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自宅看護について

私の母方の祖母は、今、自宅にいる。
つい先日、入院先から戻ってきた。

よほど”家”への想いが強かったのだろう、
帰ってきてからも”せん妄”の症状で
「帰りたいよー、じいちゃん、会いたいよー」と泣くのだから。

食べることが好きだった祖母は
点滴のみで栄養を摂っている。
私の母と、私の妹、そして祖父に見守られながら。

母と妹が先に祖父母宅へ行ってくれているので、
私は毎日テレビ電話で顔を見ている。
我が子たちが風邪をひいているため、
病原菌を持ち込めない。

幸いにも、母の弟一家が、奥さんと三姉妹すべて医療従事者のため、
ローテーションで来ては、泊まりがけで痰の吸引やオムツ替えをしてくれる。

母の負担が減ってありがたいと思いつつ、
それはそれで”こちら側”と"あちら側"の問題が生じ、
現地の妹からは毎日悲しみに溢れたLINEが届く。

「医療従事者は痰の吸引がうまいけど、こちらはド素人。覚えてやろうとしてもなかなかうまくいかず、母がおばちゃんに責められてた」
「イトコたちが来ているときに、母がおばあちゃんの服を買いにイオンに行こうとしたら”誰の母親ですか?”と言われていた」
「来てくれて助かるんだけど、おばあちゃんに対してすごく業務的な対応をするから、それを見て母がつらそう」


そりゃそうだ。
だって、”あちら側”の家族は、仕事で疲れが溜まっているなか、本来自分たちの休むべき時間を使って来てくれているのだから。疲労で余裕がなくなるに決まっている。

母の気持ちも痛いほど分かる。
オシャレが大好きな祖母に新しい服を着せてあげたいだろうな、自分の母親が業務的な対応をされると切ないだろうな、と。


母は「最期まで家で過ごさせてあげたい」と言う。
しかし実際問題、頻繁に容態が変化する祖母を見て、
母の弟は「緩和ケアに戻した方が安心」だと言う。

そこに関しても両者の気持ちが分かるのでなにも言えない。

私は少し離れた場所にいるが、
その場にいる妹は、母から「あなたならどうする?」と直接意見を求められたらしく、非常に悩んでいた。


緩和ケアに戻ると、高熱が出たとしても解熱剤のみの処方。
自宅にいれば、抗生物質を投薬し原因を取り除くことができるようだ。

「長生きして欲しいのにさ、ここではまるで、おばあちゃんいつまで生きてるの?っていう雰囲気になっててつらい」
「たぶんこの話が聞こえるからか、おばあちゃん一晩中泣いてた」


祖母は元気だった数ヶ月前、母に
「もうちょっと生きててもいい?」と聞いたらしい。

なぜ、
必死で働き、子どもを立派に育て上げ、孫の面倒を見て、色んな苦しみや悲しみを乗り越え90年間がんばって生きてきた人間が、こんなことを言わなきゃいけない世の中なのか。

生きててもいい、じゃなく
生きていて欲しい。


父方の祖母も体調を崩しているため
妹が心配して電話を掛けたそうだ。

「説教された」
「え、なんで?」
「あんたは早く自分の家に戻りなさいって」
「なぜ?」
「旦那さんに申し訳ないから。今ある家庭を大事にしなさいって」
「へ?笑」
「旦那さんに、長らく家を空けてすみませんって謝りなさい、って」

きっと、妹へ向けた言葉に見せかけて
母に対して思っていることなのだろう。
父方の祖母は、昔からそういう人だった。
「嫁は夫のいる家庭を守るべき」
実際、祖母自身もそのようにして生きてきた。


「私的にはさ、働いてたら来れなかった。育休中にこうなったのも、神様がタイミングをはかってくれてる気がする。旦那も後悔ないように、って言ってくれてる」
「そうだと思うよ」

「(父方の)おばあちゃんもよく転ぶし、ご飯食べてないのに食べたと言って食事とらなかったりするし」
「だいぶきてますね」
「それ聞いてお母さんも、あっちに戻らなきゃ、ってなってる」
「いや、お母さんは何十年も十分がんばってきた。だからこういうときは自分の実母を優先して欲しい」


日に日に弱っていく母親の姿を見る気持ち、
ずっと一緒にいたい気持ち、
介護疲れ、
弟一家との意見の食い違い、
義母の心配、

母は一体どれだけ
心をすり減らしているのだろう。


夫が家にいてくれたら、
子どもを誰かが見ていてくれるなら、
私もすぐに行きたい。

それができないもどかしさ。

そしてこれがまた何十年後かに
今度は自分が母の立場になって
経験することだろうなとも考える。


いま、母は何を思っているだろう。

生まれたときからやり直して、
また”元気だった頃の母”を感じたいと思っているだろうか。

それとも、立派に成長した姿を見せられたことを誇りに思い、
現実を受け止められているのか。


私はきっと、
前者。

もし母の立場になったら、
前者。

母から注いでもらった愛情の記憶を辿って
過去に戻りたいと願うだろう。


何年か後には、
自宅での看護がもっとやりやすくなっていて欲しい。

重病にも対応できる訪看制度や、
家族の負担を減らせる仕組みなど。

都会でも、田舎でも。
どこにいても。




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