E123: あ、並一つください
約25年前、私に妹ができた。
弟の妻、つまり義理の妹である。
弟とは学生時代からの付き合いなので、
学生の頃には、もう実家に遊びに来ていた。
当時からほんわかしていて、話しやすい人ではあったのだが、
弟と結婚してからも、
この頼りない兄を大事にしてくれる、
素敵な人である。
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まだ甥っ子たちが生まれる前の話。
新婚早々、用事で大阪に出た義妹は、慣れない大阪市内で完全に迷子になってしまった。
今なら、スマホを頼りに、目的地に着くことぐらい簡単であるが、まだ携帯なんてない時代、土地勘のないところで、迷うことほど心細いものはなかった…。
「…でね。私、困り果ててしまって」
「仕方ないから、『吉野家』に入ったんです」
「え?どうしてって…。だってね、吉野家だったら必ず誰かいるじゃないですか?」
「で、私が勇気出して入って行ったら、『いらっしゃいませ!』なんて言うんですよ!」
「カウンター越しに、お茶まで出されてしまって…なんとなく私座ったほうがいいのかなと思って…」
「私、お茶まで出されてしまって、どうしようもなくなって」
「でね、お茶を出された後、その店員さんがずっと私の顔見るんですよー」
「私、困ってしまって、仕方ないからとりあえず
『並一つください』って」
「お金持ってたし、せっかくだから、牛丼食べて、帰ってきました」
「あまりのことに呆然としていたら、店を出た後、道を聞くの、すっかり忘れてたことに気づいたんです…」
「でも、そんなにお腹空いてなかったんですけど、牛丼はとてもおいしかったです!」
「やっぱり牛丼屋に入ったのは、私だし、お茶まで出されると断れなくて、やっぱり食べて帰らないといけないかなと思いまして…」
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この一件以来、私は
義妹を人としてすっかり気に入ってしまった…。
あからもう、四半世紀
月日の経つのは早いね。
いつも大事にしてくれて、ありがとう。
これからもよろしくね。
義兄より
【66日ライラン 38日目】