
【二重敬語にご注意!】姫の敬語講座①
むかしむかしあるところに、美しく聡明なケイコ姫がいました。姫は言葉遣いにきびしく、好きなタイプは「正しい敬語が使えるオトナの男性」。
しかし、なぜか家来のポンコツ愛されキャラ・カンジくんに片思いしています。
「全然タイプじゃないのに・・・!なぜこの私があんな奴を?!」
そんな姫の高飛車な態度とちょっと怒りっぽい性格のせいもあり、今日も彼は、姫の気持ちにまったく気付いてくれません・・・。
「姫!王がお呼びです」
「あら、カンジくんありがとう。お父さまったら何の用かしら」
「姫にお見合いの話があると申されていました。ティールームでお待ちになられているようですよ」
「・・・何ですって?」
ケイコ姫はわなわな震えだし、じまんの赤毛のカーリーヘアが逆立ちました。姫の赤毛が逆立つのは、怒った合図です。
「あなた今なんて言った?!」
「えっお見合い・・・」ときょとんとするカンジくん。その表情のかわいさについ一瞬ときめいてしまった姫ですが、怒りはおさまりません。
「違うわよっ!その後よ!あなたの敬語が間違ってるのよっっ!」
「えっ・・・?ええ~~~?!」
さて、みなさんはどこが間違っているか分かりましたか?
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①申される:謙譲語+尊敬語のためNG
「言う」の謙譲語「申す」に尊敬の意味をもつ助動詞「れる・られる」がくっついており、謙譲語+尊敬語というちょっとおかしな表現になっていますね。
敬語表現において、相手の動作に謙譲語を使うのはNGです。
⇒正しくは「おっしゃる」
(もしくは「言われる」でも〇)
ほかに同じようなNG例を挙げると・・・
×伺ってください
⇒〇行かれてください、お越しになってください、いらっしゃってください
×拝見されてください
⇒〇ご覧になってください
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②お待ちになられる:二重敬語のためNG
こちらはいわゆる二重敬語にあたるためNGです。
「お待ちになる」は「待つ」の尊敬語です。それに、尊敬の意味をもつ助動詞「れる・られる」がくっついており、尊敬語+尊敬語になっているのです。
⇒正しくは「お待ちになる」
(もしくは「待たれる」でも〇)
ほかに同じようなNG例を挙げると・・・
×おっしゃられる
⇒〇おっしゃる
×ご覧になられる
⇒〇ご覧になる
×お召し上がりになられる、召し上がられる
⇒〇召し上がる、おあがりになる
△お召し上がりになる
※「お召し上がり~」も二重敬語とされていましたが近年は許容されつつあるためOK(参考:「お召し上がりください」という敬語は間違い? 正しい使い方や例文を解説)。
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「・・・というわけよ。わかった?」
姫は、ティールームへの送迎の馬車の中で、カンジくんへの説明を終えました。
「はい、姫!理解しました!ありがとうございます。まずは、どれが謙譲語でどれが尊敬語か、しっかり理解するところから始めます」
ニコッと屈託なく笑う顔と憎めない素直な性格。カンジくんのそういうところが好きな姫は、胸がきゅんと高鳴るのを感じていました。
「//// ・・・ま、まあ、とくに目上の相手に謙譲語を使うのはご法度だから、しっかり整理して使い分けることね」
「でも、姫。二重敬語のほうも、そんなにダメですかね?正直、丁寧なら丁寧なほど良いじゃんって思っちゃいます・・・」
「慇懃無礼ってことば知ってる?」
「いえ・・・」
「丁寧すぎると、かえって失礼に感じるものなの。私も姫をやっていて思うけれど、あまりにへりくだられるとなんだかうさんくさいっていうか・・・、逆に馬鹿にされてるような気がしてくるのよ(参考:goo辞書)」
「へえ、なるほど。そんなもんですか・・・あっ、ティールームに着きましたよ」
カンジくんの手を借りて馬車を降りながら、ふと、姫は言いました。
「ねえ。私がお見合いすること、どう思う・・・?」
ドキドキして、カンジくんの目が見られません。
「良いと思いますよ!!!」
「え??」
あまりの即答ぶりに拍子抜けして顔を上げると、カンジくんはいつもの屈託のない笑顔でした。
「お見合いの相手、大金持ちのイケメンらしいですよ☆ぜひ写真だけでも拝見して・・・じゃない、ご覧になってください!うまくいきますように!!ヒューヒュー☆」
人の気も知らず冷やかしてくるお調子者の家来に、姫の赤毛はたちまち逆立ちました。
「もうっ!なんっっなのよ、あんたは~~!!!!」
「ええ??僕、また何か敬語間違ってました・・・?」
「敬語じゃないわよ!あと普通に姫に向かって『ヒューヒュー』はないでしょ!!バカ!!!」
怒って駆けだした姫を、あわててカンジくんは追いかけます。
「ええ~?ごめんなさ~い。姫、待ってくださ~い!」
姫の敬語講座と片思いは、まだ続きそうです・・・。
参考リンク
・知っておきたい!よく使う敬語変換表【尊敬語・謙譲語・丁寧語】
・二重敬語とは?間違いやすい例や敬語の種類をわかりやすく解説