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ふみだせ、はみだせ。(映画新時代へ向けて)/『冬子の夏』(脚本:煙山夏美 監督:金川慎一郎)

「ふみだせ、はみだせ。」は、2023年1月29日に群馬県中之条町で開催される「第21回伊参スタジオ映画祭」で初上映される映画『冬子の夏』のキャッチコピーである。同映画祭実行委員長として、このシナリオが映画になっていく様子をそこそこ近くで見続けてきた。

この作品は、映画祭が2003年から行っている「シナリオ大賞」で大賞を受賞した作品である。「シナリオ大賞」は、映画シナリオを全国から公募し、篠原哲雄監督(『月とキャベツ』『影踏み』等)等による審査を経て大賞を決定、映画化する全国でもほとんど類を見ないコンテストで、今までにも『マイ・ダディ』の金井純一監督、『茶飲友達』の外山文治監督など、後の商業映画監督も多数輩出してきた。

『冬子の夏』の試写を経て個人的に思う事は、これは映画新時代の象徴的な1本に成り得る新しい映画だという事だ。では何が新しいのか?

将来に対するぼんやりとした不安、は青春映画における普遍的なテーマではあるが、熱血の昭和が過ぎて、冷めた平成が過ぎて、令和の若者たちは前時代的な成功や失敗や熱狂やしらけの延長線上を生きている。そんな今時代のモラトリアムを書いたのは、映画祭での大賞受賞前から脚本家業を行っていた煙山夏美さん。短編ならではの省略・凝縮したシナリオの中に、主人公2人、冬子が抱えるモラトリアムの葛藤や、ノエルが見つける純粋で静かな情熱を書ききり、大賞を射止めた。

「シナリオ大賞」はこれ以前まで「大賞受賞者(脚本家としてのキャリアはあっても監督経験はない人は多数いた)が映画監督も務める」作品ばかりだったが、『冬子の夏』は煙山さんの意向により、たまたま高校の同級生だったという金川慎一郎監督が監督を務めた。金川監督は誰しもが見たことがある飲料CMなど、CM業界の一線で監督を務める人である(『冬子の夏』は金川監督の初監督映画となった)。この映画を観た人はまず、金川監督が仕掛けた映像表現の新しさに目を奪われるだろう。撮影を『すばらしき世界』(西川美和監督)の笠松則通氏が担当するなど、キャリアのあるスタッフたちによる技が、金川監督の挑戦を確かなものとして映像に定着させている。

そして、冬子役をドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」でも注目を浴びた豊嶋花さんが、ノエル役をクールな印象で映画やドラマで活躍する長澤樹さんが演じている。両キャストは、この作品がもつ単なる青春映画ではない絶妙な温度・テンションを持前のキャリア・勘により的確に・自由に演じている。失敗する青春映画の多くは、青春期を過ぎた大人である撮影側が「青春とはこういうものでしょ」を若手俳優に押し付けることで出来てしまうものと思うが、豊嶋さんも長澤さんも、独自な脚本と難しい撮影意図の間にきちんとした存在感で立っている(映画祭が行われる中之条町出身のタイムマシーン3号の関太さんの出演も楽しんでいただきたい)。

『冬子の夏』の何が新しいのか。今時代の青春を描こうというシナリオは昔からある。CM出身の監督が描くスタイリッシュな映画は昔からある。今注目される若手俳優という言葉も昔からある。けれど、それら3つが(もちろん、それら以外に中之条町やひまわり畑の美しさも加わる)30分にも満たない短い時間に有機的な結晶となって混在しているミラクルが、『冬子の夏』にはある。

映画、ネット配信、テレビ、スマートフォンによる動画視聴・・様々なメディアが混在する今、『冬子の夏』はとても新しい映画だと思う。

伊参スタジオ映画祭

映画『冬子の夏』制作応援プロジェクト


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