すると、父親と母親が迎えに現れた…
義理の父親が迎えに来てました…
なんなのよ、これ…
まだ終わりじゃないけどね。
え?
ヘンゼルとグレーテルを抱きしめた父親は、こんなことを言う…
「かわいい小猿がいたぞ!」
子ザル?
『インセプション』のラストシーンにも居たでしょ?
は?
再会した父と子が抱き合うシーンに、かわいい子猿ちゃんが…
ああっ!あれのことですか!?
その通り。
パリで渡された父から子へのプレゼント「動物の人形」は…
恐竜と、かわいい小猿ちゃんだった…
信じられない…
そういうことだったのね…
そして父親は、例の決まり文句で物語を締め括る。
When the need is more than we can stand,
the Lord holds out His gracious hand !
わたしたちが心の底から欲すれば
主は必ず手を差し伸べてくれる
強く思ったことは現実になる…
クリストファー・ノーランは、父ではなく息子に言わせたね。
「見て見て!崖の上におうちを作ったよ!」
ちょっと怖いんだけど…
鳥肌たっちゃった…
まさか…
クリストファー・ノーランの『インセプション』が…
ここまでエンゲルベルト・フンパーディンクのオペラ『ヘンゼルとグレーテル』そのものだったとは…
にわかには信じ難いことですが、これは現実です。
しかし教官…
私にはどうしても腑に落ちないことがあります…
何だい?
なぜクリストファー・ノーランは、子供の頃に見たであろうこのオペラを元ネタにして、こんな大掛かりな作品を撮ろうと思ったのでしょう…
確かに名作オペラかもしれませんが、そこまでの動機になり得るでしょうか?
いい質問だね。
君はどう思う?
私は…
まだ他にも何かあったんじゃないかと…
『ヘンゼルとグレーテル』と『インセプション』をつなぐ線の間に、まだ他の何かが…
何それ?
それはわかりません…
でもきっと何かがあったはずです…
クリストファー・ノーランを強力に後押しした「何か」が…
うふふ。ストーカーね(笑)
え…?
・・・・・
文代さん、それはいくら何でも…
確かにこの人たち、ちょっとしつこいところはあるけど…
そう。ストーカーだ。
やめてよ、岡江クンまで…
せっかくフォローしてあげたのにさ…
そんじゃ、ここらでいっぱつ歌うか?
いいですね。歌はもちろん…
あれに決まってる(笑)
何の話をしてるの?
歌うって何を?
決まっとるじゃろ。
ベートーベンの第九『歓喜の歌』じゃ。
ミュージック・スターティン!
Sinfonie Nr. 9 #4 An die Freude
ベートーヴェン交響曲第9番 合唱 第4楽章
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