民泊での宿泊者への情報提供〜災害による避難〜
あくまで、法律が規定しているものは、全体から見れば、その一部であり、立法者が最低限と考えていることが多い。
住宅宿泊事業法((平成二十九年法律第六十五号)、以下、法という。)に基づく民泊にも、情報提供の規定がある。
(外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保)
第七条 住宅宿泊事業者は、外国人観光旅客である宿泊者に対し、届出住宅の設備の使用方法に関する外国語を用いた案内、移動のための交通手段に関する外国語を用いた情報提供その他の外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置であって国土交通省令で定めるものを講じなければならない。
法律を読むのに慣れてないと、呪文で外国語と思えてくる書き振りである。
最後に、「国土交通省令で定めるもの」とあるので、こちらもみないと不明な条文である。
国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則(平成二十九年国土交通省令第六十五号)
(外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置)
第二条 法第七条の国土交通省令で定める措置は、次に掲げるものとする。一 外国語を用いて、届出住宅の設備の使用方法に関する案内をすること。二 外国語を用いて、移動のための交通手段に関する情報を提供すること。三 外国語を用いて、火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内をすること。
四 前三号に掲げるもののほか、外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置
けっこう細く定められています。今日は、この中の三番目の話。
この条文でも、具体的な内容は見えてこないです。
まず、外国語は、何語を指すのか?
これは、国が出しているガイドラインに説明があります。
法第7条の「外国語」とは、宿泊予約の時点で日本語以外の言語として提示したものとする。なお、当該時点において、外国人宿泊者が日本語を指定した場合は、外国語で案内等を行う必要はない。
対応可能な外国語で提示します。例えば、英語と中国で対応可能なら、その言語となります。外国人が日本語でも大丈夫なら日本語でも問題ないとのことです。
さらに、「通報連絡先」はどこを指すのか?
ガイドラインに記載があります。
国規則第2条第3号に規定する「火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内」とは、消防署、警察署、医療機関、住宅宿泊管理業者への連絡方法の情報を提供することをいう。
4つの機関への連絡方法の情報になります。一般的には、担当者、所在地、電話番号、受付時間になると思います。
ここまでが、法が定める基準、ここに、「条例」が乗ります。
例えば、東京都渋谷区をみてみましょう。
渋谷区住宅宿泊事業の適正な運営に関する条例(平成30年3月9日条例第6号)
(事業者の責務)
第4条第2項
(4) 震災の発生に備えて、届出住宅内に非常用食料及び飲料の備蓄並びに救出用具及び避難用具の設置を行うこと。
情報提供だけではなく、非常用食料および飲料の備蓄等も、求めています。
ここから先は、事業者の判断になります。
日本は、災害が多い国です。これから、梅雨、台風と雨のシーズンを向かえます。水害により交通機関が麻痺して、帰国や次の逗留地に向かえない場合、宿泊施設が被害を受けた場合、どのような対処があるでしょうか?
一般的な話だと、ハザードマップを参照して日頃から、建物がどのような場所にあるか?行政機関が、避難所に指定しているのは、どこか?これを確認し、情報提供する手段があります。
ハザードマップや避難所は、ウェブで公開されていることが多いです。
筆者の事務所がある東京都中野区が公開している水害のハザードパップ
奈良市は、観光客向けに多言語で避難マップを作成しています。
一時避難所や広域避難所の場所を地図等での情報提供等が考えられます。
*法令により様々な種類の避難場所があります。
整理すると、法令、条例、事業者の3者がそれぞれ必要と思うことが、重層的に重なり、宿泊者への情報提供となると思います。法令や条例を守ることはもちろんですが、それだけをもってよしとせず、事業者自らが必要と考えるものを合わせて、提供する。ここに、宿泊業引いては、「観光業」の大いなる発展があると思います。
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ここから下は蛇足の要素が強いです。ww
最後に、労働基準法の条文ですが、紹介します。
(労働条件の原則)
第一条2項 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
この意は、この法律は最低基準だから、現行の労働契約を労働基準法に基準があるからといって、それを理由に引き下げたりせず、さらに、もっと向上するようにしないといけない訓示になります。
ただ、この意は、許認可等の多くの業法に当てはまるのではないと考えています。
例えば、これを住宅宿泊事業法に置き換えてみると、
この法律で定める住宅宿泊事業に関する基準は最低のものであるから、住宅宿泊事業にたずさわる者は、この基準を理由として提供するサービスを低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
違和感なく読めると思います。
と、また、まとまりがなくなりそうなので、今日はここまでとします。