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前途危うし

 かの老人のことだが、今日は退院明けで疲れた
ということで、デイサービスは断っていた。
そうすると、今日は誰も家に訪れないことになる。
 イヤな予感がしたので別の身内に、午前に見に
行ってくれるように頼んだ。案の定、朝に飲ま
ないといけない薬を飲んでいなかったり、その他
いろいろ問題が発生していた、という連絡がきた。
 なんとなくヤバそうなので、私も仕事が終わっ
てから、夜、様子を見に行った。
 家を覗くと、天井照明もつけずにソファで寝て
いた。テレビはついていた。ストーブもついていた。
このところ朝晩冷え込むからストーブをつけている
のだろう。夜分の宅配弁当は未だ食べていなかった。
マグカップに酒が残っていた。ストーブの上に置か
れたコレールの皿には、冷凍食品のナンタラチキン                                         が載っていた。酒器をストーブの上にのせるのは                                         アリだが、面倒くさいからといってマグカップを
直接のせるというのはいかがなものか。マグカップ
の内外に変な焼き付き跡がついている。ましてや、
コレールの皿を直接載せるのは。過去にのせて熱を
かけた唐揚げたちの油が焼き付いてしまっていて、
普通の洗い方では落ちない状態だ。なぜこんなこと
をするのかというと、電子レンジの電気代がもった
いないということだろう。どうせストーブがついて
いるのだから、この熱を使おうということだ。
 どうでもよいが、ナンタラチキンをストーブの上
で温めていることを忘れて寝入ってしまったようだ。
ストーブの燃焼筒の中心から外れたところに置いて
あった分、あまり熱は加わっていないようで、幸い
黒焦げにはなっていなかった。
 正規の食事を取らずに、菓子を食べたり、冷凍
食品を食べたり、酒を飲んだりしているようだ。
 とりあえず起こしたが、栄養のバランスを考える
と、ちゃんと夜分の宅配弁当を食べさせた方がよさ
そうだ。
 目覚ましに、私が持参した野菜ジュースを
「体にとてもイイけれど、マズいジュースだ。」と
いって差し出した。以外に素直に飲んだ。おかわり
もした。その後、
「食欲が出てきたら宅配弁当を温めて食べるように。」
と言った。
そして私は、無造作に置かれている介護契約書やら、
病院の次回診察予約券やらをそれぞれ、クリアファイル
に入れたり、入退院の紙類、その他かかった医療機関の
紙類をそれぞれA4封筒に入れた。確定申告用でもある。
それから、『朝薬を飲むこと』と書いたメモ書きを
食卓やら机の上に置いた。時計が変な時間を指して
止まっていたので、電池交換をした。液漏れがひど
過ぎて、どこのメーカー製か分からないほど腐食
していた。が、時計自体は動いた。
 ふとストーブの上を見ると、なんと宅配弁当の
プラ容器が置いてあるではないか。それは陶器など
とは違って、燃える可能性がある。
ストーブの上に載せてはいけないと注意し、電子
レンジで温めるように言った。
 酔いのせいというより、根本的に認知がおかしい
のだろう。エアコンはあるが、ちょっと遠い位置に
あるので温風が届かない。なんとか朝晩が冷えこま
なくなる時期までやり過ごそうか。次の冬季シー
ズンが訪れる頃には、この家にはいないかもしれない。

 この状態というのは、ある意味人間本来の姿なの
かもしれない。自然状態というか。なにもしないで
いると、こうなってしまうというか。
 節制とか、自己管理することが出来るというのは、
相当人為的な力が必要なのだろうか。 

    まあとにかく、しばらく毎晩見に来ないといけない                                    のかな。在宅介護危うし。


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