クリストファー_ノーランヤンキー1

天才クリストファー・ノーランの「クーパー三部作」解説決定版!INCEPTION(インセプション)後編「インセプションは能だった!?」

衝撃の「おかえもん解釈『インセプション』」の後編やで。

しかしまた突拍子もないタイトルやな。

の、能?

いったいどんな話が飛び出すんだろう?

前編を読んでない人にとっては絶対に意味不明なんで、いちおう前回のあらすじを紹介しておこうか…


<衝撃のおかえもん解釈その1>

映画『インセプション』は、英国クーパー自動車の創業史を描いた「クーパー三部作」の第2作目にあたり、チャールズ・ニュートン・クーパー氏よりインスパイアされている。だから主人公ドム・コブは夢の中で”チャールズ”という偽名を使う。そして、”ニュートン”つながりで落下”シーンが多用される。”クーパー”からは建築デザインが導かれる。世界最高峰のアーキテクチャ・スクール、ニューヨークのクーパー・ユニオン。しかし殺人容疑をかけられてる主人公がアメリカに入国できないため、その場所はフランスのパリになった。だが上手いことにチャールズ・ニュートン・クーパー氏はパリ生まれの英仏ハーフなので、物語の設定と合致することに。


<衝撃のおかえもん解釈その2>

夢か現実かを判断するためのトーテム「コマ」は、ノークリ(クリストファー・ノーランのこと)が仕掛けた最大の「おとり」である。手品師が「マジック」をするときに、観客の意識を必ず「何か」に向ける行為と同様の意味をもつ。


<衝撃のおかえもん解釈その3>

映画『インセプション』の物語は、ビートルズの名曲『オブラディオブラダ』を丸ごと引用している。歌詞そのまんまのストーリー展開。歌詞の中の単語も、そのまま物語のキーワードとして登場。


<衝撃のおかえもん解釈その4>

映画『インセプション』は、主人公ドム・コブの妻モルが夫に仕掛けたインセプションの話である。モルは「アリアドネ」と「サイト―」を使って、常にドムのそばに存在している。


まあ、詳しく知りたい人は前回を見た方が早いかもしれん。

<インセプション編の前編>

ありがとう、君たち。

毎度のことながら、君たちが仕切ったほうが話が早いね。

ねえねえ、おかえもん。

「コマ」の話からしてくれない?

あれが「罠」だって、どうしても信じられないんだ…

いいよ。

でも衝撃の事実ってほどのことでもなくて、トーテムにまつわる台詞の中でで、きちんと説明されているんだ。

トーテムのルールをアリアドネに伝える際に、こんなことを言うよね。

「トーテムは持ち主だけが”質感とその動き”を知ってる物でなければいけない。だからむやみに見せたり触らせたりしてはいけない。他人にそれを知られた場合、夢を操作されてしまう恐れがある」

ドム・コブはすっごい真剣に忠告するんだけど、肝心の自分がそのルールを破ってしまっていることに気付いていない。

へ!?

だってあのコマは、そもそもドムが持ち主ではない。あれはモルの持ち物だった。

だからモルが生きている場合、また例え死んでいても何らかの形でドムの夢に干渉できる場合、あのコマはモルに操作される可能性があり、「止まる」か「回り続ける」かの結果は、何の意味も持たなくなる。

言われてみれば、た、確かに…

そして、映画にはもうひとつ「コマ」が出て来るよね?

え…、出てきたっけ?

アリアドネのトーテムは「チェスの駒」だった。

まわるコマと、チェスのコマ。モルとアリアドネは同一人物だから、こんな駄洒落も映画を読み解くヒントとして使われている。

はぁ!?

なんで日本語のダジャレが!?

さすがにおかえもんのコジツケでしょ!

いや、そんなことはないよ。アリアドネの「チェスの駒」には2つの意味が込められてる。

1つは、あのチェスの駒「ビショップ」の特徴だ。

「ビショップ」という駒は、フランスでは「道化」と呼ばれている。つまりピエロのことだ。愚かなふりをして大切な何かを伝える役割だね。アリアドネはモルにとっての「道化」なんだ。だからいちいち知らない振りして質問する。

そして「ビショップ」には「白マスのビショップ」と「黒マスのビショップ」がある。その性質上、この両者は決して同じ場所に重なることがない。

これが何を意味しているかと言うと、「ビショップ」は2人いるってことなんだ。決して重ならない2人がね。

それが、サイト―?

その通り。

モルはアリアドネとサイト―を巧みに使い分けてドムの夢の奥底に侵入し、インセプションを行う。サイト―のライバル会社を潰すために「御曹司のロバート・フィッシャーの夢にインセプションを行う」という「架空のミッション」を与えてね。

フィッシャーとは「釣り人」、つまりドムを釣るための存在なんだよね。

すべては、夫のドムを最下層の夢の世界「LIMBO」までおびき出す作戦だったんだ。わざとロバートを殺し、LIMBOに突き落として。

ロバートを助けるためにドムがモル(ドムの投影)を撃とうとした時、アリアドネ(モルの偽装)は巧みにドムを動揺させて邪魔したよね。

そしてまんまとドムはLIMBOまで誘いこまれてインセプションされてしまった。最初から最後までモルの手のひらの上で踊らされていたってわけだね。

ひゃあ!マジか!?

東京上空のヘリでのシーンでサイト―が話すことに注意してみてごらん。あれはモルだから。全く同じ内容のことを、後のシーンでもう一回モルが言う。

そして「偽のターゲット」として用意されたフィッシャー親子にまつわる話も、そのまんまドムへのインセプションに使われる。「父を頼らないで」って言う台詞があるんだけど、まさにドムへのメッセージだよね。ドムは義父を頼っていたからね。

ロバート・フィッシャーに「自分の道を歩んで」というメッセージをインセプションするというミッションは「ダミー」で、実はモルがドムにインセプションを仕掛けていたんだよ。会社のこととかフィッシャー親子の逸話は、すべてコブ夫妻の問題の例え話なんだ。だから写真立てを落としてガラスが割れる。あの「自殺」したホテルの部屋では、シャンパングラスだったけど。

そしてモルによってインセプションされたドムは、めでたく同じことを言うことになる。刷り込まれた結果、あたかも自分の考えのようにね…。

インセプション大成功!

ホントなの…?

ホントだよ。

アリアドネを使ってドムの秘密の地下室へ潜入することができたモルは、重要なメッセージをドムに伝える。床に落ちて割れていたグラスを踏むシーンがあるんだけど、あれが「なりすまし」のサインだね。散乱していたガラスが、合わせ鏡の代わりだ。そして「二人で一つ」とか「列車の謎かけ」をアリアドネに向かって言う。夢の持ち主ドムに聞かせるためのメッセージだね。

そして上の階でも「海岸」を確認する。ドムが「モルと子供たち」を遊ばせている海岸だ。あの海岸が最後に出て来る「サイト―の城がある海岸」になった。ドムの夢では岩の崖の上に小さな建物があったんだけど、モルはそれを城に変えたんだ。ラストシーンで子供が「岩の崖の上の家」のことを話すんだけど、それはここから来ている。

そうだったのか!

「アリアドネ」っていう名前はわかりやすいよね。ギリシャ神話に出て来る名前だから。アリアドネはクレタ島のミノタウロスの迷宮で勇者テーセウス案内してくれる姫だ。潔らかな娘だったらしいけど、テーセウスと結婚してからはすっかり変わってしまったらしくてね。寝ている間に夫に置き去りにされてしまったらしい。(アリアドネwiki

そして問題は「サイト―」だ。

日本人の僕らは「サイト―」って聞くと「斉藤」ってすぐに脳内変換してしまう。でも日本人の名前を知らない外国人にとってはそうではなく、「site」を想起させる。「site」は「用地」とか「サーバーのある場所」だよね。

つまりモルにとってのサイト―は「site」なんだ。

おお!そう言われれば確かに!

劇中で、サイト―が「コンシェルジュ」って文字をバックにカッコつけるシーンがあるよ。ノークリがよくやる描写だ。『インターステラー』でもNASAの秘密基地内でやっている。

サイト―もアリアドネ同様に案内係なんだ。モルに操られた「黒いビショップ」だね。

なんか説得力がある…

そして「チェスの駒」に込められた2つ目の意味が「コマ」と「駒」の駄洒落。ほんと上手いよな、ノークリは。

せやから、そこはオッサンのコジツケやって言うてるやろ。なんでノークリが日本語のダジャレを映画の中で使うんや?

どう考えてもおかしいやろ。

いや、全然おかしくない。

この映画は日本文化と切っても切れない関係にある。

ノークリは「オブラディオブラダ」の歌詞を基にして物語の筋を作ったって説明したけど、もうひとつ参考にした「日本文化」があるんだ。

そっちは映画の構成っていうか大枠になったんだよ。

な、何!?

それが「能」だ。

Oh!NO~~?

ノークリは、映画冒頭のサイト―の夢の中での場面で、早速そのサインを用意している。

「サイト―の間」の壁には「松」が描かれていた。

「紅白梅図」やなかったか?

四面あるうちの二面は「松」だった。

能の舞台には松が付き物だ。松は「待つ」ことも意味している。能の主役である「シテ」は、松をバックに「ずっと待っていた」ことを「ワキ」に伝えるんだ。「シテ」は「死者」であることが多い。「死者」とか「神や鬼、龍など人智を超えた存在」だね。いっぽう「ワキ」は「旅人」とか「逃げている人」であることが多い。ドム・コブもそうだったね。

さて、「サイト―」が「site」を想起させるための名前だって説明したけど、「site」は「シテ」とも読める。つまり「サイト―」は「シテ」役ですよ、ってことだ。

ちなみに能の「シテ」は途中で姿を変える。演目の前半・後半で姿かたちを変えるんだ。これを「前シテ」と「後シテ」という。モルが「アリアドネ」と「サイト―」を使い分けるのは、ここから来ているんだね。

ま、まじですか!?

ここでちょっと能について説明しよう。

この図は能舞台を簡略化したものだ。

Aが主人公の「シテ」

Bがシテの思いを聞く役である「ワキ」

Cは大きな松が描かれる「鏡板」

Dは「鏡の間」。中に大きな鏡があり、シテが変身するところ。

Eは「橋懸」。鏡の間と舞台を繋ぐ橋。

Fは「白洲」。水を表し、境界線を示す。

アリアドネが夢の中の街で「鏡の空間」を作ったら、その先に「橋」が出て来たよね。あれは能舞台の「鏡の間(D)」と「橋懸(E)」の構造をそのまま引用している。それと映画に度々出て来る「観客の視界を遮る柱」も能舞台の柱を参考にしたんだろう。あれは外国人には面白く感じるだろうからね。

そして能舞台には「白洲(F)」が付き物。舞台と観客席を隔てる境界エリアの玉砂利だ。これは水(海)を表しているんだけど、もちろん映画にも水は重要なシンボルとして何度も登場する。

夢の境目には何らかの形で「水」が使われるよね。

波打ち際…、カフェやホテルのバーの水…、雨…、そして雪も…

全部白洲だったのか…

そして映画『インセプション』は、「能の上演形式」に則って大枠が構成されている。

能5曲とその間に狂言4曲を入れるという番組編成が、江戸時代以来続いている能楽の正式な演じ方なんだ。ちょっと紹介しよう。

①初番目物<神>

神がシテ。神によって「幸福」が約束される。前シテは翁の姿、後シテは神の姿。使われる扇は「金地に梅」

②二番目物<男>

殺されて死後も修羅道を彷徨う亡霊がシテ。使われる扇は「入日と波しぶき」

③三番目物<女>

シテは女の亡霊。現世に心残りがあり、成仏せずに漂っている。使われる扇は「紅のある華やかなもの」

④四番目物<狂>

子や夫を探し求め、思いつめて心を乱す中年女性がシテ。使われる扇は「金地に紺」

⑤五番目物<鬼>

鬼・天狗・龍神などがシテ。派手な舞と音楽。使われる扇は「赤地に牡丹」

なんやねん、扇って。

シテが舞う時に使う扇だよ。場面によって、色や図柄が決まってるんだ。

「サイト―の間」でサイト―のバックだけ梅だったのは、この扇が由来だったのか…

なんだかホントに映画のストーリーと全く同じような気がする…

扇の色や図柄も、全部そのまま映画の中で使われているんじゃないの…?

たぶんそうだね。

ただ最後の「牡丹」だけが、観た時に見つけられなかった。きっとラスト近くのどこかにあると思うんだけど。

あと、実はもう一つ重要な「舞」がある。今では滅多に演じられないんだけど、「翁」という神聖な儀式みたいなものだ。他の能とはまた違った雰囲気で演じられる。これを昔は一番最初にやっていたそうだ。ちなみに能舞台の「松」は、この「翁」の変身した姿でもある。舞台のバックで、全てを見通してる存在なんだ。

そういえば渡辺謙さま演じるサイト―も、すっごい翁の姿で出て来たよね!

映画の中でも、あそこだけちょっと特別な感じだった。

そうゆうこと。

もっと詳しく知りたい人は、以下リンク先でどうぞ。「能」のアイデアは、かなり多くの映画で使われている。欧米人の監督でも「能ファン」は少なくないんだ。能の基礎を覚えておくと、けっこう発見できるよ。

能の基礎知識:The 能 .com

能で使う扇:にほんのこころ~能の扇

『インセプション』の渡辺謙と『インターステラー』のマシュー・マコノヒーが共演した『追憶の森』('15)も、能がベースになっとったな。

監督のガス・ヴァン・サントも能ファンやったん。

だね。いまいち活かしきれてなかったけど。

さて、もう全部の謎を説明したかな?

問題のラストは!?

う~ん、どうだろうね。

夢でも現実でもどっちでもいいと思うよ。だってモルが本当に死んでるかどうかが、はっきりとはわからないから。

それにノークリは、そういうことにコダワラナイ性格なんだ。能をこんなに取り入れるくらいだからね。映画『インセプション』は、ユメとウツツが曖昧な「夢幻能」なんだよ。「本人が納得してれば、それでいいじゃん!」ってスタンスは『メメント』と一緒なんだ。

それに、最後に空港で入国審査を受ける時に、ドムのバックに大きく「ANGELS」って映るんだよね。ドムが「LOS ANGELS」の「LOS」の部分を隠すシーンがずっと続くんだよ。もしかしたらモルと同じ死後の世界かもしれない(笑)

まあ、コマの結末を見届けずに子供たちの方へ行ったんや。それでヨシとしとこ。とりあえず目の前の現実に向き合えたんやから。それが夢でもええやんけ。ワイが思うに、旦那があまりにも惨めやったから、モルが死後の世界から助けに来たんやと思うで。「はよ前に進め!」って。

夢の中のモルに「私を探して」とか「一緒に年をとろう」とか言わせて、現実逃避してたからね…

いや、もしかしたらまだモルの作戦の中かもしれない。

モルはLIMBOに長く居すぎたため、精神年齢が夫のドムとずいぶんと離れてしまった。それを調整するために、もうしばらくドムを夢の中に居させるってこともありえる。

ここまで考えても、どっちにも取れる結末って凄いよね…

映画観て怒る人もいるんじゃない?

「意味がわからん!結局どっちなんだ!」って…

ノークリは『オブラディオブラダ』をリスペクトして、筋書きをそのまま使ったんだよ。あの曲の歌詞では3番と4番で、子供と一緒にいるのがDesmondからMollyに入れ替わるからね。ドムは夢の中でモルと子供を遊ばせていたから、今度はドムが遊ぶ番だ。

でもよくよく考えると、ビートルズの『オブラディオブラダ』に対して「意味がわからん!どっちなんだ!」って突っ込む人はあまりいないよね。ノークリ映画も、それでいいんだと思うよ。

もうわけわからんな。

次いこ、次!

いよいよ「クーパー三部作」のラスト、『インターステラー』だ!

騙されて宇宙に行かされたオヤジが、紆余曲折を経て娘に再会するっちゅう感動の物語やな。

これはさすがに「おかえもん超解釈」の出番は無いやろな。

いや、あるよ。

僕は「父と娘は再会できなかった」説を唱えたい。

ハァっ!?

『インターステラー』も、驚くべき新事実が明らかになるよ!

楽しみにしててね!


『INCEPTION』

(’10、邦題:インセプション)

製作:エマ・トーマス、クリストファー・ノーラン

監督:クリストファー・ノーラン

脚本:クリストファー・ノーラン

出演:

レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、 ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、トム・ハーディほか

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