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2024年J2第25節横浜FC-ジェフユナイテッド千葉「2分で未来は変えられるが」

サッカーの世界では「1分あれば1ゴール奪える」的な格言があるのだが、それは一種の例えで、エンジニアが「技術的には可能」というのと同じ意味だと思っている。理屈上可能だが、実際にそれを達成するのは様々な条件が揃った時だけ、つまり実質不可能を示している。

その実質不可能を可能にしたのが横浜だった。後半アディショナルタイムの2分間で2点、もう少し細かく言えば約90秒程度で2点を奪って逆転した。蒸し暑い夏の夜に爽快な風が駆け抜けるかのような、あっという間の逆転劇となった。

飛び方を忘れた鳥のように

中断期間明けて、千葉の横浜攻略の狙いは左右の山根、中野に蓋をするところから始まる。右に田中、左にドゥドゥと攻撃的な選手を並べた。横浜のサイドの攻撃を止めて、その裏を使って剥がしにかかる。その攻撃でいきなり横浜は裏のスペースに飛び出されてピンチを招いたので、山根はやや上がりにくくなってしまった。
横浜は山根からの攻撃や決定機が多いように感じるが、数字では中野が福森に次ぐアシスト数を記録。その中野がゲームを作れず、右サイドは山根の上りが遅いと千葉にブロックを作られてしまい攻撃のスピードはダウンしてしまった。中野も相手が中々飛び込んでこないと、自分で侵入するよりも外側にボールを動かしてクロスをあげるか戻すかの選択肢を選びがちだった。
福森と中野のラインは試合を通して狙われがちで、ゲームメイクをさせまいとする千葉の工夫が伝わってくる。

横浜はサイドを使えないと、さらにシャドーの位置の選手も機能しなくなる弱点がある。左右のウィングバックが低く構えて5バック状態になると、2シャドーが面倒を見るエリアが広くなり、横浜は効果的なプレスをかけてボールを奪えずにいた。ボールを奪っても全体的に低いラインを敷いていた、敷かざるを得なかったので選手間の距離が遠くなり、敵陣深くでもボールをこねては奪われる悪循環を披露してしまった。横浜は前半シュートを放つこともままならないでいた。

前半42分、右サイドの高橋のクロスに合わせたのは千葉・エドゥアルドだった。ボランチの選手がディフェンスラインにまで入り込みゴールを陥れた。高橋へのマークもやや甘く、彼をフリーにしてしまった。小川が見るのか、中野が見るのか、相手右サイドバックに対してのケアがままならなかった。

決定機を逃し続けていると

後半も千葉ペースなのは変わらない。ただ、千葉がことごとくチャンスを外している。フリーでのシュートも枠を捉えられない。ここで追加点を奪われていたら本当に試合終了だっただろう。

後半30分までに選手を4人交代させて同点にしたい横浜。それでも前線に良いボールが供給されてこない。負け試合とは考えることはないが、「厳しい状況」だと感じていた。

転機は千葉が後半35分にシステムを変えて3バックで逃げ切りを計ったところから。山根がサイドで主導権を握り始めた。やっと井上が中盤でボールを捌けるようになってきた。ともすると5バックや3バックは相手の攻撃を逆に引き込んでしまう危険性を孕んでいる。

交代選手全員がゴールに絡む

横浜にとって最高のドラマの始まりは、9分と示されたアディショナルタイムに入ってからだった。アディショナルタイム1分、フリーキックのこぼれ球を井上とパス交換した村田は、中央にカットインしていく。千葉の守備陣はペナルティエリアにいたが、誰もブロックに来ない。シュートフェイントを3回程入れながら、追いすがる千葉・岡庭を交わしシュートを放つと狭い空間を抜けてゴールに吸い込まれていった。

同点になったが、物語はまだ終わらなかった。同点ゴールの余韻も冷めやらぬアディショナルタイム2分、横浜は千葉からボールを奪った。中村から縦パスが櫻川に、それまでタイトなマンマークがあったはずの櫻川はラインがズルズル下がっていたので前を向いて左に展開。同点ゴールを決めて気持ち昂ぶる村田はボール持った。
「あまりそういうプレーは見た事がない」という村田だったが、インサイドハーフのポケットの位置に入り込むフリーのジョアン・パウロにパス。この夏新加入のジョアン・パウロも外国人選手特有の我の強さでなく、シンプルに折り返す。そこに待っていたのは、伊藤翔。

左足でダイレクトで振りぬくと千葉DFに当たり、方向が変わって千葉ゴールに転がった。逆転。1分30秒足らずで2点を奪った。そして、後半交代で入った5選手が絡んだゴールは、その采配の正しさを証明した。

残りアディショナルタイムは7分あったが、守備重視で布陣を敷いた千葉に追いつく迫力はなくそのまま横浜が2-1で逃げ切ったのだった。

2分で未来が変わるなら

劇的な逆転勝利ではあったが、不安要素も垣間見えた。千葉が後半絶好のチャンスを逃し続けたことで、最小失点差で試合終盤まで戦えたが、今後もうまくいくとは限らない。
千葉の弱点ははっきりしていて、後半31分以降の失点数がリーグでワースト。割合でも総失点の約40%は後半31分以降とはっきりしている。耐久力が不足している。後半になって、前半あれだけ後手を踏んだ右サイドで山根がクロスを上げるシーンが増えていったのを見ながら、千葉をどこで上回れるか。試合の焦点はそこだった。
千葉・小林監督はチームのその数字を理解しているからこそ、連敗中だからこそ念には念をいれて後半35分に3選手を一気に変えて守備固めを敷いたが、高さは対策できてもスペースを埋められなかったり、ラインが下がりすぎたのは誤算だったか。横浜にとってはそのわずかな綻びをゴールに結びつけた。とは言え、これは結果論に近く、システムや選手を変える事も変えない事もメリットとデメリットがあり、この試合ではそのデメリットが表に出てしまっただけとも言える。変えなかったら失点していなかったかどうかはわからないし、変えずに失点していたらもっと千葉は批判されていただろう。

逆に横浜は今年シーズン通して後半31分以降の失点が驚異の0。この試合でいえば、終盤攻撃にはやる前線の選手の陰でボニフェイスは最終ラインで千葉のカウンターに奮闘し、ギリギリをつないでいた。上位にいるから、簡単に逆転できたと思われがちだが、その実は守備陣の貢献なくして成立しなかった。
攻撃陣も村田のゴールまで沈黙していたのはまた事実で、彼のゴールが花火に火をつけたともいえる。8月3日は千葉県内各地で花火大会が行われる祭りの日だったが、横浜側のゴールで立て続けに上がったゴールという花火は千葉サポーターには盆の入りを予感させたに違いない。

2分間で逆転できたのだから、同様に2分間で逆転される可能性もあるのがサッカーだ。歴史を作ろうとしているのは横浜だけではない。村田と伊藤のゴールを何度も見返したくなるが、もう次の試合に目を向けなければならない。次節は、勝ち点2差の長崎である。今シーズンの行方を占う一戦になる。逆転勝ちは嬉しいが、次も同じ入りをしたら手痛いしっぺ返しを食らうだろう。

横浜こそが昇格と優勝を達成するクラブであるための90分にしたい。


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