気配を帯びた彫刻を補完するものはなにか？ 西島雄志の彫刻作品

西島雄志さんの彫刻作品をはじめて見たのは「中之条ビエンナーレ2011」の冨澤家住宅だったように思う。町のシンボル嵩山（たけやま）よりもずっと奥の山の中にある、町民であっても行ったことのある人はわずかであろう、冨澤家住宅。その時そこに踏み入れると、大きな養蚕農家であった茅葺き屋根の建物、じめっとした暗い室内に、きちんと形作られていない人間らしきものが展示されていた。細胞のような細かい、光るパーツが組み合わさって頭や腕や足のような形を作っているものの、それは地球における大陸のように地球全体を覆っていない＝人間全体を覆っていない。格好良い、美しい、も感じつつ、怖い、が先行していたかもしれない。思い返せば、人造人間が培養液内で作られる時はこのように部分部分から作られていくのかな・・みたいな幼稚な思いがよぎったことを覚えている。それは「何かしらの生き物」と対峙しているかのような怖さだった。

西島さんは以降も中之条ビエンナーレに出展を続ける。2015年には山の中の公民館にて鳥の巣のような作品を、2017年には六合・赤岩地域の湯本家にて鹿をモチーフとした作品を作った。土壁の小屋の外、天を仰ぐ鹿の作品は、パーツを見れば2015年の時と変わらぬ細かい金属部品であったが（この時は錆びた銅のような尊さも感じる蒼い色を纏っていた）、怖さはなく、力強さと清らかさを纏っていた。そのあたりからか、西島さん本人ともぽつぽつ話すようになり、2019年の中之条ビエンナーレでは作品の動画撮影を依頼していただいた。以後、VIENTO ARTS GALLERYでの展示、東京都美術館での「A4展」、そして今公開となった2021年の中之条ビエンナーレと、彼の作品の動画撮影が続いている。

2019年の撮影時に、2011年のものも含め、作られている作品全てのパーツの最小が、西島さんが手で巻き巻きする針金から出来ている、ということを知り驚いた。時間があれば巻き、時間があれば巻き、を食事や睡眠のように日常的に繰り返し、そのパーツを溶接することで形を作っていく。なんという途方もない作業、繊細さ。また、同日のインタビューにて彼が「気配」を意識して作品を作っていると語ったことも忘れがたい。薄暗い冨澤家住宅で僕が感じたものも、晴天の下の湯本家で僕が感じたものも、それは作品を見ている、という単純な行為ではなく、気配を感じている、というより体感的なものだったからだ。

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今回の動画に収められた中之条ビエンナーレ2021の【真神】【吉祥 kichi-shou】は、前者はビエンナーレのポスターにもなり、後者は「ねぇねぇ、あの鳳凰見た？」というのが今回のビエンナーレのお決まり文句になったとまで言って良いような注目のされ方をされ、見て、覚えている方も多いと思う。吉祥は特に、過去数年西島さんの作品を撮ってきた僕の感想としても、ある集大成のような「大きさ」を感じた。詳しくは下記動画を見ていただきたいが、彼は近年動物の姿を模した神さまをモチーフとすることに関心があること、そして群馬県東吾妻町への移住、個人ギャラリー「newroll」の開所も経て人とのダイナミックな繋がりや縁（えん）についても語っている。

西島さんの作品を撮る時は、まるで生き物と対峙するように１人現地で向き合い、さて、どうするか。と考えることが多いのだが、吉祥は鳳凰がモチーフなこともあってか、ふと、寺院で仏様を撮影すること、に近しいものを感じた。ひと時撮影に立ち会ってくれた知人のフォトグラファーなどは、鑑賞後に手を合わせたほどだ（感受性の塊みたいな人なのです）。多分、僕らに限らずこの作品に感銘を受けた人はそんな「大きな気配」を感じたのではないかと思う。西島さんの作品の良さは、形取ったものが生き物全てを覆っていないことにより、鑑賞者が無意識に補完しようとする＝意識の中ではじめて作品が成立する作品である、ことだと個人的には思っている。そしてそれは、職人によって掘られた仏像を見て、それがただの石や木といった物体であるにも関わらず、向き合った人によっては己の心の中に神を感じる人もいるという「信仰」という行為にも遠くない気がしている。ただし、西島さんはもっとフラットに、信仰ではなく「芸術」というアプローチで、物体に宿る気配についての制作を続けている。そこに、大きな可能性を感じる。

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今回のビエンナーレでは、群馬県の企画とかぶせる形で、小説家の絲山秋子さんが、ビエンナーレディテクターの山重徹夫さんと共に会場を回るという撮影も行い、僕もカメラマンとして立ち会った。アーカイブでもその言葉が残っているが（湯けむりフォーラム、で検索）、吉祥を見て絲山さんが呟いた一言を最後に添えて、この文章を終える。

「すごく遠くから来るからですよ。これだけ大きくないと、遠くから来れないんですよ。」

西島雄志【真神】【吉祥】（中之条ビエンナーレ2021）

その他の作品動画も、西島さんのチャンネルにアップされています。

西島雄志web site
http://yuji-nishijima.com/
西島さんが主催・運営するギャラリー「newroll」
http://gallery-newroll.com/