さようなら おぢさま
彼とは長い付き合いだ。
覚えてる限り20数年来のお付き合いだ。
おぢさま。
漢字で書くと
「御痔様」だ。
ついでに私は「大痔主」だ。
一昨日
おぢ様とのお別れの一泊旅行に行ってきた。
つまりは一泊入院で、
切っても切れなかったご縁を、手術で切っていただいてきた。
無事終わったというところで、せっかくの体験をレポートしようと思う。
(出血、吐く、女性の生理などの描写が苦手な方はどうか、今、ブログを閉じてくださいませ)
おぢ様、彼との1番古い記憶は25年前くらいだろうか?
私はサルモネラ腸炎という食中毒になった。
とんでもない下痢に見舞われお尻を酷使し、血栓性外痔核を発症した。
かなりの激痛だった。立っていられないほどの激痛。
痛みの強さで言えば陣痛の方が痛いはずだが、
陣痛の痛みは都市伝説の通り忘れてしまったので、我が人生歴代第1位の痛みと言える。
お尻を切って血の塊(血栓)を出してもらうのだが、あまりに症状が強く2日連続で切ってもらった。
ついでに言えばこの傷は解放創。
つまり縫わないから出血し放題。(書き方よ)
ここまで赤裸々にに書くのも如何なものかと思うが、
運悪く生理とぶつかってしまい、もうどこからの出血かわからんけどとりあえず大出血に苦しんだ。
(そう言えばこの日も仕事してたな。この状態で)
(書きながら、よくぞこの状態で仕事をしたなと思う)
その次の記憶は息子の出産時。
この時も出産予定日を目前に控え腸炎にかかり、再び痔主になる。もともと妊娠中は痔を発症しやすいのだ。そして出産時の「いきみ」で私は痔主から大痔主になった。「こんな大きいものはなかなか見たことがない」と主治医に言わしめるほど、相当大きなモノだった。
ここまで赤裸々に書くのもいかがかと思うが(2回目)椅子に座ったらお尻のおぢ様が椅子に触るほどの腫れ具合。この大きさと痛みと出産後の痛みでよちよち歩きしかできない。
よくぞこの状態で退院後、新生児と2歳になった娘の相手をしたもんだと思う。ちなみにその時娘は運悪く(2回目)アデノウイルス感染症で高熱を出していた。左腕で息子に授乳をしながら、右手で高熱の娘を支え背中をさするというカオス状態も懐かしい思い出だ。
それでもその後はそれほど日常生活に支障はなく、だましだまし生きてきたが、とうとう大出血を起こし(主観です・医師曰く想定内の出血らしい)手術を決めた。
手術と言えど、簡単な部類の手術だろう。それは医療事務の経験から言えること。しかし自分が患者となれば話は違う。一大事だ。
入院の日の朝は絶食。朝ごはんを食べないのは簡単だ。
だけど油断しがちなのがお弁当作り。何かの味見だとか、手についたお米をパクッとしちゃうとか、絶食の落とし穴だ。
そのため私は健康診断などで絶食の日は、お弁当を作らないと決めている。
この日もお弁当作りはパス!
そしていつもは車で行く病院だけど、一泊するから徒歩で向かう。
到着して、手術着に着替えて血栓予防のための靴下をはき、点滴しながら待機。
手術室へ移動。
コブクロの曲が流れている。完全に先生の趣味であろう。
腰にまず局所麻酔をしてから、腰椎麻酔の注射。麻酔が効くまで手術台に座っている。15分待ってからうつ伏せになる。
お尻の手術だから私はうつ伏せでとんでもない格好をしているはずだが、不思議と羞恥心が薄い。たぶん麻酔で下半身の感覚がないからだろう。この格好は素面じゃきっと無理だ。だから「麻酔」は「酔う」と書くのか?
(絶対違う)
そして何よりも、手術で1番辛かったのが羞恥心や痛みではなく
「加齢臭」だった。
私の手術の順番は3例中の2例目。
私の前に手術を受けた同年代のあのおっちゃんのものと思われる加齢臭が残っている。
うつ伏せだから、ドーナツ状の枕に顔を乗せる。
その枕の穴たっぷりにニオイが染み付いているのだ。
もちろんその枕には新しい不織布がかけられているが、その不織布の下のドーナツ状の枕からニオイが立ち上る。
しかもそのドーナツ状の穴に顔を埋めるのだ。
つまり、その香り立ち上る穴に顔で蓋をする。
つまり、密閉状態。
まさかお尻の手術にこんなトラップがあるとは計算外だ!
顔は動かしていいと言うことなので、限界まで顔を横に向ける。
うう‥くしゃいよー。辛い、苦しい。
しかし言い出せない。
「加齢臭が辛いです」と言ったところでどうなるんだ?
どうにもならない。
なんて思っていたらなんだか本当に苦しくなってきた。
うつぶせで胸と胃が圧迫されて息が苦しい。ここでさすがに申し出る。
「すいません‥気分悪いです」
気のせいか血圧のモニター音がアラーム音ぽくなってないか?
本当に気分が悪くてじっとしていられない。上半身は動くので、姿勢を常に動かす。しんどすぎて声を出さずにはいられない。うーうーと唸り続ける。
そう言えば看護師さんが、腰椎麻酔で吐く人もいるって言ってたな。
「すいません。吐きそうです」
と言いながら頭では
「あー、やっぱ吐くって反射的よなー。我慢できるもんじゃないよねー」なんて考えてる自分もいるのが不思議だ。
それでも看護師さんが容器を口元に差し入れてくださるまでは、なんとか吐かずに耐えた。
それからおえおえと吐きながらも
「なるほどー。だから朝は絶食なのねー。朝食べてたら、これへたすりゃ詰まるよな」
なんて考えてる自分はイカれてるなと思う。
少し吐いてスッキリして、気分も少し良くなってきた。
「もう大丈夫そうです」と言って容器を外してもらう。
「うん、大丈夫よ。血圧も戻ってきたからね」とにっこり笑って(見えないので想像)看護師さんが言う。
「血圧戻ってるって…やっぱり血圧さがとったんかーい!
あの音は血圧低下かい!」
と頭のなかでツッコむ私は相当イカれてるなと思う。
あとから聞くと、血圧は80を切ってたらしい。とは言え私はもともと血圧が100いかない低血圧体質なので大した下がり幅ではないらしい。
患者としては手術中に血圧下がるとか吐くなんて不安しかないが、先生方からするといつものことなんだろうな。
手術が終わり病室へ戻る。下半身は麻酔が効いていて全く動かせない。麻酔が切れるまで約3時間。ベッド上で安静。血圧も低いままなので、ベッドも起こせずだった。(頭を起こすと血圧は上がりにくいらしい)麻酔が切れてからは、お手洗い移動はOK。夜からは食事もOK。スマホでアニメを見ながらゆっくり過ごす。
翌朝、傷の確認の診察後に退院。
最後に窓口でお支払いをするわけだが、私はここで5秒悩んだ。
請求書を一目見て、病院側の計算間違いに気づいたのだ。
差額ベッドの料金が加算されていない。もちろん普通の人なら絶対気づかないだろう。しかし医療事務歴20年。一目でわかってしまったのだ。
悪魔が囁く。
「このまま気づかないふりでいこう!病院側のミスだからあとから請求来ないって!」
しかし天使はこう言う。
「あなた、医療事務何年やってるの?」
5秒悩んだのち
「あのーすいません。これ差額ベッド代入ってないですよね?」と申し出る。
「え!個室でしたか!すいません。言ってもらって助かりました」
そうだろうなー。この計算間違いは確実怒られる部類のミスだ。
気持ちわかるよー。
だけど私はぶっちゃけた話、気づくんじゃなかったと思ってるよー。
とういうわけで、長いお付き合いだったおぢ様とのご縁を、文字通り断ち切っていただいた。
手術から二日たった今は、しっかり痛み止めも使いながらなので、日常生活に問題はほぼない。問題がなさすぎで、家族から病人扱いされず困るくらいだ。
そしてこの手術で私が一番気に病んでいること。
私の手術の後に、3例目の手術を受けた男性がいる。
「う!このニオイ…さっきの2例目のおばちゃんのニオイか!」と思われているのではないだろうか。
「それは誤解だ!私のニオイじゃない!
1例目のおっちゃんのニオイだ!」
そう伝えたいのだが、もう伝える術はない。