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だからクリエーティブが好き②

私が「仕事」としてクリエーティブに携わったのは
新卒で就職した会社が初めて。

AD(アシスタントディレクター)としてバラエティの制作現場に立った。
メインで担当していたものが大型のゴールデン番組だったため、
テレビ制作に関する業務経験はそれ1本で網羅できた。
(情報番組に関しては薄かったが、それものちのち経験した)

配属されて1年目から、毎週もしくは隔週に1度ある企画会議に参加。
それまで「会議」に対するイメージは
「聞く→うなづく→言われた通りに実行する」だったため
ベテランプロデューサーやディレクターが
ひとつひとつの企画に対してすぐ切り捨てるではなく
「ここをこういう切り口に変えたらもっと面白い」だの
「なるほど、こういう見方もあるのか!いいね、じゃあここが少し弱いから書き換えてみて」などと下っ端の人間たちのアイデアを真剣に聞き、取り入れ、改善し、育てていこうという姿勢に驚いた。


バラエティの制作を7年間続けたあと
長年の夢であった広告代理店で勤務した。

はじめの1年半は営業局にいて、その後3年半クリエーティブ局。
私はルーティンワークもマニュアルを読むのも得意でなく、
常に変化する環境、常に何かを考える作業が好きだったため
上長に懇願し、営業局に所属している間には独学で宣伝会議賞をはじめとする様々な賞に応募したりハッカソンやブレストに紛れ込ませてもらったし、
クリエーティブ局では、本格的にコピーライターやCMプランナーの業務も経験させてもらった。

以前から独学でコピーの賞に応募していたりはしたものの
しっかり学んで業務として行うのはクリエーティブ局でのそれが初めてだったので
1発目の持ち寄り会議で100本ノックはしてみたが散々な結果だった。

「自分が想像していたコピーの書き方ではダメなんだ」
そう思い、会議で他の先輩方のコピーを見て参考にし、
次の持ち寄りでは200本近くのコピーを持っていった。
微修正したものも加えると、その案件ひとつでトータル約700本のコピーを提出したかと思う。

1発目の会議で「うーん」だった先輩に
「この数日で何が起きた!?」と驚いてもらえるほどには成長できたので
やはりプロから学ぶというのは夢に近付く最短ルートなのだと感じた。

結果、コピーライターとして初めて携わった案件で、
16本の作品を世に出すことができ、賞を獲ることもできた。


全ては、チームメンバーのお陰だった。
賞を獲れたのも、
その賞の本質を理解し、そこで成果を出せるように戦略を練って作品をチョイスしたのは先輩だったし、提出する映像を作成したのも私ではない。

コピーを100本書くことは誰にでもできること。
難しいのは、
「数あるコピーの中から、見る人を意識した、よりよいコピーを選ぶ」こと。
選ぶことのできる人こそ、本物のコピーライターなのだ。


CMプランナーとして、とあるCMに携わった際、
自分の中でも「なんでこんな企画しか書けないんだ」というスランプが訪れ、
悔しくて、毎晩お酒を飲み、泣きながら部長に電話したこともあった。
定年間近のベテランクリエイター。
誰からも愛されるクリエイターとしても人間としてもプロ。

「僕もね、プロジェクトに入っていても、なんで自分がここにいるんだろうって。自分がいる意味を見出せなくて悩むことたくさんあったよ。クリエイターはみんなそうだよ。自分のアイデアが形にならないこともいっぱいあるよ。あとね、スランプのあとって成長できるから。悩んでる時って、成長しようとしてるんだから。」


思えばコピーを書いたとき、
チームをまとめてくださった先輩コピーライターも
「このコピー、もう少し書き換えてみて」
とアドバイスのみ渡し、最後まで自分の手で作品を仕上げられる環境を作ってくださっていた。

ーーーあれは、そういう意味だったんだ。

少しでも人の手が加わると、
それはもはや自分の作品ではない。
文字数の限られているキャッチコピーは、なおさらだ。

先輩自身が手を加える方がよっぽど早く素晴らしい作品ができるのであろうが、
あえて何度もやり直させ、あくまで本人の作品として残せるようにしてくれた。



退社後も局の忘年会や送別会など
事あるごとに声を掛けてくださるので、
本当に自分はいつも出会う人間に恵まれていると思う。
縁を繋いだままでいてくれる温かい人たち。

それと同時に
久々にお会いしたクリエイター(コピー界隈で有名な講師)から
「ハンオンさん、あの賞は何本ぐらい応募した?」
と聞かれることもとても嬉しかった。

「なんで応募したこと知ってるんですか?」
「ハンオンさんなら絶対応募してるだろうな、って」

私のことをそんな風に見てくださってたんだ、と
なによりの褒め言葉だなと。



クリエイターは繊細な人が多いように感じる。
繊細だからこそ、
手掛けた作品が、見た人の心にスーっと入っていく。

以前chatGPTが世に出回り始めたころ、
それを使ってなにをしたいかというハッカソンを行った際、
あるクリエイターがこう言った。
「AIをいじめてみたらどうか」

要は、
匿名で相手を叩けるネット社会において、
それをする前にAIを「ことば」でいじめてみる。
そしてAIの「こころ」が崩壊していく過程を見るのだ。

ネット上だと中の人にも「こころ」があることに気付きにくい。
攻撃するのは指一本で容易くできる。
しかし攻撃される側は、その一文字一文字にどれだけ深く傷付くか。
なので、AIを使って実験し、可視化させようというアイデアだ。

この考えを聞いて、
なんて繊細で優しい人なのだろう、と。
SNSに関しては私も色々と思うところがあるので、
誰かを叩かなければ生きていけない人たちの
ある意味「救いの場」を設けられたらどんなに良いだろう。
片方だけ救っても結局は同じことを繰り返してしまうからだ。



だからクリエーティブが好き。
アイデアや「ことば」の重みを知っているクリエイターが好き。
それを使って、見た人の心に何かを残せるクリエーティブが好き。
おもしろいことに貪欲で、突き詰める人たちが好き。
よりよい作品を残すために、チームで泥臭く作業する工程も好き。

ここで出したテレビ業界や広告業界の他にも
たとえばスタイリスト、メイク、パティシエ、料理人、建築家、ドクター・・・
すべてクリエイターだと思っている。
アパレル、不動産、掃除屋、運転手、鍼灸師、政治家・・・
全部クリエイター。

どんな職業でも、頭の中で創造し、何かを創り出している。
国民総クリエイター。


今日も、どこかで誰かが
新しいものを創り出していると思うと
ワクワクが止まらない。




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