粗忽の釘
世の中には、おっちょこちょいとかそそっかしい人はいるもので、落語の古典にも『粗忽の釘』という噺があったりする。
粗忽の釘、粗忽者の亭主が女房と引越をする。引越先の長屋で女房が亭主に「ほうきを掛ける釘を打っておくれよ」と頼む。長い釘がいいということで、粗忽者の亭主、8寸(24 cm)もある瓦釘を壁に打ち込んでしまう。こいつはまずいとお隣の家に行ってみると、お隣の仏壇の中の阿弥陀様の喉首のところからでている。「やっちまった、大変だ。明日から箒をこっちにかけに来なくちゃいけない」。そんな噺だ。
「落語に出てくるような、そんな人は実際にはいないだろう」と思っていたのだが、ドロシーが実家のトイレの換気扇のスイッチの場所を変えたいと電気工事屋さんに来て貰った。ヒーターの配線もあるのでと新しくコンセントも取り付けてくれたらしい。
「工事の間、ずっとしゃべりっぱなしだったのよね」とドロシーはいう。まぁ、きっと良い人なんだろう。工事の価格も良心的で仕事も速く、予定よりも早く来て、予定よりも早く終えて帰っていったという。
で、しばらくして、ドロシーがお勝手口に回ってみると、なんとトイレの所から木ネジが5 cmほど飛び出ているという。「あれれ?」と思って確認してみると、新しく付けてくれたコンセントを壁に取り付ける木ネジが飛び出していたらしい。
「5 cmも?」「うん、5 cmぐらい。まぁ、勝手口のその辺りは今は誰も行かないし、大丈夫なんだけどね」「工事屋さん、そんな長い木ネジをなぜ使ったの」「知らないけど・・・」
まぁ、「そそっかしい(粗忽な)人に悪い人はいない」と市馬も言っている。別にいいのだ。いいのだけれど、ただ、電気工事屋さんとか大工さんとか、大丈夫なのかなぁ。ちょっとだけ心配にはなる。