E226: もう帰るの?
先日、C.ディエムさんが紹介してくださったジャズバラード曲が、なんだかとても心地良くて、何度か聞かせていただいています。
私が直接紹介すると申し訳ないので、
どうぞこちらへ。
ただ、私自身は、ジャズの知識も乏しく
何も語ることができないのですが、
気分が落ち着くというか
「あぁ、これ、ずっと聴いてられるわ…」
という感覚になったのでございます。
こういう感覚、どこかで感じたことがあるなぁと思って、懐かしく思い出したんですよね。
ずっと前、ヒサシ(仮名)の家でのことです。
ヒサシは私が大学生の時にバイト仲間として知り合って、その後私が東京を離れるまで、ずっと一緒に遊んでいた友人です。
ヒサシは親父さんと2人で暮らしていて、
私はそのお家にしょっちゅう入り浸っていました。
ヒサシとは20代前半の楽しい時期に、2人でよく遊んでいました。
「遊び場に困ったら、家に来ればいいじゃない?」
そう言って、ヒサシの親父さんは快く私を招いてくれました。
親父さんが家にいる時は、よくジャズがかかっていたのです。
「源太くん、ジャズってわかる?」
「いいえ、全然わかりません」
「でも、君音楽好きでしょ?」
「はい……でもなんでわかるんですか?」
「そんなの、なんとなく様子見てればわかる」
親父さんはいつも熱心にジャズを語ってくれたんですが、私にはついていけないことも多くて、それを正直に言いました。
「細かいことは、よく、わかりません」
「あ、知識なんて、無理してつけなくていいの」
「でも、この曲はなんとなく心地良いです」
「そう!それでいいんだよ!」
親父さんはとても上機嫌で、私がわかっていようがいまいが、お構いなしに、ずっとジャズの話を聞かせてくれました。
いつもニコニコしていて、
ずっと上機嫌で、
ずっとジャズを聴いている人でした。
私が帰る時は、いつも
「あら、もう帰るの?またおいでねー」
いやいや、もう帰るの?って…。
私は毎度、吹き出しそうになるのをこらえながら、挨拶をするのでした。
私、丸2日いた時もあったんですけどね。笑笑
何日入り浸っていようが、何も言わない人でした。
そして、帰る時は、いつも寂しそうに
「あら、もう帰るの?」って…。
ちょっと不思議な人でした。
息子であるヒサシさえ、
「親父、ちょっと変わってるだろ?」と笑うくらいで。
「信じられないかもしれないけど、
昔はもっと気難しい人だったんだぜ」
ヒサシは、そう言って笑っていました。
人に歴史あり。ちょっと意外でした…。
私と親父さんの奇妙なやりとりを思い出します。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい、久しぶり」
「おじさん、オレ、昨日も来ましたよ笑」
「あら、そうなの?」
「おじさん、おやすみなさい」
「あら、もう寝るの?」
「おじさん、だって(夜中の)2時ですよ」
「あら、ほんとだ!」
「おじさん、お邪魔しました」
「あら、もう帰るの?」
「おじさん、オレ、一昨日からずっといましたよ笑」
「あら、そうなの?」
別居してるヒサシのお母さんに言わせれば
【ずっと、すっとぼけてるおっさん】
だそうですが、
私は、この親父さんの、この感じが好きで
よく親父さんとヒサシの3人で話をしました。
だからといって、
あれこれ、世話を焼くわけでもない。
無理矢理、話に入るわけでもない。
私たちが楽しく2人で遊んでいる時は、
全くほったらかしにしてくれました。
1人ずっとご機嫌にジャズを聴いて
ずっとニコニコしている人でした。
ところが
親父さんは、私が東京を離れる直前のある日、
職場で急に倒れ、その日のうちに亡くなりました。
「なーんも言わないで、慌てて逝っちゃったよ…」
憔悴するヒサシに、かける言葉が見つかりませんでした。
最後の会話もニコニコしながら
「あら、もう帰るの?」だったと思います。
「おじさん、オレ、ジャズのことさっぱりわからないんですけど」
「いいよ、いいよ、そんなの」
「でも、さっき聞かせてもらった曲より、今流れている曲の方がオレの好みです。それぐらいしかわかりません」
「おう!源太くん、いいセンスしてるねー」
そう言ってうれしそうに笑った顔を、思い出しました。
C.ディエムさん、素敵な曲を教えてくださり、ありがとうございました。
【連続投稿: 147日目 ライランⅡ: 58日目】