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おじょーと靴ひも

おじょーと一緒に駅を歩いていた。
おじょーの大好きな骨董市展に行くためだ。

目的地で電車を降りると、改札へ向かう人の波は
皆エスカレーターへと吸い込まれていく。
降り立った駅は地下ホームだったので、地上へ出るためには階段かエスカレーター、またはエレベーターを利用する必要があるが、手軽に利用できるエスカレーターが人気の駅らしい。
おじょーと夕木くんもまた、示し合わせたかのように手を繋いでエスカレーターへ向かった。
エスカレーターは止まる人は左、急ぐ人のために右を空ける暗黙のルールがある。関西圏では右左が逆になる。名古屋では関東ルールとなり、広島でも驚いたことに関東ルールが適用されていた。たまたまかも知れないが、先日訪れた際に身を持って体験したので、そういうことにしてほしい。
福岡のルールは後日にでもおじょーに確認するようにする。

その日は休日だったためか、急ぐ人よりもエスカレーターに止まってのる人が多かったように感じる。エスカレーターはすぐにキャパシティをオーバーして、乗り切れない人たちは待ちの列を作っていた。

エスカレーターへ乗り込むため、おじょーと夕木くんもまた、乗り切れない人たちの列へ並ぶことにした。止まって乗ることにしたからだ。
列は混んでいて、まだまだ順番は来そうに無い。
そんな中、おじょーが直前に並ぶ少年の靴紐が解けていることに気がついた。少年は学校帰りなのだろうか、学生服と大きなショルダーバックを下げ、スマホゲームに熱中しながら列に並んでいた。
紐が解けていることは夕木くんもすぐに知ることとなる。おじょーがそれとなく伝えてきたからだ。
心配になったおじょーは声をかけようとしたが、すぐに躊躇った。少年は耳にイヤフォンを着けていることに気がつき、声が届かないと思ったのだろう。
あの時おじょーはなんとか少年に伝える手立てはないか。そんなことを考えながら列に並んでいたのだと思う。
それでも声をかけるか否か迷っている間にも列は進んでしまう。少年が歩くたびに紐を自ら踏んで転んでしまわないか、エスカレーターに挟まってしまわないか、おじょーは心配だったのだろう。
少年に声をかけたのはすぐだった。
残念ながらイヤフォンに阻まれ、おじょーの声は届かなかったので、少年の肩をたたき、二人で伝えることには成功したが、少年には事の顛末がわからなかったのだろう。とても困惑した顔で紐を結ぶため列から外れていった。
おじょーは予想外の少年の反応に、びっくりさせて申し訳なかったと夕木に語った。
確かにびっくりさせたかも知れないが、助けたのは事実で、知らないふりをして過ごすよりは行動したほうがよっぽど良かったであろう。

この世には助けられるのにもかかわらず、助けない人が多くいる。
おじょーはそうでなかった。
私はおじょーの行動を見て、私もそうありたいと心から思った。
助けられるなら、助けたい。
おじょーの行動は、夕木という人間をも救ったという話。
そんなおじょーが夕木くんは大好きだ。

後日談だが、おじょーは人より蚊に多く刺されるらしい。
人といると私のとこにだけ蚊が来て、刺されてしまうという。
事実、夕木くんもおじょーに救ってもらったことがある。
一緒にいておじょーだけ2箇所蚊に刺されていた。
生きているだけで人を救えるおじょーは素晴らしい。
とても尊敬する。






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