失敗した人生を歩みたくないから400人分の伝記を読んだのに、本の中の彼らは「失敗しなさい」と私に言う
一度きりの人生だから、失敗しないように歩みたかった。
しかし人生に教科書は無い。既に生を全うしている先人たちは多くいる。そうだ、彼らに学ばせてもらえばよいと思い、伝記集を読んでみた。輝かしい成功の人生を浴びたかったのである。
しかしそこに書かれていたのは失敗だらけの偉人たちの物語であった。
火の燃え方を知りたいがために古屋を燃やしたエジソン、人に騙されてイギリスに置き去りにされたアメリカの政治家フランクリン。
今なら軽い火傷で終わる出来事も昔は大火事だ。深刻さのレベルが違う。
偉人のダメエピソードに唖然とし、失敗したくないからと伝記を読み始めたのにも関わらず、本の中の偉人たちには『違う、まずは失敗をしなさい』と言われている気さえした。
本を読んで気付いたことが二つある。
一つは偉大な人でもあっけなく死ぬ、ということだ。
本編でその人の終わりを告げる文を何度も目にした。その度にあぁこの人でも死ぬんだと思った。驚くほどあっけない最後を迎える人も居て「なんでだよ…」と呟いたこともある。そのときの虚しさをどう表現すればよいのだろうか。
作曲家のモーツァルトがいる。
五歳で作曲を始め九歳で交響曲を作った天才だ。そんな彼は三五歳という若さでこの世を去った。死因は彼の才能とは裏腹に貧困での衰弱だ。天才の最後としてはあまりに悲しい結末である。短い生涯の中で六〇〇曲以上の曲を作っている。彼は間違いなく天才であったが、同じくらい努力の人でもあったのだ。
モーツァルトの人生は成功だったのか失敗だったのか、私には分からなかった。
もう一つの気付きは、偉人たちは二・三十代で代表作を作り上げている人が多いことだ。恐らく当時の平均寿命も関係しているのであろう。短い生涯の中でその後数百年も語り継がれる作品を残しているのだ。
モーツァルトの一生を見つめて私はこれから何が出来るのだろうと静かに考えた。
そこには失敗や成功といった判断基準はなく、ただ本の中の彼らが眩して羨ましかった。私も同じような場所に立ちたいと思えた。
何も残せない人生は悔しい。何か代表するようなものを残したいと欲が出た。その作品作り。そうだ、これを私の人生の目標にしよう。
本の中の彼らに助言を貰うつもりが、焚き付けられただけだった。
そしてやはり『沢山挑戦して、失敗しなさい』と言われている気がした。
うん。
じゃあとりあえず、この文章を応募してみることから始めよう。