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大嫌いな母だけど、もう一度 話がしたい。

母が今日、手術を受けた。
心臓のカテーテル手術で、今日から3日間の入院予定だった。

本来なら、夜には麻酔から開けて、病室に移動するはずだった。
そう。「だった」。

現実の母は「ICU(集中治療室)」で、たくさんの機械に管で繋がれて眠っている。
呼吸も自分の力でできない状態だ。

一体何が起きたのか。
それは、カテーテルが予想外の血管に進み、傷つけてしまったから。
いわゆる「医療ミス」なんだと思う。

当初の予定では「長いと6時間ぐらいかかる」と言われていた手術。
6時間過ぎても全然連絡がなく(コロナの影響で、病院では待てず自宅待機)、一緒に待っていた父と「ちょっと電話してみようか…」とスマホを持った瞬間に、父の携帯電話が鳴った。

担当医の先生からだった。
深刻そうに「はい、はい」を繰り返す父の電話を取り上げ、スピーカーにした。

「予定外の場所の血管が傷ついてしまい、出血が止まらない。何度も止まりかけては、また出血するということを繰り返している。このままではもたないから、開胸手術に切り替えた方がいいと思う。同意書を書いて欲しいので、今から病院に来て欲しい」という内容だった。

「出血が止まらない」と聞いて足が震えた。
「こういう時って、足が震えるんだな」頭の端っこで、そんなことを思った。


父と病院に駆けつけると、主治医の先生から「申し訳ない」を繰り返された。

なんとか出血を止めようと努力したけど、母が「血をサラサラにする薬」を飲んでいたこともあり、カテーテルを使った作業ではなかなか出血が止まらない。
だから開胸して、どこから出血しているかを目で見て確認し、直接止めた方が逆にリスクは低い。ということらしい。

もうなんでもいいから、母の命を救って欲しい。
そう思った父と私は、開胸手術を受ける旨の「同意書」にサインをした。


実は4年前、同じ手術を同じ先生から受けていて、その時はスムーズに終了した。
後遺症もなにもなく、数日で退院したし、本人もケロリとしていたので「ま、今回も大丈夫でしょ」と甘くみていた。

あれから4年経って84歳。
年齢的なリスクはあるにしても、同じ先生だし3日で退院だし、そこから1週間もすれば、通常の生活にもどるでしょ。
そう思っていた。

でも、全然違った。

開胸手術をする外科の先生によると、簡単な手術ではないし、開胸しても出血は止まらないかもしれないし、感染症のリスクも出てくるし、血栓が飛んで脳梗塞などになる可能性もあるという。

それでも。
「どうか、母をお願いします」と頭を下げるしかなかった。


私は、母のことが大嫌いで、顔を見るのも嫌だと思うこともあるし、正直「いなくなればいい」と思ったことも何度もある。

でも、このまま母がいなくなるかもしれないと考えたら、胸が潰れそうになった。
私、意外とお母さんのこと、嫌いじゃなかったのかもしれないな。そう思った。


今朝、手術に向かう直前まで、普通に元気だった母。

「退院した日、何が食べたい?」と聞くと「うなぎ」と言われた。

ついこの間、誕生日祝いで鰻重を食べたばかりなので
「またうなぎー?好きだねえ」と私は笑った。

「そうねえ、じゃあ明日、また考えてLINEするわ」母は言っていた。

お母さん、何が食べたいの?
LINEちょうだいよ。
手術が終わったら見ると思ったから、猫の写真LINEしたんだよ。
お母さんのスリッパをジジがあっためてる写真だよ。
スリッパほこほこにあったまってるよ。
ねえ、返信ちょうだいよ。


その後、開胸手術は無事に終わった。
でも色々あって、まだ安心は全然できない状態だ。

コロナのせいで、病院に行っても会うことはできない。

「何かあっても、順調でも、1日2回お電話します」
母と私たち家族を繋ぐのは、1日たった2回の電話だけ。

ただただ心配で、ただただつらい。

大嫌いなお母さん。
早く帰って来てよね。
また喧嘩させてよね。
待ってるから。
お願いだから。

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