「悪学のマニエラ」第3話
■場面(児童養護施設『宣艇園』前・朝)
ライラ「今日は早いねレンくん・・・ってあれ?」
園長であるライラが出迎えに来ると、軒先にいたのは、レンだけではなく、レンと同じか、少し下くらいの幼い少女と、両親と思える成人した男女がいた。
レン「父さんと母さん」
マロウ「息子が随分世話になっていたみたいで・・・レンの父の、マロウです(なんで俺がこいつらの父親役なんてせにゃならんのだ・・・!俺達は気高きマフィアだぞ!?)」
リゾ「・・・母のリゾです」
ライラ「これはこれは・・・!こちらこそ、レンくんにはいつも手伝ってもらって助かってるんです!」
レン「前に、ライラが園に入りたかったら親の許諾がいるって言ってたから、連れてきた」
ライラ「あら、そうだったの・・?」
マロウ「実は私達夫婦が、一週間ほど家を空けなくてはならない用事ができまして、もし良かったら、期限付きの一時的なものとして、入園させていただけないかと思いまして・・・」
ライラ「そう言うことでしたら、ぜひ・・・!園の子供達も、レンくんが大好きなので、きっと喜ぶと思います・・・!」
マロウ「そういっていただけると、助かります」
レン「・・・それじゃ、決まった事だし、俺は早速スープキッチンの手伝いに・・・」
ライラ「・・・待ってレンくん、なんでそこの可愛らしいお嬢さんの紹介は私にしてくれないのかしら・・・?」
露骨に嫌がった後、観念するレン。
レン「・・・こいつは、俺のい・・・い・・・」
ライラ「・・・い?」
体が拒否反応を起こし、言葉が止まるレン。
セリル「かよわくてぇ、かわよい担当のぉ〜・・・みんなの妹、セリーでっす☆」
すると、我慢できなかったセリルが、媚びたあざとい挨拶を披露する。
思わず吹き出すマロウ。
ぼそっと小声で、『かわよい・・・』と言うリゾ。
ライラ「え・・・えっと、レンくんの妹って事かな・・・?」
困惑するライラ。
レン「不本意ながら・・・そうだよ」
ライラ「まさか、レンくんにこんな可愛い妹ちゃんがいたなんてね〜、セリーちゃんもお預かりする形でいいんでしょうか?」
マロウ「えぇ・・・ぜひ・・・!(というかこいつは、永久に引き取ってほしいくらいなんだが)」
日頃の恨みからか、嬉しそうに言うマロウ。
ライラ「分りました・・・!よろしくね、セリーちゃん」
セリー「・・・ライラお姉ちゃん、よろしくね☆」
そのぶりっ子すぎるセリルを見て、今度は一気に鳥肌が立ち、寒気に襲われるマロウ。
再びぼそっと小声で、『かわよい・・・』と言うリゾ。
マロウ「それじゃあ、そろそろ私達はこれで・・・、また迎えに来させていただきます」
ライラ「二人のことは、お任せください・・・!」
宣艇園に背を向け、道路を渡って、反対側へと歩き出す、マロウとリゾ。
マロウ「っふ〜・・・やっと終わったぜ・・・しかし、ボスのあの挨拶は傑作だったなぁ・・・今度あれで強請って昇進を・・・」
マロウがネクタイと気を緩めていたその時、道路を挟んだ向こうの宣艇園から、声が聞こえてきた。
マロウとリゾが振り向くと、セリルが笑顔でこっちに手を振っていた。
セリル「お母さ〜ん!」
リゾへの呼びかけの後、
セリルが、口を大きくあけ、その動きだけで「あ・い・し・て・る」と表現する。
読唇術でそれを読み取ったリゾは、目にハートマークを浮かべ、興奮しながら千切れんばかりに手を全力で振った。
セリル「お父さ〜ん!」
先程と同様に、マロウへ一度呼びかけた後、口を大きくあけ、その動きだけで何か言葉を表現した。
そして、それをマロウが読唇術で読み取る
マロウ「え〜、何々?『あ・と・で・こ・ろ・す』____」
一気に冷や汗が吹き出すマロウ。
マロウ「やっべえ・・・今すぐ海外渡航の準備しないと、殺される・・・!」
その一方、仁王立ちして、涙を一筋流しているリゾ。
リゾ「・・・セリーたん尊すぎて禿げそう」
マロウ「泣いてる・・・!?」
■場面(児童養護施設『宣艇園』・一階)
早速中に入り、宣艇園内で着る用の真っ白な衣装に着替えた二人。
ライラ「レンくんも着るのは初めてだよね・・・?これは天白って呼ばれる衣装で、子供の内にこれを着て洗礼を受けると、天使になれるって言い伝えがあるんだよ・・・?」
レン「・・・天使」
セリル「天使級に可愛いセリーがこれ着ちゃったら、今すぐにでも天に登っちゃいそう〜☆」
レン「いつまでやってんだこいつ・・・」
セリル<ここに飾られている絵画や銅像・・・どれも見覚えがあるほどの著名な芸術品ばかり・・・>
すると、入園しているであろう、同じ専用の白い衣装に身を包んだ子供達が、二人の元に押し寄せてきた。
子供達「「「今日から、レンお兄ちゃん泊まっていくって本当・・・!?」」」
レン「あぁ・・・」
子供達「「「やった〜!!!」」」
フレディ「ねぇねぇ!今日は僕の隣で寝ようよ!」
ハンナ「・・・だめだよ!アタシの隣で寝るんだもん!」
今にも取っ組み合いになりそうな勢いで、睨み合う二人。
ライラ「こら・・・!喧嘩しない!」
レン「分かった・・・右隣がフレディで、左隣がハンナにしよう。それなら文句ないだろ・・・?」
2人「「うん!!」」
ダニール「じゃあ明日俺な・・・!」
ケイト「じゃあ明日の明日は私ね!」
メアリー「そんなに待てないよ〜!私も今日がいい〜!」
子供達によるレンの取り合いが白熱していたその時、
セリル「それじゃあ、セリーちゃんと一緒におねんねしたいのは、誰かな〜?」
すると、さっきまで活発だった子供達の動きがピタッと止まる。
アレックス「・・・あんた誰?」
セリル「かよわくてぇ、かわよい担当のぉ〜・・・みんなの妹、セリーで____」
ザック「・・・何か変」
アマンダ「・・・可愛くない」
アレックス「・・・ダサい」
セリル渾身の挨拶を、子供達が酷評する。
セリル「・・・そうか、なら2度と忘れることができないよう、私の名をその身体に直接刻み込んでくれる・・・!」
子供達「「「・・・わ〜!怒ったぞ〜!」」」
悪魔のような笑みを浮かべ、子供達を追いかけ回すセリル。
子供達「「「逃げろ〜!!」」」
そのあまりにシュールな光景に思わず、顔を見合わせ笑ってしまうライラとレン。
■場面(児童養護施設『宣艇園』・庭)
庭で子供達が、歌を歌ったり、芝生に寝転んで気持ちよさそうにしていたりと、思い思いに遊んでいる。
それを隅にあるベンチに座って眺めていたレンの隣に、セリルがくる。
セリル「子の相手も、たまにする分には気持ち良いかもしれんなぁ・・・」
そう言ってセリルがベンチに座ると、どこからともなく3人の子供が現れる。
ザック「・・・セリルお姉様、こちらタオルでございます」
セリル「・・・ふむ。気が利くな」
アマンダ「・・・セリルお姉様、こちらジュースでございます」
セリル「・・・ふむ。いただこう」
アレックス「・・・セリルお姉様、こちらクッキーでございます」
セリル「・・・ふむ。美味だ」
3人「「「ありがたき幸せ・・・!」」」
セリル「・・・下がっていいぞ」
3人「「「・・・はっ!」」」
それぞれ、忍びのようにどこかへ去っていった3人。
レン「いつの間に・・・」
セリル「私が誰かというのを、忘れていないか・・・?」
レン「第一、みんなの妹じゃなかったのか?」
セリル「・・・グハァッ!一本取られたようだなぁ・・・」
セリル「・・・レン、お前が笑っているところを初めてみたよ・・・そんなにここは特別か?」
改まった口ぶりで話すセリル。
レン「・・・あぁ。ライラは俺が実験施設にいた時の恩人によく似ている。ここの子供達もそうだ。そして、その恩人は言ったんだ。外に出たら、朝は早起きして、みんな揃って暖かいミルクと、ベーコンエッグと、パンを食べ、昼間は歌を歌ったり、広い公園でみんなで青空の下で寝転がって過ごし、夜は、フカフカのベッドの上で、怖い話をする。そして、そんな日が次の日も、その次の日も長く続いていく。そんな夢物語が、ここには広がっている。だから、俺はここが____」
セリル「・・・グハァッ!そこまでいくと、けっさくだな」
レン「・・・何?」
セリル「敬虔で盲目な信徒に教えてやろう。時に真実が残酷なのではない、常に真実は残酷。残酷こそが、この世の真実なのだよ・・・それでもなお、傷つき恐れながらも、真実を追い求めよ。でないとお前は一生、矯正された人形のままだ」
レン「俺が、矯正された人形だと・・・?」
■場面(児童養護施設『宣艇園』・庭)
セリル「やぁ諸君、かくれんぼをしないか・・・?探す鬼側陣営は庭の外に一度出て、その間に隠れる側が、建物内のどこかに身を潜めるというやり方だ」
子供達「「「やりたーい!!!」」」」
セリル「よし、それでは今から半分に分かれ、早速ゲームを始めるとしよう」
セリルを中心とした隠れる側が、早速建物内へと移動し、レンを中心とした鬼側は、目を塞いで、庭の外で待機している。
メアリー「それじゃ数えるねぇ〜!」
子供達「1〜、2〜、3_____」
レン<お前みたいな悪党に、俺の気持ちがわかってたまるか・・・!>
■場面(児童養護施設『宣艇園』・1階)
セリル「まずは、最適な隠し場所を探しだすのだ。すぐに見つけられるような所だとダメだ。そうだなぁ・・・例えば_____」
ノラ「・・・ねぇねぇ」
すると、一人の女の子がセリルの裾を引っ張った。
セリル「どうした・・・?」
ノラ「あんなところに階段なんてあったっけ・・・?」
セリル「・・・グハァッ!ビンゴ、隠し部屋だ・・・!」
■場面(児童養護施設『宣艇園』・庭)
子供達「「「もういいか〜い!」」」
???「もういいよ」
メアリー「・・・え?」
そのあまりにも近い返事に驚き、少女が腕から目を離すとそこにいたのは、武器を構えた数人のマフィアだった。
マフィア「さあ、ここからは・・・命懸けのかくれんぼと洒落込もうじゃないか」