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EUDITION ってなんだ。商品開発のお話。

私がディレクターを務めるEUDITION は、第一弾商品としてフェイスオイルを発表しましたが、化粧品ブランドぽくないと言われます。化粧品ブランドを創るつもりはありません。
EUDITION は、持続可能な地域産業の創出と、日本の地域固有の植生を活用/保全することを目的としたブランドです。

鹿児島県肝付町岸良に古くから自生する辺塚(へつか)だいだいにひょんなことから出会い(岸良との出会いについてはコチラ)、地勢に惚れ込んで足繁く通い、地域課題の解決を植物発で考えた結果、化粧品原料として開発するに至りました。もしかしたら、次の商品開発はどこかの地域固有の植物を使って染物をしているかもしれません。

地域と植生を軸に商品開発

商品開発の軸、というか起点は、「地域」と「植生」です。通常のメーカーさんのように「市場」とか「ターゲット」とか「ニーズ」から始めませんでした。

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鹿児島空港から車で2時間半かかる美しい小さな集落、岸良。地域の課題がありました。
・主だった産業がないこと
豊かな紺碧の海に面していますが、外海なので錦江湾で行われるような養殖には向きません。農業も、飼料用のお米など育てている方がいますがとても小さな規模です。高齢化のため耕作放棄地もたくさん。
・生産量の少ない辺塚だいだい
生産量が限られているので、鹿児島県内でもほぼ流通していません。果樹ですから、生産量は急激に上げられません。新しい苗が良質な実をつけるまで5年かかります。
・農家さんの驚くほど安い収入
ある農家さんからは、平均月収は3万円ほどと聞きました。これではなかなか後継者も望めません。
・宿泊施設や飲食店がない
湯の谷温泉という施設がありますが、キャパシティが限られています。飲食店もほとんどありません。だから「秘境」として観光客を呼び込むことは望めません。

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EUDITION OILの主要原料は辺塚だいだい発酵エキスです。これは、辺塚だいだいという地域固有の香酸柑橘の果皮と枝葉の成分を、サッカロミセスという酵母で培養し抽出しています。
酵母で培養する事で、生産量が少ないがゆえに産業利用に向かないという課題を克服できるからです。この方法なら、需要が増えても対応できるので、無理に辺塚だいだいの生産量を急激に上げる必要がないため、農家さんに負担がかかりません。
そしてジャムやジュースといった加工品を作る際に捨ててしまっていた皮や、剪定のため春に切り落とす枝葉が原料として売買できれば、アップサイクルになります。辺塚だいだいの化粧品原料を今後他のメーカーさんにも利用してもらえることになれば、枝葉も農家さんにとって果実以外の収入源になります。
さらに、果樹には裏年があるので収穫量にばらつきが出たり、自然災害による不作などがありえますが、果皮と枝葉を冷凍して保存しておいて、必要な時に化粧品原料化することができるので供給が安定します。
さらにさらに、培養する事で元々辺塚だいだいが持つ抗酸化作用や抗菌作用のある成分を強めることができるのです。

まさに一石四鳥な酵母パワー。

なぜ地域固有の辺塚だいだいにこだわるのか

日本にはたくさんの柑橘類がありますが、鹿児島県肝付町岸良(きもつきちょうきしら)周辺に古くから自生する香酸柑橘である辺塚だいだいは、鹿児島でもほとんど知っている人がいません。生産量が少ないので地元でほとんど消費されてしまうからです。岸良周辺地域でのみ生育する貴重な地域固有の植物です。
長い長い年月をかけて、岸良周辺の気候風土に合うように進化を遂げてきました。だから岸良の土と水と風があれば、無農薬・無化学肥料でちゃんと自分の力ですくすく育ちます。「固定種」と呼ばれる昔ながらのお野菜や果物で、「在来種」「伝統野菜」などと呼ばれるものの多くも、この「固定種」です。
これは、普段私たちがスーパーで見る均一な形や色をしたお野菜、例えばブロッコリーやキャベツ等と「種」が異なります。
これらは「F1種」と呼ばれます。いわゆる交配種です。
中学生の頃に理科で習ったメンデルの法則で、「優劣の法則」があります。異なる形質を掛け合わせると、その子どもである第一世代には「優性」の形質だけが現れ、均質化されます。だから交配種の野菜はとっても均一。そうすると、見た目が良く消費者は喜ぶし、バラバラの形よりも配送の効率が上がります。しかし、交配種の種をとって植えても、第二世代は均一な形質ではなく、バラバラになります。だから種や苗を毎年買わなくてはいけません。1代限りなのです。現在の流通は、効率化のために、各地から流通センターに集め、それを各地に配送して販売します。遠くから大量に流通させる時代ですから、流通に向いた交配種はどんどん増えていきます。もちろん交配種を否定することはできません。私たちの食生活は、交配種に支えられているのです。実際有名な伝統野菜の多くが結構なお値段しますし、広大な土地を所有して固定種の種だけ植えて自家栽培でもできない限り、F1種を避けるなんて無理でしょう。しかし、「効率」とか「生産性」が優先されて、人間が意図的に自然のリズムに手を加えていることの不自然さは忘れてはいけないと思います。

「固定種」である辺塚だいだいに私が強くこだわる理由は主に2つあります。

1. 風土を反映する地域の資産である

人間の暮らしと地域の自然が織りなすのが風土です。岸良の住人と自然が生み出す辺塚だいだいは、まさに岸良の風土そのものと言えます。

辺塚だいだいは、岸良周辺地区の食文化と強く密接に結びついています。
その果汁は、昔から酢の代わりに貴重な調味料として、様々な料理に使われてきました。
岸良の住人が、海で天然のサザエやカサゴを、山でイノシシや山菜を採って、岸良の自然の恵みでもてなしてくれたとき、お刺身や炒め物、地元の焼酎にも辺塚だいだいをたっぷり絞っていただきました。辺塚だいだいを、地元の甘い醤油と混ぜて作るポン酢が抜群に美味しい。香りと酸味が強いこの柑橘は、なぜか他の地域の辛い醤油ではなく、地元の甘い醤油との相性が一番いい。岸良の海で採れた魚を、お刺身や手作りさつま揚げにしてこのポン酢で食べると、ああこれが岸良の味だなと思います。その香りと酸味が地元の食材や調味料と相まって、岸良の食文化を創り上げていることに気づきます。

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しかし、月収3万円のままでは後継者探しも難しいのです。
実際、農薬や堆肥を散布する手間はかからなくても、手入れや収穫は重労働です。草はらいは大変。(綺麗に草がない状態である必要はないのですが、ある程度は払わないと、あっという間に果樹が見えなくなり収穫時に立ち入れなくなります。実際私も雑草が激しすぎて土が陥没しているのに気がつかず脚立ごと落ちたことも。)豊かな土壌に生える雑草の生命力は凄まじく、もう数日でボーボーです。南の地域特有の強い日差しが照りつける夏の暑い日に、ダニなどに噛まれないよう全身を覆っての草はらいはとても過酷です。そして、トゲ(地元では「ぴ」と呼ぶ)が鋭く、注意を払いながら手で一つ一つ収穫するのも重労働です。労働に見合った対価や、旬の時期以外の安定した収入が後継者が出てくる可能性につながります。

岸良の気候や風土に合うように適応してきた辺塚だいだいは、農薬や化学肥料に頼らなくても力強く実をつけます。
私たちが普段スーパーで購入する野菜のように、輸送で潰れないように皮を厚くしたり、輸送の効率を上げるため形を揃えたり、流通の基準に沿うために色のバラつきを抑えたり、他の品種と交雑させた「F1種」とは異なり、大量生産・大量消費には不向きかもしれません。でもその土地の個性を強く映し出す貴重な存在です。
辺塚だいだいを後世に残すということは、その土地の強烈な個性を語り継ぐということ、その土地の食文化を守るということ。
そのためには、経済効果を生み出せて、農家への負担が少ない方法で、持続可能かつ産業利用可能な形を探す必要がありました

2. 美しい循環の一部である

最近よく耳にする、「オーガニックだから安全安心、人に優しい」というのは私はちょっと文脈をはしょりすぎだと思っています。有機農法は、化学肥料や農薬、遺伝子組換え技術を使わない、環境にやさしい栽培方法です。つまり話の中心は「地球」です。「地球」に優しいから、巡り巡って人に与える影響も少ないのですが、そもそも人に安心安全なものを提供するために考えられた農法ではありません。「地球」が軸なのです。
辺塚だいだいのように大量生産されていない地域固有の種は、「人」軸で考えると、自然のリズムに合わせているため、生産性などを考えると必ずしも人にとって合理的とはいえませんが、「地球」軸で考えると、とても素晴らしいシステムです。

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岸良周辺は、稲尾岳を中心として日本最大級の照葉樹林の原生林が広がっています。その規模は屋久島全体がすっぽりおさまるくらいのサイズです。
照葉樹というのは、常緑の広葉樹です。肉厚な葉っぱの表面に蝋のような物質があり光沢があるのが特徴です。冬芽(写真中央の葉っぱの間にあるのが冬芽)をつけるのが他の広葉樹との違いです。

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常に青々と緑色の葉をつけているイメージですが、季節を問わず、次の葉の準備ができると葉を落とします。高ら他の樹林と比べて落ち葉の量が多く、腐葉土はフッカフカです。これが岸良周辺の豊かな土壌を作る一つの大きな要因になっています。
岸良に上水道が通ったのは2018年。それまでは豊かで美しい山水で生活していました。(なぜわざわざ上水道通したのか不明ですが。)辺塚だいだいの畑は、山の中腹や、麓にあります。山の上の原生林から、豊かな栄養分が山水とともに運ばれるのです。

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豊かな土壌に雨が染み込み、それがやがて海に流れ込む。だから沿岸の生態も豊かになります。そしてその海の水がやがて雨になりまた降り注ぐ。
岸良には美しい循環があるのです。
地域固有の辺塚だいだいは、農薬も化学肥料も必要としません。だから、農薬も化学肥料も土壌に溶け出すことがなく、土壌も水も美しいままでいられます。
人を中心に考えると合理性は低いけれど、この美しい循環に悪影響を及ぼさない。地域固有の種を大切にすることは、地球環境にとってのサステナビリティを考えると非常に素晴らしいシステムなのです。
きっと近代化前、大量生産・大量消費時代の前にあった自然と人とのパワーバランスはこういうものだったのかもしれません。

このように、岸良の雄大な自然の力とそこに住まう人々の文化に触れ、大きな影響を受けて、持続可能な地域産業の創出と、日本の地域固有の植生を活用/保全することを目的としたブランドを立ち上げました。

岸良についての紹介や、照葉樹林の原生林についてはまた詳しくお伝えしていきたいと思います!



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Mari Okada
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