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その歌は、直面する現実を包み、それがただあるということを肯定してくれる/寺尾紗穂LIVE 「百年ピアノと、山の音楽堂にて」に向けて

今年も北軽井沢ミュージックホールで寺尾紗穂さんのライブを行える運びになった。昨年は「歌の生まれる場所」と題して、「寺尾さんのライブを群馬でやりたい!」という動機だけで集まった有志により、色々な人の協力も経てフリッツアートセンターと北軽井沢で2日間に渡るライブを行った。長年寺尾さんのファンを口外している僕にとっては、特別な2日間だった。

今年は6/29にアーツ前橋において行われる「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」展のオープニングトーク&ライブとして荒井良二×寺尾紗穂「〈わたしの好きなわらべうた〉より」が行われ、それに伴い寺尾さん自身から昨年のチームメンバーの大西くんに

「翌日、また北軽井沢でどうでしょうか?」

という連絡をいただいた。寺尾さんからそのような提案をいただくのはとても嬉しいし、それはまた北軽井沢ミュージックホールの魅力を実感することでもあった。その場所ではつい先日も北軽井沢で幼少を過ごした詩人・谷川俊太郎さんに関係した「谷川俊太郎の詩を歌う Diva ミュージックライブ」が行われ、(僕は撮影を担当させていただいたのだが)建物内の中央に庭があり、ステージから庭が壁もなく繋がっている半野外空間に響く音楽は、とてもとても心地がよかった(僕は以前、初めてここで客としてクラシックを聴いた時に<音が粒になって体に当たってくる>ような体験をした、という記憶がある)。

(北軽井沢ミュージックホールについて、ユニークな情報元としては、前回今回のライブでお手伝いいただいている藤野麻子さんが関わった冊子「拝啓、小澤征爾様」をお読みいただきたい)

寺尾紗穂さんの音楽の魅力を語る代わりに、彼女のSNSを少し辿ってみる。楽曲「たよりないもののために」が難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の方を撮影したドキュメンタリーの主題歌になり、来週末のアーツ前橋では自身が全国を回り集めているわらべうたを歌う予定で(この試みは場所と人を変え度々行われている)、台湾でライブをし、雑誌「世界」に原発事故とPTSDについて書かれた書籍の書評を書き、杭州でライブをし、路上生活者や日雇い労働者を支援すべく寺尾さんが発起人となり始まった「りんりんふぇす」は場所を変え11回目の開催となったそうで、キューピーすりおろしオニオンドレッシングのCM曲も手掛けた(その間に日本各地でライブを行っている)

・・なんだそれは、という行動歴である。文筆家としてエッセイやノンフィクションも書く寺尾さんは常に現実と直面しながらその表現を続けてきた。音楽は現実の色々と切り離されているから良いという意見ももちろんで「ピアノの弾き語りの優しい歌だね」という感想で終えても良いのだが、寺尾さんの歌が特別だと思う人の多くは、彼女の歌が【今現在の社会を内包した歌】であることを知っている。

社会、などと大きくなくても良い。6/30の北軽井沢でも歌われるであろう新曲「愛のありか」では歌詞として

空はまだ
痛みかかえた天気雨
愚鈍な僕に
光の雨が降る

と歌われる下りがある。僕がこの曲を聞いて思い出すのは、昨年亡くなった姉のことだ。半年以上が過ぎ、僕は忙しく楽しく日々を過ごしているが、姉が暮らしていた部屋を通り過ぎる際に、その東の窓から朝日が射しているのをふと目にした時に、その不在をまだ理解できていないということに気付き、揺らぐ。「愛のありか」という歌は、その時の揺らぎを癒す・・ではなく、寄りそってくれる・・というよりは、ぼんやりと考えさせてくれて、【それがただあるということを肯定してくれる】。

そういう歌は世間において、ごく少ない。そして、寺尾さんはそういう歌をたくさん歌う歌い手なのだ。

6/30のチケットは以下から。北軽井沢でお待ちしています。【6/21 21時現在はまだ残りあり】
百年ピアノと、山の音楽堂にて

昨年のライブダイジェスト(撮影・編集:岡安賢一)
https://www.youtube.com/watch?v=Fijb57tpJ14

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