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そもそも「日本神話」とは何か?
日本神話を語る多くの本について
日本神話の解説に入る前に、今回はまずは予備知識を共有したいと思います。一口に日本神話といっても様々なものがありますが、代表するものといえばなんといっても『古事記』です。
『古事記』は天地開闢(てんちかいびゃく)の神代から第33代推古天皇までのご事歴が記述されています。成立は和銅5年(712)に稗田阿礼(ひえだのあれ)という人が暗記している内容を太安万侶(おおのやすまろ)という人が筆記して作られました。
しかしそれ以前にも日本の歴史を記した文書は存在していました。かつて聖徳太子が蘇我馬子と共同で編纂した『天皇記』と『国記』という歴史書がありました。しかし皇極5年(645)の乙巳の変の際、蘇我蝦夷の家が燃え際に消失してしまったと伝わります。
古事記は万葉仮名という漢字の音を当てて書く方法がとられていましたので、しばらくすると誰も読めなくなり、長らく「古事記を紐解く者は死ぬ」といわれて長い間解読不能となって1500年間放置されていました。以前の記事でも触れましたが江戸時代に入って本居宣長という国学者によってこの古事記が解読されてやっと読むことができるようになったといいます。
次に『日本書紀』という書物についてですが、『古事記』と同様に天地開闢の神代から始まり、第41代持統天皇までの時代の歴史が記されています。養老四年(720)に舎人親王が編年体の歴史書として完成させ、天皇家の系統を明らかにするという政治的な意図と、当時の中国を意識した体裁をもって作られたといわれています。これは漢文で書かれていますのでずっと読み継がれてきました。特徴として様々な諸説が物語の進行途中に同時に紹介されています。これは一神教ではあり得ない記述方法です。
聖書ならば唯一絶対の神に関する話にブレがあってはいけません、神に対する信仰を揺るぎないものにするため、矛盾する点が指摘されればその都度書き換えられました。
神道にとって聖書にも相当するこの日本書紀の「説を一つに絞らずに様々な諸説を残す」という記述の仕方からは、日本人の寛容さが伺われます。もっとも神道は建前上では宗教ですが、実際は形式的な宗教とは根本的に違います。
宗教は英語でReligion すなわち「固く縛る」というような意味のラテン語Religareからきているようでして、すなわち人々に「これをしてはいけない」「こうしなければ天国へ行けない」など、人の行動を規制するのが宗教ですが、神道にはこのような戒律は存在しません。
古事記と日本書紀を合わせて「記紀」と呼びますが、このほかにも和銅6年(713)に元明天皇の命により諸国に命じて作成させた郷土史である『風土記』(現存するのは常陸(茨城)、播磨(兵庫)、出雲(島根)、豊後(大分)、肥前(佐賀・長崎)のみ)や、斎部氏が大同二年(807)に編纂した『古語拾遺』や聖徳太子や蘇我馬子が著したとされる『先代旧事本紀』(実際には平安時代に成立したと考えられている)等が神道の「神典」として挙げられます。
一般の人々が知っていて全国のどの書店にもあるものは古事記・日本書紀ぐらいのものでしょう。
古事記・日本書紀が成立した背景には国内の安定化を図る必要性に迫られたことにありました。天智2年(663)に日本は唐と新羅の連合軍に大敗を喫し、天武元年(672)の壬申の乱で国を二分にした大乱が起こった後に編纂された国史が古事記であり日本書紀でした。つまり、国の体裁を整え威儀を示すために作られた神話であり、日本の公式な歴史なのです。
しかし、歴史は勝者によって作られるという言葉の通り、この記紀は藤原氏が政権に大きな影響力を持った時代に編纂されました。そのため皇室と藤原氏にとって都合の悪いことは触れられなかった可能性が指摘されています。
戦前まで皇室や神話について議論や意見をすることは不敬罪に問われる可能性があったため、記紀神話とは異なる内容の神話、古史、古伝にまつわる文献や口伝の多くが秘伝とされ秘匿されてきました。
しかし戦後、象徴天皇制に変わってからはそれらの文献が次々と発表され、様々な議論や研究がなされるようになりました。カタカムナ文献、ホツマツタエ、出雲口伝などが例に挙げられます。近年では様々な神道の流派の伝承者から秘伝・秘儀とされてきた内容が、次々に公開されるようになってきました。
従来の神話、古代史とは異なる内容を持つこれらの文献に対する人々の興味関心は高く、もう一つの日本の神話、歴史を考える上で大変重要になってくるものと思われます。
しかし、これらの多くが今までの歴史の根底を覆す内容であるため、現在の学問の枠組みでは語ることが難しいとされています。本来ならば、このnote
においても、れらの伝承にも触れたいところですが、これらの文献や論説を語る前にはまず、従来の神話を基準として据えておく必要があります。
そうしなければ、それぞれの神話によって神様の名前や、神様同士の関係性が随分食い違ってきますので、頭が混乱してしまいます。
よってこの「腹に落ちる日本神話」のマガジン記事では、神話のスタンダードとされる古事記と日本書紀を中心に、日本神話を解説していきたいと思います。日本書紀は前述した通り、様々な諸説に触れながらストーリーが進みます。一方の古事記は一つの流れでストーリーが進みます。
解説の都合上、古事記のストーリーを軸としながら、日本書紀のエピソードや、全国に伝わる様々な神話のエピソードを紹介し、解説を進めたいと思いますので、この点を念頭に置いてお読みいただけると幸いです。
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