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刺激的な女性と出会った話
私は、刺激物が好きだ。
わさび、柚胡椒、一味唐辛子、
そして人間。
約6年前、足繁く通っていたお店がある。
顔をリフトアップしてくれるエステのようなところ。
そこに彼女はいた。
狭い店内に仕切りを隔てて2台のベッド。
シフト制なのか、従業員が2名ずつ待機していて、
客は寝転んで施術を受ける。
顔をリフトアップしてくれると言いつつ
効果はそこまで感じなかったが、
私はそこに月1で通った。
彼女に会うためだ。
毎回彼女を指名し、
世間話をしながらマッサージをしてもらう。
とてもスタイルが良く、美人な女性。
通い始めて3度目、
彼女が幼い頃「サイコパス」と呼ばれていたことを聞いた。
トンボの羽を引きちぎり、
飛べなくなった状態を観察したり、
カエルのお尻から木の枝を突き刺してみたり、
とても活字にすることはできないが、
動物にも”いたずら”をしていた。
彼女いわく
「生き物の生態に興味があった」と。
周りの大人たちは
大人になった彼女を見て、
みな口を揃えて
「マトモになって良かった、どんな子に育つかと思って心配だった」
と言うらしい。
私自身もそのエピソード自体にはドン引きしたが、
彼女の言葉を借りて言うと
「彼女の生態に興味が湧いた」
あるとき施術を受けながら
「本当は人間に興味があったんですよね」
と言われた。
「今は家でずっとカニバリズムについて調べてます」
そう、ポツリと呟かれた瞬間、
ゾクっとした。
おい、周りの大人たち。
彼女は全然「マトモ」にはなってないぞ。
私はそのとき
ベッドに寝転がり身動きのできない状態。
「生態に興味あるんだよね」
とか言われながら脳みそほじくって食べられたらどうしようと考えた。
私の脳みそ、せめて蟹味噌のようにおいしければいいけど。
「私、ハンオンさん好きです」
このタイミングで何を言い出す。
カニバリズムに興味ある人に好かれるほど
怖いものはない。
「ありがとうございます、私も好きです」
咄嗟にそう返してしまったが、
なんだこれは。
完全に
「ハンオンさん好きです(カニバリズム的に)」
「私もです(どうぞ食べてください)」
の図じゃないか。
「好きです」と言われて
「自分もです」と答える。
これがノーマルな対応だと思っていたが、
そうじゃない場合もある。
「自分の身を差し出してしまった」
そう感じ脳内で自己反省するも、
恐怖と好奇心がせめぎ合う。
そして、私は
ほとんど効果の出ないエステに
約1年、通い続けた。
彼女に興味津々だったから。
彼女は、行くたびに自身の過去や
いま興味のあることを嬉しそうに教えてくれる。
他の従業員についても教えてくれた。
「今日一緒に入ってるあのスタッフは、除霊が得意なんです」
「じょ、除霊ですか」
「この前いらっしゃったお客様のことも除霊してました」
「どういった経緯で」
「お客様が入ってこられた瞬間から急にそのスタッフの気分が悪くなって…」
「うんうん、それで」
「お客様に、最近何か変わったことありませんか、って」
「ほお」
「体が重くてたまらないとおっしゃってました」
「霊も視えるんですか?」
「視えるらしいです。私は視えないけど確かに空気は変わりました」
「今までもよく除霊されたりしてました?」
「ごく稀です。そして私ですら何か感じたのは初めてです」
「私にも何か憑いてたりします?」
「私は分かりませんが、あのスタッフが何も言ってなかったので大丈夫だと思います」
良かった…
と安堵したのと同時に
「今日はカニバリストに加えて除霊師もいるのか」
「なんというラッキーデーに来てしまったんだ」
そう思うとワクワクが止まらない。
なんなんだ、このお店は。
ここ、銀座一丁目だぞ。
おもしろいけど、いいのか?銀座一丁目で。
1年間でたくさんの話を教えてもらい、
もうこれ以上はエピソードがないかなと思ったところで通うのはやめたが、
今でもたまに思い出す。
「まだ日本にいるのだろうか」
「どこかの国へ行って、ヒト食べてるんじゃないだろうか」
先日、友人から勧められた
『ガンニバル』というドラマを観た。
内容がカニバリズムだったので、
そのドラマを観ている間はずっと
彼女のことが頭から離れなかった。
「なぜ人を食べたくなるのか自分でも分からない」
そう言っていた。
彼女は今でも
答えを探しているのだろうか。