100人いたら100通りの子育て №.8葛木久美子さん
今回取材させて頂いたのは葛木久美子さんです。久美子さんと出会ったのは8年ほど前にシュタイナー教育の講座でご一緒した時でした。その後も学ぶ場でご一緒することがあり、やむなく欠席をした講座について内容をシェアしてくれたことがありました。その内容がとても分かりやすく、一度学んだことを誰にでも分かりやすくアウトプット出来る能力にとても驚いてすごいなあと思ったのを今でも覚えています。
現在、小学二年生の女の子と幼稚園の年中さんの男の子を子育てしている現役ママさんです。久美子さんのSNSで発信する子育ての様子が、子育ての楽しいこと、大変なこと、すべてを楽しんでいるように感じ、久美子さんの子育てを取材してみたいと思ったのです。
この取材は帯広おかあさんのがっこうの魅力プロジェクトとして100人のお母さんに取材させて頂く企画です。おかあさんの学校の活動について詳しくは下記をご覧ください。
今回の取材にはおかあさんのがっこう教頭の樽見真樹子さんも同行して、子育ての話に花が咲きました。
SNSで書かれている文章がユニークでとても面白い視点で物事を捉えていらっしゃるのが印象にあったのですが、以前の職業が雑誌の編集者ということでとても納得しました。久美子さんはご自身のことを理系で、ものを書く時も理系の思考で書くことで、周りからは分かりやすいと評価を頂くことが多かったかそうです。
最初から文章を書くお仕事をされていたわけではなく、様々な職を経験するうち、編集の仕事にたどり着いたということで、久美子さんの経歴も気になり、聞いてみました。
教育大学に進学した久美子さんですが、周りの同級生はほぼほぼ教員に向かって道を進んでいく中、久美子さんはとても迷いながらも教員の道を選択しなかったそうです。
「社会のこと世の中のことを知りたい気持ちが強かった。とにかく一度学校という社会の外にでてみないことには、子ども達に本質的なことは何も伝えられないんじゃないだろうかと思っていた。」と、当時の胸のうちを話します。
職業の選択にしても、子どもを産む産まないにしても「どっちを行ったら後悔しないか」を考えながら、自分でしっかり考え見極めて選択してきた、久美子さんの生き方を垣間見たようでした。
子どもを産むと選択をする。何となく子どもが出来たから産むとは違う、自分で子どもを産むのだと選び取ること。その選択をした久美子さんのお話しにくぎ付けになりました。
出版社での編集の仕事はちょうど、新しい企画の季刊誌の発行を立ち上げるところから関わっていたそうです。
来年の夏に出版される季刊誌の取材は一年前の季節に企画を書いて取材をこなしていく、それを季節ごとにしていくために、終わりがない仕事だったそうです。
載せる記事の取材から記事の作成、編集までをこなし、仕事に脂がのって、仕事に熱中していた時期を過ごされていたことをお話ししてくださいました。
ちょうど、取材先で知り合った女性が自宅で子どもを産んだことや良い出産感を抱いているお話しを聞いたことで、今までは考えていなかった、「女性が子どもを産むこと」について考えるようになったそうです。
「女の人が子どもを産むってすごいことなんだ。仕事よりもやりがいがあるのかもしれない」そう思ったそうです。胎教、すなわち妊娠中の母親のメンタルが、生まれた子の一生を左右する土台になるという話を耳にしたこともあり、主体的に産むのであれば、仕事か出産のどちらかを選ぼうと思い、出来たら辞めるのではなく、子どもを産むから辞めるという選択をしたのだそうです。
「仕事はある程度の年数を経験すれば、自分でなくとも出来る仕事、自分でなきゃ出来ない仕事を考えたら子育てだったんです」と。「今でいう妊活?のはしりみたいなものね」とその場が盛り上がったのは言うまでもありません。
そして、仕事を辞めて出産、子育てに向かう時の心の変化について、とても興味深い内容をお話ししてくださいました。
仕事が軌道に乗り、安定して進んでいくようになる頃、久美子さんの心に変化が訪れたそうです。
「仕事をしてきた中で、自分にはこれで人に貢献できる、こういう能力があるんだという自信がもてて、ある意味自己実現を果たしたと思っていた頃、結婚もしているのに、どこかしらか虚しい風が心をすうっと吹いたようだったんです。」と。それが何であるのかすぐには分からなかったそうです。
取材を通じて、知り合った自宅出産をされた方が貸してくれた本の中に「女性とは、自分を高めるための努力をし尽くした先には必ず、自分以外の他者に愛情を注ぎたくなる生き物で、もし何かしらの虚しさを感じるとしたら、きっとその変化のタイミングが来ているということ」*¹と書かれていた一フレーズに出会い、それだ!!と思ったのだそうです。
「自分のことを突き詰めた後には誰かのために愛情を注ぎたくなるものと知って、仕事で自己実現を果たして、あと足りないものが何かを考えた時に、子どもなんだと思ったんですよね」と。
そして、深い思い入れとともに妊活をスタートさせたのだそうです。
久美子さんがどうして子育てを楽しそうにしているのかという問いの答えはここにあったようでした。
「うっかり、子どもが出来て子育てをスタートしたのではなく、仕事を捨ててお母さんを選び取ったからにはお母さんを楽しもうって思って、一つ一つを大事にしたいんです」
女性がお母さんになるタイミングはひとそれぞれですが、久美子さんはお仕事を通して、自分の能力や特性を発揮し、自己を理解し、自己実現をされ、そのあとに自ら望んで母親になったことで、お母さんであることにこの上ない満足感を得ているのだと感じました。
まるで『お母さん』というたすき掛けを肩に下げて自信を持って歩いているような感じです。
独身時代、「〇〇ちゃんのお母さん」と呼ばれているお母さんを見て、驚いたと言います。「久美子って名前があるのに、お母さん達は名前で呼ばれず、〇〇ちゃんのお母さんって呼ばれるのかと、えって?思いました。そのころはまだ自分は精神的には子供だったのですね。でも、今は子供のお友達に〇〇ちゃんのお母さんって呼ばれても嫌な感じはしないです。むしろ嬉しい」と笑って話されます。
「自分は子供を産めるタイムリミットに近づいてから、子どもを産んで、それまでにやりたいことはやってきたけれど、若くてお母さんになってどっしり落ち着いている人を見ると、尊敬しかない」といいます。
若いお母さんから高齢出産されたお母さんまで、お母さんと言えども年齢の幅のあるお母さん達。年齢には差があれど、お母さんというだけで、親しみが湧きますよねと話されました。
子育てを楽しんでいるように見えるの久美子さんですが、実際の子育ての大変さなどありませんかと聞いてみました。
子育てをしてみると、出会ったことのない自分、向き合いたくないような自分にも出会って驚いたといいます。
「ある程度、対大人とはお互い平和な関係を作れる自信はあったのですが、小さな二人の子達が、見事にその自信を崩してくれましたね(笑)」
感情のコントロールが出来ていると思っていたのが、自分の子供に対して、こんな鬼のような感情や言葉が出てくるなんてびっくりでしたと話して下さいました。子育てをしてみて分かる新たな自分との出会い、それもまた子育てしたからこそ分かることなのだと前向きに捉えているように感じました。
そして、子育てを始めたと同時に始めたSNSの存在は子育て中でも人と繋がっている感じがして、すごく良かったそうです。色々な人から情報をもらえたり、繋がりが濃くなって寂しさを感じなかったと言います。
「出産を機にドーンと不便になって、そこから少しづつ楽になっていくというのが子育てだと思うのです。少しづつ楽になっていますが、後半は上手に実家を利用させてもらって上手く乗り切っていましたよ」とSNSの活用や周りの家族の協力を上手に使って子育てをされているように感じました。
久美子さんが子育てで大切にされている事の中で、小さい頃にファンタジーの世界を感じさせてあげることがあります。乳歯が抜けた時、ヨーロッパでは妖精がコインや宝石に代えてくれるおとぎ話を聞かせたりするそうですが、それを自分の子どもにやってみて、子ども達の喜ぶ顔を見て久美子さんも楽しでいるそうです。
そして、コストをかけずにいかに豊に暮らすかを大切にしている事を教えて下さいました。お金がなくても何かから作り出すことを衣食住で確立したいというベースがあり生活で取り組んでいるそうです。
その中には、子どもの服などは、ほぼほぼお下がりで間に合わせ、買うのは下着くらいなのだそうです。
子ども達には「母さんにはいいお友達がいっぱいいて、お洋服を貰うことが出来る。だから買い物しなくていいんだよ(笑)」と話しているそうです。子どもの服はワンシーズンしか着れないものですが、お母さん通しの繋がりで譲り合って助け合える仲間はかけがえのない財産ですね。
子育てを通して出来る人付き合いを大切にされている。そこが子育てを楽しむコツのように感じました。
そして、子育てで大切にしているもう一つのことは「親がいかに余計なことを子どもにしないかということ。子どもはそのままで十分なのに、何かしらの親の想いや手が加わることで変わってしまうとおもうんですよね」
なかなか、分かっていてもつい、親が手を出したり、言いたくなってしまうものですが、子育て中の親として考えさせられる言葉でした。
かつては仕事をバリバリこなす女性が、現在はお母さん業を楽しんでいる姿に元気をいただいた感じがしました。「働かないといけないお母さんもいることを尊重したうえで、私は働かなくて良いのなら、仕事をしない選択をして、家で出来ることをしたい」
家庭の中に誰か暇な人、余裕のある人がいること、それが意外に大切なのではないかとのお話しもしてくださいました。
かつて、子どもの時に将来何になりたい?と聞かれて「お母さん」と答えたことがあった人もいるのではないでしょうか?
「お母さんって何て良い職業なんだろう!!」
久美子さんの言葉からお母さんという存在の価値感がぐっと私の中で上昇した瞬間でもありました。
世の中のお母さん達に大きなエールを贈ってくれたようでもありました。
久美子さん、素敵なお話をありがとうございました。
*¹ 奥谷まゆみ著『おんなみち 幸せ体質のつくりかた』、エンターブレイン社、2008年出版
※写真は樽見真樹子さん撮影
葛木久美子さんプロフィール
北海道十勝出身、教育大学を卒業後、様々な職を経験し、出版会社で編集の仕事に携わる。現在小学2年生の長女、幼稚園年長の長男、ご主人の4人家族。