
ゆっくり深読み 中島みゆきの『ヘッドライト・テールライト』

やあ岡江君。用事って何だい?

♬なぜ~めぐ~り逢うのかを~♬
♬私たちは~何も~知~らない~♬
♬いつ~めぐ~り~逢うのかを~♬
♬私たちは~いつも~知~らない~♬

おやおや鼻唄か。今日はずいぶんと御機嫌だな。

♬どこに~い~た~の?♬
♬生きて~き~た~の?♬
♬遠い~そ~らの~下~♬
♬ふたつの~も~の~がたり~♬

その歌は確か…
ユーミン?


何を言う、早見優。
冗談は顔だけにしてくれよな。


顔?
そういえば今日は、何かいつもと違うような…
君の顔、上下に圧縮されてないか?

君もだよ、クリス君。

えっ、俺も?
てか、立ち位置もいつもと違くないか?
なんで俺はこっち側にいるんだ?

今日は「ゆっくり深読み」だからさ。

ゆっくり?

アナログ人間の君はインターネットをやらないから知らないだろうけど、何かを解説する時にこの「ゆっくり」スタイルは使われる。
僕と君のように、黒髪と金髪の生首コンビでね。

知らなかった…
インターネットの世界では、こんなものが流行っているのか…

だから今日はこのスタイルで行こうと思った次第。
僕とクリスで名前もバッチリ。まさに「ゆっくり」コンビだ。

確かに俺はクリだけど、君の名前にはどこにも「ゆっくり」の要素はない。
オカエモンのどこが「ゆっくり」なんだ?

大丈夫、マイ・フレンド。
もうすぐわかる。

?

来た…
光が見える… 光が…

ひかり? どこに?

・・・・・

おい? 岡江君?
どうした?

・・・・・

あー、ビックリした…
急にどうしたのかと思ったよ…

こんばんは。ユル・ブリンナーです。

は?

「は?」とは何だ。この私を知らないのか?
映画マニアを自称するなら私の代表作『The King and I(王様と私)』くらい観たことあるだろう?
君の好きな渡辺謙がブロードウェイでトニー賞を取ったやつだ。

あのユル・ブリンナー?
『WESTWORLD(ウエストワールド)』の?

そっちではない。こっちだ。

すまん、つい…
しかしこれはいったいどういうことなんだ岡江君?
何かの遊びかい? ふざけているんだろう?

この顔がふざけているように見えるか?
私は正真正銘のユル・ブリンナー。
ユルユルと呼んでくれ。

ゆるゆる?
まさか、ゆるゆると俺で…

そう。「ゆっくり」だ。

なんてこった…
開いた口が塞がらない…

開いた口が塞がらないとは、こういう顔のことを言う。

もういい。余計なことを言った俺が悪かった。
で、今日はこんなところに呼び出して、いったい何の用事なんだ?

君を呼び出したのは他でもない。
どうしても急いで伝えなければならないことがあるんだ。

俺に伝えたいこと? 何だ?

インターネットやSNSをやらない君は知らないだろうけど、君の工藤静香が大変なことになっている。
絶賛大炎上中だ。

ちょ待てよ…
俺の静香が炎上中だと!?

ほら、これをごらん。
NHKの音楽番組『SONGS』中島みゆき特集に出演した際の発言が大炎上している。
ネットニュースやSNSで、そりゃあもう大騒ぎさ。
「自分で自分のことが満足できなかったり、自分にゴール地点が万が一、見えてしまったとき、いや、旅はまだ終わらないって前を見られる力がこの曲にはある」など、工藤なりの解釈が次々と飛び出していった。 しかし、根強いファンも多い中島だけに、SNSでは「工藤静香とは解釈が合わない」「中島みゆきさんの歌だけ見せてほしい」といった批判が続出。放送後はTwitter上で「工藤静香」がトレンド入りする事態にもなっていた。

《工藤静香は中島みゆきの曲をカバーしているからゲスト出演されたのでしょうけれど邪魔でしかなかった。》
《工藤静香の解説とかどうでもいいからMV最後まで流してよ。ヘッドライトテールライトの時も「かわいい」って工藤静香の声が映像と被ったし!なんなん?中島みゆき特集でしょ?みゆき様大好きな工藤静香特集になってんじゃん!》
《#中島みゆき特集 の筈なのに…… 工藤静香要らんのよ 歌詞の解釈は個々それぞれ 勝手に貴女の解釈をアピって来ないで》
なんなんだこれは…
もはやファンというより「別の何か」だ…
カバーした『ヘッドライト・テールライト』の歌詞について思いを語っただけなのに、なぜ俺の静香がここまで言われなければならない…

ぶっちゃけ、チョベリバだよね。
いくら匿名のSNSだからといって、ひどい言われようだ。
歌うんぬんの話ではなく、ただ単に工藤静香が気に入らないとしか思えない。

俺の静香は中島みゆき本人の信頼と許可を得てカバーしているんだぞ?
文句を言ってる奴らは何様なんだ!!!

君が怒るのも無理はない。
そんなに工藤静香が邪魔なら、テレビの音楽番組なんか見ないで、中島みゆきのDVDを見てればいいだけの話だ。
思う存分、中島みゆきだけを堪能できる。

そもそも作品の解釈なんて個人の自由じゃないか…
なぜ自分の考えと異なるものを、ここまで完全否定して排除しようとする…

悲しいけど、これが日本なんだよね。
出るパイルはドライバーされる。

くそぉ…
悔しくて悔しくて、とてもやりきれない…
この限りない虚しさの、救いはないだろうか…

なくはない。

え?

実は工藤静香の『ヘッドライト・テールライト』の歌詞解釈は、何もおかしいところはないんだ。
おかしいどころか、完璧にあの歌を理解している。
ミュージックビデオを見れば、一目瞭然。

ミュージックビデオ?
理解も何も、ただ工藤静香が光に照らされるだけのシンプルなものだけど…

ふぅむ。てっきり君なら気付いてると思ったんだが…

気づくって、何に?

何って「光」に決まっているだろ。
この歌は「ライト」の歌なんだから。



光?
そういえば、この2つの構図…
どこかで見たような気が…

そう。よく似てるよね。
あの2つの作品のラストシーンに。
というか、もう、そうとしか思えない。



Alan Moore(アラン・ムーア)のDCコミック『BATMAN: THE KILLING JOKE(バットマン:キリングジョーク)』と…
Todd Phillips(トッド・フィリップス)監督、Joaquin Phoenix(ホアキン・フェニックス)主演の映画『JOKER(ジョーカー)』…

工藤静香は見事にジョーカーを演じきっている。
彼女を「わかっていない」という人たちに言ってやりたいね。
あのセリフを。

You wouldn't get it…
君たちには、わからないだろう…


もっと大きな声で。
君の静香を侮辱する奴らに言ってやれ。

ゆ…
You wouldn't get it!!!

それでいい。少しは怒りも収まったかな。
では、私はそろそろ行かねば…

行くって、どこへ?

決まってるだろう。元の世界、あの世だよ。
私がいないとスティーブ・マックイーンとクリント・イーストウッドが淋しがるもんでね。

君は… じゃなくて、あなたは本当にユル・ブリンナーなのですか?
ちなみにイーストウッドは、まだ生きて…

それではまた、いつかどこかで。
アディオス。

ちょ、待って…
待ってください、ユル・ブリンナーさん!

それは出来ない相談だ。
あいにく私には、ひかれる後ろ髪がないもんでね。

奴らに「You wouldn't get it」が言えてスッキリはしましたが…
肝心の俺も「You wouldn't get it」では…

ん? どういうことだ?

いったいなぜ俺の静香はジョーカーの真似を?
なぜ『ヘッドライト・テールライト』のミュージックビデオで、そんなことをする必要が?

知りたい?

当たり前じゃないですか!
このまま放置されたら、気になって夜も眠れません!

わかった。そこまで言うのなら解説しよう。

あ、ありがとうございます!

I thirst

は?

I am thirsty だよ。

へ?

聞こえなかったのかな。
喉が渇いた、と言ったんだけど。

あっ、すいません。
俺の水筒でよければ、どうぞ水を…
まだ口つけてませんので…

人を引き止めといて、ただの水かあ~。
君って案外、空気が読めないんだねえ~。

え?

「え?」じゃなくて、コーヒー買ってきてよ。

コーヒー? 買ってきてって、俺がですか?

他に誰がいるの?
ひとっ走りして缶コーヒー買ってきてくれないかな?
わかってるよね、私の言いたいこと。

あっ… そういうことか…
サントリーの缶コーヒー BOSS(ボス)ですね。

そう。30本ほど買ってきて。

さ、三十本?

人間に憑依してると、めっちゃ喉が渇くんだよね。
それに『ヘッドライト・テールライト』をガッツリ解説するとなると、1時間2時間じゃ済まない。
喉が渇くたびに何度も買いに行かせるのは気の毒だから、まとめて買ってきてくれる?

わかりました…
いちおう聞いておきますが、コーヒー30本分のお代は…

君持ちだ。

ですよね…
それじゃあ買ってきますんで、待っててください…

レインボーマウンテンブレンドでよろ。