「頭にガソリンをかけて火をつけたけど殺意はない!」ってどういうこと?裁判員裁判ガチ傍聴! 傍聴小景 #126-前編(殺人未遂)
できる限り分け隔てなく傍聴しようと心がけている私ですが、裁判員裁判というのものにはなかなか縁が遠いもので。
傍聴をしたくないわけではないのですよ。
ただ、理由としては簡単で、審理がほぼ1日中続き、数日に及ぶ裁判員裁判をしっかり見ようとすると、他に追っている裁判が傍聴できなくなるからです。
だいたい私のスケジュール帳は、過去に傍聴して、その後も気になる裁判の予定でびっしりなので。
ただ、つい先日判決が出たばかりのとある裁判員裁判は、全5日間の審理予定が、自分の予定的に割と空いていることが判明。
とりあえず初日の傍聴をしてから、考えようかと思ったのですが、その初日にしっかりと心を奪われたわけで。
はじめに ~裁判員裁判はやっぱちょっと違う~
被告人は、上下ジャージ姿で、下をうつむきがち。髪は単発で、肌は色白、筋肉質などでなくむしろ細い部類、外見の雰囲気は大人しそうな男性。
ただ、外には出さないけど、心の内では今まで色々なことを飲み込んできたのではという印象を抱かせる被告人。殺人未遂という罪名ですが、暴力的雰囲気がある被告人ではありません。
裁判員裁判は、裁判官3名と一般から選ばれた裁判員6名、補充裁判員という役割の人が数名います。
補充裁判員というのは、裁判員の方が評議の期間中、何かしらの原因で参加できなくなった際に、その名の通り補充される方々のこと。そのまま評議に入れるよう、法廷内で同じようにときを過ごしますが、裁判官と同じ列に座るでなくちょっと離れた場に座って参加します。
裁判員裁判でない、裁判官3名で行う裁判の場合は、その3名は同時に法廷に入ってきます。
しかし、裁判員裁判では、まずは裁判長1名が入ってきて、その後に割と時間を空けて裁判官2名を前後にする形で裁判員が入廷します。
その時間差の間に被告人は手錠を解かれます。それによって、裁判員に対して手錠をつけられた被告人という、印象を与えるのを防いでいるのかと思います。そんなに件数重ねてないので、想像なのですが。
ちなみに、裁判といえば恒例の、裁判官が入ったときの起立、礼。
これも当然、裁判員裁判の際も行うのですが、裁判長が入ったときに起立礼して、第二陣が入ったときも起立礼することもあれば、第二陣が入ったときだけ起立礼する場合もあり、傍聴人としてはどっちなのかとなかなか戸惑うのです。
今回の裁判員さんは終始真面目に審理を聞いていた印象。過去には大きくアクビをしている人や、僕は見てませんが明らかに寝ている人がいたという情報なんかも。
事件の概要(起訴状の要約)と罪状認否
当然、人を傷つける行為はどれもよくないのですが、火を用いる行為はより悪質だと感じています。関西では近年、京アニの放火事件、北新地のビル放火事件などで大きな死傷者を出しています。
ニュースになるほど大きくなくても、家事現場の近くを通った際にしばらく残る焦げた臭いというのは、人を嫌な気にさせます。
被害結果が大きくなりやすいと容易に想像できるものを、手段として用いている時点で僕としてはかなり嫌悪感なのです。
さて、この起訴事実に対して被告人、弁護人の罪状認否です。
殺人の意思は否認。まぁ多くの殺人罪で、その殺意は否認されるものではありますが。
この裁判、すでに判決がヤフーニュースにも挙がっていて「ガソリンをかけておいて、殺意がないわけないだろ!」という意見が大半。僕もこの罪状認否の段階ではそう感じました。
今後、どういった主張になるのか見ものです。
検察官の冒頭陳述 ~東京から関西へ追いかける執拗な犯意~
検察官がこの裁判で主張するこの事件に関する事項です
ここに大きくフィーチャーするのも違うのですが、情報の受け取りに誤りがあってはいけないのでお伝えしておくと、男性同士の好意のもつれの話でした。
ちなみに、裁判になる事例で女性同士の好意のもつれによる事件もないこともないのですが、こちらは極稀です。
それにしても今回の被告人は、相手の態度に関わらず、かなり長期間、そして執拗に好意の感情を持ち続けていたようですね。暴力を受け、家の家財道具を壊されてもなおなのですから相当です。
しかし、その思いは後に恨みへと変わってしまうと。一方的に捨てられたから恨むとかいうのでなく、一方的に好意を持ち続けて、それが叶わぬから恨みに変わったような話なので、被害者にとってはとんでもない話です。
警告も受けていましたが、ストーカーと評価される行為に近かったと思われます。
ちなみに被害者は関西の実家に帰ったという話がありますが、当初の出会いや、示談にいたったときは、東京での話でした。そこから被害者は関西まで逃げたのですが、被告人は関西まで追いかけて犯行にいたったという話なので、そこでもその執拗さが伝わることでしょう。
そして検察官が争点として挙げている殺人未遂の成立について。やはりガソリンに点火という言葉を聞くだけで殺意があると感じざるを得ません。
この点については、弁護側がどう主張するのかを待つことにします。
弁護側の冒頭陳述 ~被害者の顔に後遺症を残したい~
弁護人は2名。あまりお見返した記憶はないのですが、この裁判全体を通じてで考えると大変頑張りが伝わる方だったと思います。
さぁ、冒頭陳述で法廷の雰囲気を変えることはできるのでしょうか。
争点に関する冒頭陳述は、裁判員に対して考え方を示した感じで、その場で何をもって「実質的な危険性がなかったのか」を示すようなものではありませんでした。殺意に関しては事件の経緯の中で出た「後遺症を残したい」ということで、殺意はないと主張したいことなのでしょう。
好意のもつれで事件化というのは、もちろん異性間でもよく目にします。暴力事件、さらに最悪なケースになる場合も見てきました。
しかし同性間のもつれだと、顔とかを狙って傷つけるケースが多い気がします。これは、あくまで僕の傍聴歴からの感覚。確かに被告人の主張する「遊べなくする」という動機はありえます。
しかし、それにガソリンを選ぶかね。
携帯していたというから、一定以上の計画性はあったと推認される中、ガソリンの危険性を把握していなかったとは言えないでしょう。
とは言え、僕も「ガソリンの危険性」と一言に言っても、具体的なことはわかりません。どれくらいかけたら、どれほど燃えるのかなどはわかりません。
例えばですが、スポイト1滴かけただけだとしたら、それが殺害の意図があったとは認められないでしょう。
そういうこともあって、弁護人はガソリンをかけた回数を「1回」と強調なされたのでしょう。これが、どれほどの量なのかが気になるところです。
ただ、争点はそれはそれとして理解したのですが、被告人がその判断をするにいたった経緯に同情できなかったのが、個人的に残念に感じたポイントでした。
もちろん被害者もなかなか暴力的であったようなので、示談時の約束の対応なども含め、そこに恨みを持ったというところまでは理解できるのですが、結局は被告人の執拗さが恨みを持つことになった根本の原因のように思えます。
確かに、それでも抱いている好意から「死んでほしくない」ということで殺意はないという主張は、聞けないわけではありません。
というか逆に、これくらいの恨み(失礼ですが)で、「殺してやる!」という強い思いにいたるのも、やや不自然な気もします。被告人はケガをさせられたといっても、深刻な骨折などでもなさそうですし、この点からも殺意はなかったには繋がる気はします。
とは言え、ストーカー的要素もある被告人なので、恨みの大きさは外からは計り知れないという部分もあるのかもしれないなどと思ったり。
その後に行われた検察官証拠、弁護側証拠の取調べは傍聴できませんでした。ただ、後の尋問などから補完できる部分が多く、恐らく致命的な情報の抜けなどはないはず。
証人尋問・A(検察側) 〜「もっとガソリンをかければよかった」〜
検察官は、被告人が購入したガソリンの送り先にしたり、被害者の家を探すのに協力したAを証人として請求。Aは傍聴席、被告人との間で遮蔽の措置が取られる中での尋問となりました。
尋問の手順などは従来通りなのですが、裁判長から一つ説明があります。
この説明は日常的にする裁判官、しない裁判官に分かれるのですが、今回はなんだか念入りに説明していることが妙に気になっていました。
そう言った通り、その後、検察官は被告人のことを示す際に「姉さんは…」などと言ったので驚きました。なお、この記事では被告人、被害者と表現します。
「被告人」という呼び方は、一般の方にとって言い慣れないので、尋問において名前などで呼ぶことはあります。「タカシさんは」とか「あなたのお父さんは」などなど。
今回の証人にとって、呼びやすい呼称を用いることで、スムーズに答えさせたいという思いもあるでしょう。ただ、その背景としては、この証人がややのんびりした語り口の方だったので、特に混乱させたくないという思いがあったのでしょう。
なお、被告人は、後にこのAについて昔からの精神疾患があり、ぼんやりしていたり、記憶が曖昧なところがあったので、自分の記憶と異なる部分があると主張していました。
確かに声や、話している感じから、被告人の主張もそうなのかなという感じでした。
そこの正誤は、こちらにはわからない部分ではありますが、ただのんびりとした受け答えの中でも、わからない部分はきちんと聞き返したり、証人の供述そのものに関しては一貫性はあったように感じました。
Aと被告人はだいぶ昔からの飲み友達。Aも同性愛者であったようですが、被告人に対する恋愛感情はないけど、とにかく頻繁に飲む友だちで、恋愛相談を受けることもあったのだとか。
ここでAがそのように言っていたら、何か事態は変わっていたのでしょうか。
冷静になって別れるのか、すでに殴られながらも関係継続しようとしている中なので、何を今さらと取り合ってもらえないのか。
その殴られたときのことをAに伝えているときのトーンが、被害を受けている感じなのか、暴れん坊だから手がかかっちゃって…的なものなのかによって違う気もしますね。
相当お熱だったようです。そんな中、話の展開が急に変わってきます。
Aが感じたことを言ってるだけなので、Aが思うならそれでいいんですが、この箇所だけでは、恋愛感情が充足しないことへの不満をちょっと過激に表現しているだけで、本気で殺すという感情はちょっと伝わりません。
ただ、とにかく被害者のことは本当にどうにかしたかったんだろうなというのは伝わります。
ただ、ここらで疑問になってくるのが、被告人とAの関係性についてです。
飲み友達ということはわかるのですが、頼まれたからといって、訳のわからん動画を作って、第三者に送るなどするでしょうか。
一気に過激になりました。こう具体的な内容を言われると、殺したいという思いがあるのかなと感じます。なぜ、両親まで?という疑問は残りますが。
なお残る、証人がなぜここまで協力をするのかという疑問。
脅されている感じはしない、証人自体が被害者に対して特別な悪感情を持っている感じもない。そのモヤモヤがしばらく続きました。
データの発信元などを辿れないとかで、特殊詐欺などの犯罪グループに人気のテレグラムを使ってのやりとり。
真っ当な使われ方をする場合もあるのかもですが、「じゃあ、続きはテレグラムで」と言われたら、その話は断ることにしています。そういう誘い、過去に一度あった。
それにしても、証言は具体的です。そして、証人に被告人を陥れるための虚偽を挟む理由も考えにくく信用足りえるのかなと。
というのも、証人と被告人が、被害者に火をつけるという共通目的のもと行動していたのであれば、被告人の方を悪く言って自分の責任の程度を低くするという考えにもなるでしょう。
ただ、準備を手伝った証人と実行に移した被告人は、責任の範囲は別の次元で、今回の裁判で被告人が真実よりも罪が重くなる判断が下されても証人にとっては何の得もないからです。
むしろ、罪が軽くなる証言をしたほうが、自身の準備を行ったことへの非難の程度も低くなることでしょう。
まぁただ、記憶違いというのは当然あるかもと頭の中には入れないといけないのですが。
その後、被告人は証人のいる関東へ戻り、飲みながら事件について話をしたそうです。それに付き合う証人もなかなかですが。
被告人は事件現場付近にてカツラなどで変装を行っており、事件後にそこに戻り変装用具を放置し逃走していることがわかっています。その変装用具の汗などから被告人のDNAが検出されたそうです。
変装すると聞くと、相手に自分と悟られたくない、警戒されたくないという思いがあることを感じ取れます。だからイコール殺意というものでもないでしょうが、計画性の高さには繋がる話かと思います。
話は戻って、被害者は「お兄さん誰?」と被告人に問いかけ続けます。
というのが、証人が被告人から聞いた事件の話だという。
号泣する証人。被告人の所業を恐ろしいと思いつつも、もっと違う手はあったはず、自分はどうするべきだったのか、などいろいろな思いが重なった涙だったように思います。
証人尋問・A(弁護側) 〜被告人が指摘する証人の精神疾患とその所感〜
さて、検察側からの質問に対しては、あまり矛盾なく回答していたと思われる証人。
弁護側からの質問で、証人の証言に信用性が乏しいと指摘できるような質問はできるのでしょうか。
被害者と知り合ったことで、被告人も変わっていったということでしょう。むしろ、目潰しされそうになりながら、なおも執着できることに驚きもするのですが。
検察側の質問のときにも同じ感想を持ちましたが、個人的にはBに動画を送ったあたりの「殺す」は勢いで言ってる感じがします。硫酸を顔にかけるとか勢いでも口に出す言葉ではありませんが。
ただ、燃焼実験に関しては、マジというか、徐々に殺害への意思・計画が形になり始めている気がします。
弁護側としては、「断れることもあったのに、協力するような関係性は不自然!」と主張したい感じはしたのですが、僕の印象はむしろ逆。
具体的な意思になりつつある燃焼実験については、無謀な依頼と被告人も認識したから、余計な足がつかないように断りの求めに応じたという印象を持ちました。
瞬間的に広がるガソリンをいつから犯行の選択肢に入れていたのかという点でも大事な部分。また、証人の記憶にも切り込む部分です。
ただ、この点の正誤はわかりませんが、わからないときは「わからない」と答えていた証人において、ここは譲らなかったので、少なくとも本人の中で自信はあった模様。
あったんかい!
今は亡き細木数子が「あなた地獄に落ちるわよ」ってよく言ってましたけど、それと同じ感覚で「硫酸かけるわよ」って言ってたのかな。センスが異常すぎるだろ…。
確かに話しぶりやその判断などから、被告人の主張する精神的な幼さみたいなのは垣間見える証人でした。ただ、答える姿勢は真っすぐな印象を持ちました。
被告人はその証人の不安定さを後ほど指摘するのですが、仮にそうだとしても、そういった人物なら自分の言うことを聞くだろうと、犯行のパートナーに利用している感じがして、被告人が証人の証言に疑問符を投げかければ投げかけるほど嫌な気分になりました。
続いて検察官が補充の質問をします。
会話の中で「ガソリン」というワードが出ていたことを印象付けるような質問、見事です。
尋問の趣旨から、協力体制に関わる話になっていたのがわかっていたのですね。冒頭に裁判官がしっかり証言拒否の説明をしていたことに合点がいきました。
途中でも書きましたが、証人が自らに不利益が来るのを分かってて、虚偽の証言をすることはどうしても考えにくいです。
この証言が判決においてどのように判断されるのか、とても気になる証言姿勢だったと思います。
余談なんですが、裁判員裁判では、裁判員の負担を考慮して、1時間に1回くらい休憩を挟みます。
この証人尋問においても休憩機会があったのですが、検察官が遮蔽の中にいる証人に「大丈夫?疲れていない?」と笑顔で語りかけているのが、普段のキリリとした表情と違って、また良いのであります。
その後に行われた裁判員、裁判官による証人尋問は傍聴できませんでした。
今回はここまでで、次回は被害者の証人尋問、被告人質問、論告・弁論、そして判決まで一気に書く予定です。
正直、ここまでの話だと、検察側が有利に感じます。それが、今後どういう争点に対する意見が出され、最終的にはどういう判断になるのか、お楽しみにしていただければと思います。
まぁそうなるだろうなとは思っていましたが、身近な裁判だけでなく、裁判員裁判も傍聴すれば、しっかりと沼にハマりますね。とは言え、私にも時間的制約があるもので。
有名無名問わないので、裁判員裁判を専門とするような傍聴記がもっと増えたらいいのに。
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