紙の本を読みなよ。オススメの小説をご紹介します
本はね、ただ文字を読むんじゃない。自分の感覚を調整するためのツールでもある。
精神的な調律、チューニングみたいなものかな
槙島さんのこの台詞が大好きです。精神的な調律、チューニングをしよう。
月に1、2冊読書をするのですが、オススメな小説をまとめました。普段は実用書や教養本を読むのが多いので、あまり小説は読まないタイプなのですが、その中でも特に印象に残っている作品を厳選しました。
本を読むのことは新しい視点や世界へと導いてくれます。時間が許す限りは少しずつでも本を読み続けていきたい。
革命前夜
私は冷戦時代の東ドイツを知らない。だけど確かに現地を感じることが出来た作品。
冷戦時代、ソ連の支配下にあった東ドイツのドレスデンにある音楽学校に留学した日本人青年を主人公とした小説です。
クラシックの父であるバッハにゆかりあるドレスデンで音楽を学べることに喜ぶ主人公ですが、冷戦時代の東ドイツがどのような場所であったかを肌で感じ苦悩していきます。
冷戦史、ドイツ史、そしてクラシック音楽が好きな人にはぜひオススメしたい作品です。小説という枠に囚われずに、歴史、音楽教養にも通ずる内容です。
第二次世界大戦を勉強した人ならドレスデンは有名な場所です。
ドイツ東部にある伝統的な街だったのですが、第二次世界大戦時に英米の連合軍によって大規模な空襲に遭い、街は壊滅しました。
貴重な文化財も沢山あったので、ドレスデンが狙われるとは誰も予想もしていませんでした。この空襲に意義はあったのかといまでも議論になっています。ドレスデンは音楽の街でもありました。
小説の舞台は音楽学校ですが、冷戦という複雑な時代に「西側」の人間である日本人の主人公が感じる東西の壁の冷たさと現実が感じられ、物語に惹き込まれます。
第二次世界大戦と冷戦時代の歴史を理解した上で読むとさらに物語の奥深さを体験出来るでしょう。
個人的には北朝鮮からの留学生のキャラがいい味だしています。私たちも考えさせられる、そんな小説です。
ワイルド・ソウル
「アマゾン牢人」という言葉をご存知だろうか。第二次世界大戦後の食糧難の時代、移民政策でブラジルに移住した日本人のことを指す言葉。
第二次世界大戦後の日本は焼け野原となり、ボロボロとなっていました。
食糧も無い日本よりも海の向こうにある自然溢れるアマゾンの土地で作物を育て、豊かな暮らしを提案する移民政策がありました。その政策を提案したのが日本政府でした。
人々は一縷の望みと期待を胸に、全財産をはたいて海を渡りました。しかし彼らが辿り着いた地は聞いていた話とは全く違う作物が育たない未開のジャングルでした。
日本政府の話は嘘だったのです。
逃げ出したくても行きの旅費で全財産を使い果てた彼らに帰国する術は無く、日本政府から棄てられたも同然でした。
アマゾンの奥深くに置き去りにされた彼らを見て、現地の人々がこう呼んだのです。
「アマゾン牢人」と。
アマゾンの気候や病に侵され、人々は地獄のような日々を過ごします。そして数十年が経ち、地獄から這い上がった生き残りが日本政府に復讐を誓います。
衝撃なのはこの移民政策は日本政府が実際に実施したと噂されています。内容は棄民政策そのものです。
第1章を読んだ後、私は興奮のあまり手が震えました。
「アマゾン牢人」。この話、信じますか?
夜と霧
「ドイツの歴史は二つに分断されている。第二次世界大戦後か、それ以前だ」
とある記事にて在独のジャーナリストさんが書かれていた言葉です。
ドイツという国の歴史を知る上ではナチス、そして強制収容所のことは避けては通れないだろうと思っていました。
この本は小説では無いのですが紹介させてください。第二次世界大戦時にアウシュヴィッツ強制収容所に収監されたユダヤ人心理学者の著者が、当時の体験を心理学者の視点から分析した内容を記しています。
正直、それなりの覚悟をして読んで頂きたい。これはフィクションではないことを頭に入れて文章を追って頂きたい。
そしてドイツという国を知る上では是非読んで頂きたい本です。
この本の素晴らしいところは、事実を客観的に見つめて書かれているところです。変に感情論で殴ってこずに、一歩引いて静かに、だけどしっかりと書かれていて、読者も冷静に文章を追うことができます。
読む前は、題材が重いので憎しみや哀しみでいっぱいの感情が書かれているのかと思いました。
しかしページを追ってみるとあくまで「心理学者として」収監されている人たちの行動を分析されています。
時には自身の行動も分析して「あの時のあの行動はこうだった」と書かれています。
...普通はこんなことできない。
死ぬか生きるかの極限状態の過去を振り返るだけでも苦く苦しいはずなのに、それを文字として落とし込んでいます。
もう稚拙な言葉でしかないですが「凄い」としか言いようがない内容です。
そして同時に「本を出してくれてありがとうございます」という敬意を示したい。
読めてよかった。読んでよかった。
カラマーゾフの兄弟
言わずもがな、ロシアの文豪のドストエフスキーの作品です。
「罪と罰」も読みましたが、私はドストエフスキーの作品の中では「カラマーゾフの兄弟」の方が好きです。
全3巻で約1200Pを超える正に大作。しかも驚くべきことに作者急死の為に未完となっています。今世の中に出ている3巻は実は第3部だったのです。しかし、未完と感じさせない程に綺麗に纏まっているので、当初は誰も未完であることに気付きませんでした。第2部ではどんなことが描かれる予定だったのか、謎となっています。
本の厚みから広大な面積を持つロシアを連想させるかのような作品です。とある一家とその周辺の人々が織りなす愛憎劇を描いています。
三兄弟を軸に親子・兄弟・異性など複雑な人間関係が絡む中で、父親殺しの嫌疑をかけられた子の刑事裁判について三兄弟の立場で向き合っていくストーリーです。
無神論者の次男と修道僧の三男が神と信仰をめぐって論争した際に、次男が三男に語る「大審問官」という章の中で出てくる「神がいなければ、全てが許される」という台詞が有名です。
一度死刑宣告もされた作者だからこそ感じ取れる死生観や神について、そして社会への叫びが本編にこれでもかというくらいに込められています。正直作者の生涯だけで何本映画が撮れるか、と思うくらい壮絶な人生を歩んでいます。
「罪と罰」と同様にドストエフスキーの作品の魅力はやはり本編に仕掛けられている謎の多さです。正直初見では全く気が付きません。
日本人は宗教についての考えが希薄なので、指摘されないと分からない謎が沢山あり、その謎が解けた時に作品への見方が180度変わります。
本編と解説本はセットで読むことをオススメします。
解説本を読んだ後、私はドストエフスキーのことを「とんでもない天才だ」と思い知りました。
1984年
「戦争は平和である 自由は屈従である 無知は力である」
タイトルを某作品から拝借してる中で全く関係の無い本ばかりが続いたので、関係ある本をご紹介します。
槙島さんが第4話で読んでいた小説です。
海外SFの金字塔とも呼ばれており、スターリン体制下のソ連を連想させる全体主義国家によって分割統治された近未来世界の恐怖を描いています。
思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制され、市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョン、そして町中に仕掛けられたマイクによって屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている監視社会が舞台です。
ロンドンに住む主人公は、真理省・記録局に勤務する党員で、歴史の改ざん作業が仕事というとんでもない設定です。
あらゆる行動や感情が支配された世界で、壮絶なのが「ビッグブラザー」と「二分間憎悪」。
「二分間憎悪」は、毎日行われる「ビッグ・ブラザー」という支配者に対する愛情を示す場となっています。
毎日二分間テレスクリーンに敵とする売国奴ゴールドスタインが登場し、国民は彼に対する憎悪をひたすらスクリーンに向かって叫び続けます。
憎悪、復讐心、恐怖、熱狂が高まったところで画面には大きく「ビッグ・ブラザー」が登場する。人々は安堵し、安心感を与えられ、彼の顔がスクリーンから消えた後には「B-B!(ビッグブラザー)」という合唱が起こるのです。
読んでいて常識とは何かが分からなくなってくる気持ち悪さがあります。冒頭の20Pを読んで吐き気がした作品はこれが初めてです。
しかしこの気持ち悪さこそが主人公が後々抱く感情であり、この作品の肝になるかと思います。
「常識とは?」という哲学的な問いも考えさせられます。
因みにアメリカでトランプ大統領が誕生した時に「1984」が再度バカ売れしました。アメリカ国民が「1984のようなディストピアになる」と悲観したからと言われています。アメリカ人悲観しすぎや。
よく著名人や映画やドラマで「ビッグブラザーか?」という台詞が出たらほぼこの作品のビッグブラザーだと思われます。支配下に置きたいのかよ?というニュアンスで使われることが多いのですが、あらゆる場面で影響を与えた作品だと言えるでしょう。
正に名作中の名作です。
調律と言いながら全て重々しい題材ばかりのものになってしまいました。興味があれば一度読んでみてください。
本は、いいね。