「声ガワリは突然にっ!」第1話
【あらすじ】
声変わりが来ていない自分の声にコンプレックスを持つ高校生、大野代亜は、誰も声を聞いたことがない無口なクラスメイト、雛崎真紀が、実は人気女性声優で、声バレを防ぐために、学校では喋れない事にしていたという事を知る。そして大野は、雛崎から顔出しをしていない、唯一無二の声を持つ人気声優の柴宮亜月に声が酷似していることから、影武者として声優活動をして欲しいと頼みこまれ、秘密の声優活動が始まる。
そんな影武者活動が順調に続いていたある日突然、大野に声変わりが起こり、影武者活動ができなくなる。
その時、大野に本当の意味で声優をやりたいという思いが芽生え、1人の声優として1人立ちしていく青春ラブコメストーリー。
【本編】
■場面(栄星学園高校・教室・昼前・授業中)
私立栄星学園高校の教室での授業風景。
教室のグランド側の窓際、1番後ろに座っているのは、マスクをつけて頬杖をついて外を見ている今作のヒロイン"雛崎 真紀"。
その右隣に座るのが、今作の主人公"大野 代亜"。
新しく赴任してきた、神経質な女教師"牧田 信子"が教壇にたって黒板に板書している。
牧田「それじゃあこの式分かる人・・・?」
誰も手をあげない。
牧田「仕方ありませんね・・・」
座席表を開く牧田。
牧田「今日は4月20日・・・出席番号4番じゃなくて・・・20番でもなくて・・・」
1人1人指を差しながら呟く牧田。
牧田「足して24・・・出席番号24の雛崎 真紀さん、答えなさい」
雛崎「・・・・・・」
しかし、雛崎は答えようとはしない。
牧田「・・・どうしました?早く答えなさい」
変わらず返事がない雛崎。
牧田「分からないのなら分からないと、どちらにしても返事くらいしなさい!!」
痺れを切らした牧田が、雛崎の席まで詰め寄る。
しかし、それでもどこ吹く風な雛崎。
牧田「雛崎さん、あなた・・・いい度胸してるわね」
今にも怒りを爆発させそうな牧田。
牧田「私が赴任してきたばかりだからと言って舐めていると、痛い目見るわよ・・・?」
するとその時、
大野「あ、あの・・・」
隣の席に座る大野が、おずおずと牧田に声をかける。
牧田「・・・なんですかあなたは?えーと確か・・・大野・・・大野代亜・・・」
手元にある座席表で、名前と顔を一致させる牧田。
大野「雛崎さんは・・・答えないんじゃないんです。"答えることが出来ないんです"」
牧田「・・・どういう意味かしら?」
訝しげな表情をする牧田。
大野「雛崎さんは・・・喉の病気を長年患っていて・・・その手術をした後遺症で喋ること・・・というより、声を発する事ができないんです」
ボソボソと、自信なさげに縮こまりながら喋る大野。
大野「だから、日常会話も筆談で会話していますし・・・通院の関係で早退したりもするので・・・」
牧田が雛崎の机を見ると、筆談用の切り取り可能な大きめのメモ帳が置かれており、その一枚目に
『そういうこと』
と書かれていた。
牧田「・・・なるほど・・・分かりました」
そう言って、雛崎を一瞥し、教壇に戻っていく牧田。
ホッと一安心する大野。
牧田「私の確認不足でしたね・・・すみませんでした。それじゃあ代わりに、この問題は隣に座る大野くんに答えてもらう事にしましょうか」
そう言ってニヤリと笑う牧田。
大野「え・・・!?」
ホッとしていた矢先に突然当てられ、体がビクッとなる大野。
牧田「あなたが喋れる事は分かっていますから・・・もちろん、答えられますよね?」
大野「えっと・・・えっと・・・」
大急ぎで教科書のページを捲るが、答えが出ない。
四条「大野くん、X=3、Y=1だよ」
それに見兼ねて助け舟をだす、大野の右隣に座る美少女"四条 棗"。
大野「あ・・・えっと・・・X=3、Y=1・・・です」
ボソボソと低い声で、だんだん小さくなっていく、今にも消え入りそうな声で答える大野。
牧田「・・・正解。ですが、そのボソボソと喋るのはやめて、ハキハキと大きな声で喋りなさい!」
大野「は・・・はい・・・」
下を向く大野。
教室内のどこからかクスクスと笑い声が聞こえてくる。
チャイム『キーンコーンカーンコーン』
牧田「・・・まぁいいでしょう。今日はここまでですが、予習復習を忘れないように」
■場面転換(栄星学園高校・教室・昼休み)
学級委員長「席替えを"する"か"しない"かの投票を、この昼休み中に行うので、みんな黒板に正の字で、どちら派か書いておいてください」
黒板に『する派』、『しない派』と分けた表が書かれている。
大野「・・・はぁ」
ため息をつく大野。
早速投票のため、黒板の前に人だかりができている。
大野<こんな目に遭うのも、あと少しの辛抱と思えば・・・>
■回想(栄星学園高校・職員室)
担任教師「_________雛崎には、そういう特殊な事情があるんだ。という訳で、隣の大野が雛崎を出来るだけサポートしてやってくれ」
大野「え・・・あの・・・」
担任教師「それじゃあよろしく」
■場面転換(栄星学園高校・教室・昼休み)
大野<何が、という訳だから・・・だ!たまたま隣になっただけなのになんでこんな事に・・・>
チラッと横目で雛崎の方を見る大野。
雛崎は窓を半分開け、外から流れ込んでくるそよ風を浴びながら、両手を枕にして、机に伏せて眠っていた。
大野<・・・早く席替えしたいなぁ>
四条「大野くん・・・!」
すると、四条が大野に声をかける。
大野「四条さん・・・!あの・・・さっきは、ありがとう」
気恥ずかしそうにしながら、四条にお礼を言う大野。
四条「全然!それよりさ、昨日の『風雲!ファニーガール』・・・見た?」
顔を近づけて小声で囁くように話す四条。
大野「見た・・・よ」
顔を赤らめながら、距離を離しつつ答える大野。
四条「さすが大野くん!昨日やっとリアタイ出来たんだよ!それで大野くんと早く語りたいと思ってたんだけど、そのせいで若干寝不足気味でさ〜・・・」
笑顔で勢いよく話しだす四条。
大野<・・・なぜこんな陰キャな僕が、四条さんみたいな人・・・いや、お方に話しかけてもらえるのかというと>
大野<それはズバリ共通の趣味・・・"アニメ"だ>
大野<あれは、この席になったその日・・・>
■回想(栄星学園高校・教室)
四条「今日から隣だね、大野くんよろしく」
大野「よ・・・よろしくお願いしま・・・」
四条「・・・えっ!これって!」
大野が喋り終わる前に、机に大野が置いてあった筆箱を掴む四条。
大野「・・・うぇ!?」
思わず変な声を出し、驚く大野。
四条「『異世界男爵』のグッズだ・・・!もしかして・・・大野くんってアニメ好きだったりする?」
目をキラキラと輝かせる四条。
大野「あ・・・えっと・・・」
より一層顔を近づけ、目を輝かせる四条。
大野「う・・・うん」
四条「やっぱり!!私の周りにアニメとか好きな人いなくてさぁ・・・!ねぇ、じゃあ今期だったら何見てる?私はねぇ・・・」
■場面転換(栄星学園高校・教室・昼休み)
大野<本当は、たまたま家に置いてあったのを(多分妹の)、適当につけただけで、アニメ自体は大して詳しくないにも関わらず、四条さんと仲良くなりたいと言う邪な気持ちで、つい嘘をついてしまった・・・>
四条「特にさぁ、『ファニガ』って声優陣豪華すぎるよね!」
大野<それ以降、こうして四条さんが話しかけてくれるようになり、僕は四条さんがその日話したアニメを家に帰って見て勉強し、何とか話を合わせるようにしていた>
四条「主人公があの、今超売れっ子の唯一無二の声を持つ正体不明の超新星声優"柴宮 亜月"で・・・」
大野<今四条さんは、『風雲!ファニーガール』、通称”ファニガ”と呼ばれる、高校生の男女2人組が漫才師を目指すアニメにハマっている(僕はまだ追えてないんだけど・・・)>
四条「相方役が、"七色の声の持ち主"・・・"美加々美 希"だし!」
大野<四条さんは、アニメもそうだけど、キャラクターに声をあてる声優も好きらしく、いつも声優がどれだけ凄いかを僕に熱弁してくれる。実際、今の声優人気は凄まじく、アーティスト活動をはじめとした、タレント的な活動が珍しくないらしい>
四条「ストーリーも熱いしこっからどうなるか・・・」
他クラスの女生徒「棗〜!早くご飯行食べに行こうよー!」
すると、その熱弁を遮る形で、廊下から呼びかけられる四条。
四条「分かった!今行く!」
振り向いて、廊下に向かって叫ぶ四条。
四条「それじゃあ・・・また後で続き話そうね、大野くん!」
こっちに手を振りながら、黒板の前を通って教室の外に出ていく四条。
大野「また・・・ね」
恥ずかしがりながら、小さく手を振る大野。
黒板には、正の字がもう既にかなり書かれており、30人のクラスに対して、席替え『する派』14対『しない派』14のちょうど半々の状態になっている。(書いてないのは、大野と雛崎の2人のみ)
大野<四条さん、どっちに入れたのかなぁ・・・>
大野「やっぱり・・・席替えしたくないかも」
ボソッと呟く大野。
すると、机の上に切り取られたメモ用紙が置かれていることに気づく大野。
そこに書かれていたのは、
『喋れないから、代わりにスペシャル焼きそばパン買ってきてよ、お隣さん』
と言う文字と、重しのような感じで、焼きそばパンの値段230円がメモ用紙の上に置かれていた。
大野「・・・・・・」
固まる大野。
大野<やっぱり絶対・・・席替えだぁぁぁぁ!>
大野「雛崎さん、いい加減に______」
とうとう怒りが限界に達した大野が小銭を掴み、眠っている雛崎に突き返そうとしたその時、
びゅうっと突風が雛崎の左側の空いた窓から入ってきて、大野の机に置いてあったメモ用紙が宙に飛んで、下に落ちる。
すると、その下にあったもう一枚のメモ用紙が露になり、そこには
『いつもサンキュー、お隣さん』
と書かれていた。
大野「これは・・・」
驚き、雛崎の方を見ると、ちょうど寝返りをうった所で、顔がこちら側を向いていた。
その時、マスクを外した雛崎の顔を初めてじっくりと見た大野は、雛崎が四条にも負けず劣らずな美少女な事に気づき、それに見惚れる。
大野<雛崎さんって、こんなかわいらしい顔してたんだ・・・>
大野「・・・はぁ」
ため息をついた後、突き返そうとした小銭をポケットに入れ、黒板の前を通り、教室を出て食堂に向かう大野。
黒板には、先程まで14対14だった表の正の字が一つ増え、席替え『する派』が14、『しない派』が15になっていた(大野がしない派に入れた)。
■場面転換(栄星学園高校・廊下・昼休み)
大野「はぁ・・・結局、焼きそばパン争奪戦に参加してたら、僕の分で残ってたのはこれだけ・・・」
焼きそばパンが入ったビニール袋を左腕にかけ、右手に食パンの耳を持って、ポリポリと食べながら、食堂から教室へ帰る道中の大野。
大野「でもまぁ、四条さんと話せた事を考えるとプラマイゼロ・・・」
そして、廊下の角にある暗幕が引かれて外から中が見えない、空き教室の横を通った瞬間、
引き戸が開き、中から手が伸びてきて、大野の腕を掴み、グイッと強引に引っ張り、空き教室の中へと引っ張り込む。
大野「うわっ・・・!」
その衝撃で、外の扉の前にスペシャル焼きそばパンが入ったビニール袋が落ちる。
■場面転換(栄星学園高校・普段使われない空き教室・昼休み)
男子生徒A「ちょっとツラ貸さんかいコラ・・・!」
そこにはガラの悪そうな男子生徒が3人、外へ出られないように扉の前で腕を組み、睨みを効かせていた。
大野「・・・マイかも」
■場面転換(栄星学園高校・教室・昼休み)
自分の席で寝ていた雛崎が、あくびと伸びをしながら起床する。
そして、あたりをキョロキョロと見回すが、まだスペシャル焼きそばパンは届いておらず、隣の大野もまだ教室に戻っていないことに気づく。
空腹の限界を迎えていた雛崎は、マスクをつけて席を立ち、食堂へと向かう。
■場面転換(栄星学園高校・廊下・昼休み)
食堂に向かう道中、空き教室の前を通ろうとした時、ビニール袋が扉の前に落ちている事に気づく雛崎。
その中を見ると、スペシャル焼きそばパンが入っている。
そして、中から声が漏れ聞こえてきていることに気づく。
■場面転換(栄星学園高校・普段使われない空き教室・昼休み)
大野「あの・・・僕に一体なんの用でしょうか・・・」
怯えた様子の大野。
男子生徒A「何の用だと?」
男子生徒B「ふんっ・・・白々しい。わざわざ"席替えしない"に票を入れたりしておいて」
男子生徒C「見せつけるように教室でナイショ話したり・・・ほんとムカつくぜ」
大野「あの〜だから何のこと・・・」
男子生徒A「四条さんと・・・一体どういう関係なんだよ」
大野「どういう関係って・・・?」
男子生徒B「例えば幼馴染・・・とか」
男子生徒C「生き別れた兄妹・・・とか」
男子生徒A「恋人・・・・・・とか」
三人の意図を察する大野。
大野「僕は・・・!四条さんとは幼馴染でも、生き別れた兄妹でも、ましてや恋人でもない、ただ席が隣なだけ・・・だよ」
3人が顔を見合わせる。
男子生徒3人組「「「・・・だよな〜!!!」」」
男子生徒A「ほら、だから言ったじゃん!四条さんとこんな陰キャの間に何かあるはずないって!」
男子生徒B「俺もそう思ってたよ!」
男子生徒C「俺もだ!」
大野「・・・はははは」
大野<誰も思ってないなら、何でこんなことしたんだ・・・>
心の中でツッコミながら呆れる大野。
男子生徒A「大体よぉ、あんなどっかの国のお姫様みたいな四条さんと、いっつもボソボソ小さくて低い声で喋って、家でアニメばっかり見てそうなコイツとじゃ、住む世界が違いすぎんだよ・・・!」
大野「はは・・・ははは」
大野<お姫様もアニメ見る時代なんですよね・・・>
男子生徒B「大野にお似合いなのはもう1人のお隣さん、雛崎の方だよな」
男子生徒C「言えてる!雛崎っていつも寝てるし、気づいたら早退してるし、誰かと喋ってるところ見た事ないよなぁ?同じ変わり者の陰キャ同士・・・お幸せに(笑)」
男子生徒A「おいおい・・・雛崎って元々喋れないんだから、見た事ないのは当たり前だろ・・・?」
男子生徒C「あっ・・・そうだったわ」
男子生徒3人組「「「あっはははははは」」」
嘲るように笑いながら話す3人。
大野「なんで・・・なんで関係ない雛崎さんの事を・・・」
怒りを抑え込みながら呟く大野。
男子生徒A「・・・何だぁ?」
男子生徒B「いつも何言ってるかわかんねぇんだよ・・・」
男子生徒C「ぶつぶつ言ってないで、男なら言いたい事あんなら大きい声ではっきり言ってみろや!」
にじり寄り、威迫する男子生徒3人組。
大野「・・・標的は僕のはずだろ?僕は生粋の陰キャだし、別に何言われても平気だけど、何で関係ない雛崎さんの悪口を言うんだよ!!撤回して、謝ってよ!!」
自分ではなく、雛崎が悪く言われたことに怒った大野が、珍しく声を荒げる。
普段は自分の声にコンプレックスがあり、わざと小さく低い声でボソボソ喋っているが、この時は感情で抑えが効かず、地声である、未だに声変わりがきていない、特徴的な高い声が出てしまう。
一瞬場の時が止まる。
男子生徒A「・・・言うじゃねぇか」
大野「あ・・・えっと、ごめんなさい!!」
頭を下げて謝る大野。
男子生徒B「ごめんで済まそうなんて・・・思ってねぇよなぁ?」
男子生徒C「てゆうか何だ?さっきのたけぇ女みたいな声」
男子生徒A「もしかしてお前、まだ声変わりきてねぇのか・・・?」
男子生徒B「そんで、その声が恥ずかしくて、いつもボソボソ低い声で喋ってるんじゃね・・・?」
大野「いや・・・それは・・・」
焦る大野。
男子生徒C「図星じゃん(笑)」
男子生徒B「まぁ、そんな変な声してたら隠そうとする気持ちもわかるけど・・・(笑)」
男子生徒A「そんな健気なお前のために・・・その生意気な口、あいつと同じように、2度と利けないようにしてやろうじゃねぇか!」
迫る3人組。
後退りするが、壁にぶつかり、追い詰められる大野。
するとその時、
???「こら、あなた達!ここは使用禁止のはずですよ!こんなところで何してるんですか!」
外の廊下から、女性の怒鳴り声がする。
男子生徒B「この声は牧田!?」
男子生徒C「・・・こんなところ見られたら、停学くらっちまうぞ!」
男子生徒A「仕方ねぇ・・・今日はこのぐらいで勘弁してやるよ!!」
そう言って、反対の扉から逃げていく3人組。
腰が抜けて、その場でへたり込む大野。
大野「・・・たす・・・かった?」
■場面(栄星学園高校・校門前・放課後・夕方)
大野「・・・一体、どう言う事なんだろう?」
他の生徒達が友達同士で帰っている中、1人考えを巡らせながら、校門の方へと歩いていく大野。
その左手には、スペシャル焼きそばパンが入ったビニール袋を提げていた。
■回想(栄星学園高校・職員室・昼間)
大野「あの・・・さっきは助けてくださってありがとうございます、牧田先生」
昼休みに助けてもらった事のお礼を言いに職員室まできた大野。
牧田「・・・はい?何ですか?」
自分のデスクに座って、美顔器を顔に当てている牧田が振り向く。
大野<顔の大きさ・・・気にしてたんだ>
大野「だからあの・・・さっきの昼休み・・・空き教室で・・・」
牧田「昼休み・・・?空き教室・・・?」
大野「先生は、ただの見回りのつもりだったかもしれませんが・・・僕はすごい助けられたっていうか・・・だからお礼を言わせてほしくって・・・」
牧田「・・・だから、何の話?」
ピンときていない牧田。
大野「ですから・・・!」
山口「牧田先生なら昼休み、一度も職員室から出てないよ」
牧田の正面にデスクを構える、話を聞いていた男性教師、山口が姿を現す。
大野「・・・え?」
山口「牧田先生のお昼はいつも手作り弁当だから、職員室から出ることはないよ・・・?ですよね、牧田先生」
牧田「何言ってるんですか山口先生!美人で料理上手で、良いお嫁さんになりそうだなんて・・・そんな!」
山口「・・・飛躍しすぎて大気圏突破してますよ、牧田先生」
大野「それじゃあ、あれは・・・一体誰なんだ?」
■場面(栄星学園高校・校門前・放課後・夕方)
大野<声が似ている人が校内にいたとか・・・?でも、他に心当たりがある人はいないし、そもそも声だけじゃなく、喋り方、イントネーションまでそっくりだった・・・>
また考え込んでいると、グーっとお腹が鳴り、お腹を押さえる大野。
周りを見渡すも、誰も気づいていない様子に安堵する大野。
大野<色々考えて頭使ったら、またお腹空いてきちゃった・・・>
大野<これも、お昼ご飯がパンの耳だけだったせいだ・・・>
大野<結局このスペシャル焼きそばパン、教室に帰ったら雛崎さん早退してて、渡せなかったんだよなぁ・・・何度か食べちゃおうかと思ったけど、お金は雛崎さんのだから、なんか気が引けて結局手をつけられなかった・・・>
ビニール袋を開き、その中を改めて見る大野。
大野「まぁ、消費期限的は今日までだろうし、捨てるぐらいなら家に帰ってゆっくり食べよっかな・・・って・・・ん?何だこれ?」
消費期限を確認しようとスペシャル焼きそばパンを裏返した時、そこに一枚の切り取られたメモ用紙が貼られていることに気がつく。
そこには、
『放課後、校門前で待て』
と書かれていた。
大野「放課後・・・?校門前・・・?って、今まさにそうじゃ・・・」
すると、スモークガラスがついた一台の車が大野の前で止まる。
大野「・・・え?」
そして、後部座席の扉が開き、そこから手が伸びてきて、腕を捕まれる
大野「うわっ・・・!?」
その腕により、強引に車内へと引き摺り込まれる。
大野「ま・・・またぁぁぁ!?」
そして、また手に持っていたビニール袋がその場に落ちそうになるが、もう一本車から腕が伸びてきて、キャッチする。
そして、その手が車内へと引っ込んだと同時に扉がバタンと自動で閉まり、車が発進する。
■場面(車内・放課後・夕方)
雛崎「焼きそばパンようやくゲット!うわ〜、美味しそう!」
そう言ってビニール袋を覗き込んでいたのは、早退したはずの雛崎だった。
大野「えっ!?雛崎・・・さん!?」
驚く大野。
雛崎「ビックリした・・・?荒っぽくなっちゃったけど、どうしても君に頼みたいことがあってさぁ・・・」
そう言いながら、ビニール袋からスペシャル焼きそばパンを取り出す、雛崎。
今なお固まったままの大野。
雛崎「ちょいちょい・・・説明する時間もなくてさぁ、こうなったのはほんとに悪いと思ってるんだよ?そこまで警戒しなくても・・・」
大野「いや、なんで普通に喋ってるの・・・?だって・・・手術の後遺症で喋れないって・・・」
雛崎「ん・・・?手術の後遺症?何それ」
大野「え・・・まさか、最初から本当は喋れたの!?」
雛崎は、スペシャル焼きそばパンに貼られていた、『放課後、校門前で待て』と書かれたメモ用紙を手に持って見せる。
そして、それを裏返すとそこには、
『バレたか』
と書かれていた。
大野「え、えぇぇぇぇ・・・・!?」
真鍋「"大野 代亜"くん・・・これには訳があるんです」
すると、運転している、スーツを着た男性が大野に話し出す。
大野「・・・わけ?ってなんで僕の名前を・・・」
真鍋「申し遅れました。私、"美加々美 希"という声優のマネージャーを務める真鍋と申します」
大野「"美加々美 希"・・・って、まさかあの"七色の声の持ち主"の・・・!?」
真鍋「ご存知でしたか・・・それは話が早い」
大野「・・・でも、美加々美 希のマネージャーさんがなんで僕の事を・・・っていうより、なんで運転手を・・・?」
バックミラー越しに雛崎の姿を確認する真鍋。
すると、雛崎はスペシャル焼きそばパンを頬張っている所だった。
真鍋「そこでスペシャル焼きそばパンを頬張っていて、教室ではあなたの隣に座っているその人こそが、"美加々美 希"・・・だからですよ」
大野「雛崎さんが・・・声優の、"美加々美 希"!?」
真鍋「はい・・・一応売れっ子声優ですからね。学校で声バレをして余計なトラブルを起こさないために、喋れないということにして、学校に通っているんです」
雛崎「一応ってなんだよ〜!!」
スペシャル焼きそばパンを食べながら不服そうにしている雛崎。
大野「・・・喋れないフリをしていた訳はわかりましたけど、それと僕がこんな目にあっているのは一体どういう関係が・・・まさか・・・正体を知ったからには生かしておけない・・・的なあれなのでしょうか・・・」
雛崎「ふっふっふっ・・・その通り!今からお前を、この焼きそばパンのようにぐるぐる巻にして土管に詰めて、スペシャル人間パンにして太平洋に沈めてやろう・・・!」
真鍋「真紀ちゃん・・・人気女性声優らしからぬ冗談はよしなさいっていつも言っていますよね・・・?第一秘密をバラしたのはこちら側からなんですから」
悪ノリする雛崎を咎める真鍋。
大野「それじゃあ一体・・・」
真鍋「今向かっているのは、収録スタジオです」
大野「収録スタジオ・・・?」
真鍋「はい・・・今から『風雲!ファニーガール』というアニメのアフレコがあるんです」
大野「え・・・それって・・・」
真鍋「この作品はW主演作品でして、女性の主人公役を"美加々美 希"が、そして、男性主人公の方を務めるのが・・・」
雛崎「今超売れっ子の、唯一無二の声を持つ、正体不明の超新星声優"柴宮 亜月"・・・ですよね!」
真鍋「ほう・・・随分お詳しいようで」
大野「あ・・・はい・・・まぁ・・・ちょっと」
大野<全部四条さんからの受け売りだけど・・・>
真鍋「実は2人は同じ声優事務所所属でして、"柴宮亜月"のマネージャーも、私が務めているんですよ」
大野「へぇ〜・・・それは大変そうですね」
真鍋「・・・まったくその通りでして、2人とも実力は本物なんですが、見ての通り真紀ちゃんはこんな感じですし、亜月くんに至っては、とんでもない気分屋なんですよ」
大野「それはそれは・・・・」
真鍋「そしてつい先日、柴宮 亜月の気まぐれ具合がついに暴走しまして・・・突然声優を辞めると言い出したんですよ」
大野「辞める・・・!?」
真鍋「必死に説得したんですが、これが頑固で・・・代役を立てようにも柴宮 亜月の声は唯一無二、他に代わりになるような人もおらず、今ある仕事も全て指名していただいたものばかりなのです。こうなると、膨大な仕事を全てキャンセル、その結果、制作現場に多大な迷惑がかかって、我が事務所の信用はガタ落ち。それだけではなく、ファンからの批判の噴出に、最後には業界に未曾有の混乱が生まれることになります」
大野「そんな大変なことになっていたなんて・・・」
真鍋「それほどなんですよ、今の声優業界における柴宮 亜月という存在は。そこでいよいよ困り果てていた時、突然真紀ちゃんから連絡があったんです。柴宮 亜月そっくりの声を持つ男の子がいる・・・と」
大野「そんな人が見つかったんですね!良かったじゃないですか!」
真鍋「それがあなたですよ、代亜くん」
大野「・・・え?」
雛崎「つ・ま・り」
食べ終わった雛崎が口を開く。
雛崎「君は今から"柴宮 亜月"の影武者として、声優活動をしていくってことだよ!もちろん、これを知っているアタシ達以外に正体がバレないように・・・ね」
大野「僕が・・・超人気声優"柴宮 亜月"の影武者・・・!?」
第2話
第3話
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?