句集紹介 松浦加古『探梅』
俳誌「蘭」は昭和四十六年の創刊。師系は大野林火。自然と呼応する生命の声と心の在り様を一句に凝縮することを理念とする。主宰は高﨑公久。作者の松浦加古は名誉主宰。
本書『探梅』は、平成三年の第一句集『谷神』、平成二十四年の第二句集『這子』につづく第三句集になる。平成二十四年から令和二年までの作品を収める。
略歴によれば作者は東京生まれ、十歳より父母の生地飛騨に移住している。
うぶすなの山の畑に梅ほのか
雪を踏む雪の記憶の足の裏
昭和四十八年に「蘭」に入会し、野澤節子、きくちつねこに師事する。
風花へ手をさしのべて師の忌日
七夕に届くと節子全句集
平成二十一年に「蘭」の主宰、平成二十八年に「蘭」の名誉主宰になる。
冬菫ともに歩めるよろこびに
題名の『探梅』は句集巻頭の句からとられていて、「まだ寒さの残るころに咲き出す梅の清冽さ潔さが好き」という。
探梅やこの一輪に出逢ふため
また「中国伝来の梅花を喜んだという万葉時代を偲び、さらに有史以前の日本人の先祖にまで思いが飛びます。」ともいう。梅を触媒として、思いは遥か昔にまで及んでいる。
寒晴や若き縄文びとの骨
旧石器時代の石か春の雨
「みずからの「探梅」は思うようにいきませんでした」と言うが、日本人の祖先から受け継いできた命を引き受けて、今を精一杯生きる、そんな思いが浮かび上がる。
初蝶のはばたくやわがたましひも
初蝶に突風といふ試練あり
代々を懸命に生き青田波
この世よりあの世へつづく渓紅葉
探梅といふ足取りに山をゆく
同じく野澤節子を師とする土生重次は、生まれが作者の一年後、「蘭」の入会も作者の一年後の同世代。重次の門下生としては、
「どうや」てふかの世の声に帰り花
に重次の面影を重ねてしまう。 (二〇二一年 本阿弥書店)
(俳句雑誌『風友』令和三年七月号)