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30代で刑務所を行き来する被告人へ、裁判官からの救いの手と更生の兆し 傍聴小景 #97
裁判傍聴というのは、途中の入退室が可能なので、それにはいろんな場面で助けられていますし、初めての人のハードルを下げるという点でも有効かなと思っています。
しかし僕は極力、途中の入退室はしないようにしています。やはりドアの開け閉めで関係者の方の気を散らしたくない思いがあります。
そして、なにより傍聴人視点としては、序盤が退屈に感じても、いつプラスに転じるかというのはわからないからです。
はじめに ~30代で住居不定無職~
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罪名:詐欺
被告人: 30代の男性
傍聴席: 平均2人(全2回)
被告人は僕よりちょい下の男性。僕みたいなオジサンフェイスに言われたくないでしょうが、年齢より上に見えるんですよね。老けているとかじゃなく、疲れている感じがして。髭とか乱雑な感じも歳を重ねているように見せます。
そう書いておいて、自分もそういうところあるから、もう少し人の目を気にしないとと思ったり。
この方は住居不定で無職。裁判において聞かないワードではないですが、30代でとなると珍しさもありますし、虚しさも感じてしまいます。
事件の概要(起訴状の要約)
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被告人はカラオケ店に入り、手持ちに現金がなく、支払う意思がないにも関わらず、生ビール、焼酎、明太から揚げ、チキンバスケットなど10点計5530円分の無銭飲食を行った。
食い逃げ事案です。
カラオケショップで食い逃げとは珍しいです。歌ってストレスも一緒に発散したかったのでしょうか。捕まるなら楽しい思いをしようということなんですかね。
よくよく考えたら、酒飲みながらソファに寝転がったりもできるから、食事の質とかにこだわらなければ、それはそれで楽しめるのかもな。
採用された証拠類 ~逃げても無駄なので警察呼んでください~
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被告人は前科4犯中同種が3犯、同種前歴7件で、ここ5年で2回刑務所に服役している。所持金は0円、払ってくれる人もいなく、今回も当然最初から払う気もなかった。
今回の事件の一年前に前刑が終了し出所。いろんな県に赴き主に工事現場などで働くも、長くても3ヶ月ほど仕事が続かない。大阪の日雇いのメッカ、西成にほとんど手持ちがない状態できて、何度か無銭飲食を行っていた。
飲み食い出来たら後はどうでもいいと、今回の犯行を決意し、レジカウンターで会計の際に「逃げても無駄なので警察を呼んで」と自ら申告した。
若いのに結構罪を重ねています。同種前科が多いのもよくないです。感覚が完全にマヒしています。
いろんな県に赴いてはいるようですが、仕事は長続きしていないようです。知らない地へ行って心機一転という場合もあるでしょうが、慣れない地に馴染めないというのもよくあることでしょう。
家族のことは後の被告人質問を含めても何もわかりませんでした。地元がどこなのか、支えてくれる家族はいないのか等々。
30半ばで自立せんといかんのはそうだとしても、これまでの経歴を見ても、どこかで転換期を迎えるにしないと刑務所との行き来する人生しか見えてきません。
今回がその転換期となりうるのでしょうか。
被告人質問 ~聞くべきことは聞いてるけど~
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裁判としてはここまで5分ほど。ペースとしてはかなり早い。
前科がそれなりにあり、事件に争いがなく単純なものなので、サクサク進みます。事務的とは言わないまでも、反省を望むのは難しいなという全体的な空気を感じます。
弁護人の質問によると、事件の3日前に建設の仕事を他県で行ったものの、その日給を大阪への交通費や飲食費で費消してしまったとのこと。住む家もないのでネットカフェで生活して、完全にお金を使い切ります。
弁「お金がないのにカラオケ店に行ったのは?」
被「空腹を満たすためです」
弁「店員にどなったり、暴力を振るいましたか?」
被「していません」
なぜカラオケ屋を選んだのかには言及されず。空腹を満たしたいだけという短絡的動機に着地させるためとは言え、関心はどうしてもそこに向いてしまいます。
そして、暴行などを発していない点は、犯行態様が悪くないという印象付けには当然いいのですが、「とにかく捕まりたかった」という印象が強く残ります。つまり、今後はどうするかというアンサーがその後の質問で出ればいいのですが。
弁「また刑務所に行くことになるとは?」
被「思いました」
弁「じゃあ、どうして?」
被「空腹を満たしたくて」
弁「一生、行き来したいですか?」
被「いいえ」
弁「どんな人間になりたいんですか?」
被「仕事をして無銭飲食をしないような生活を」
とにかく食事に困っていたようですね。「どんな人間に?」と聞かれてその答えが出るのが悲し過ぎます。
では、どう仕事をしていくかという話になります。
弁「どう生活を立て直していきます?」
被「一人では無理なので役所に相談します」
弁「過去に生活保護を受けていたことは?」
被「あります」
弁「今、受けていないのは?」
被「仕事を始めたので」
仕事をどう続けていくかについての弁護人からの言及はなし。
「あくまで空腹を満たすため」、「仕事をしていた時期もある」、「刑務所と行き来はしたくない」、「生活保護を受ける気もある」という情報は引き出せたのですが、だから反省しています、もうしません、というのは無理があると思います。
当然、弁護士さんもそう思っているでしょうが。
個人の更生意欲にかけるということなのか、そこまで踏み込むべきでないと考えたのか、はたまた別の理由なのかはわかりませんが、裁判で主張すべき事項は引き出しているものの、この被告人に対しての解決がなんら見いだせずモヤモヤしてしまいます。
続いて検察官からの質問。
同種の前科がありながら、またも過去と同じ理由で、同じ犯行をしてしまったのですが、聞くポイントもあまりありません。
「犯行に抵抗感がなく、再犯の恐れが大」、「反省しているというが、前回の裁判でも言ってるし、今回特別な考えもない」、これらの発言を着実に引き出していきました。
検「仕事はキツいなどと言って2週間や長くても3ヶ月で辞めていますね」
被「はい」
検「どうにかしないとと考えたことはないんですか」
被「ないですね」
どんどん不機嫌になっていく被告人。
本当の意味で、反省や更生の気があったかはわかりませんが、少なくとも悪いことをしたという自覚はあったと感じられた被告人。
原因もわかっているけどどうにもできない、悪いことをした自覚ある、その状態でわかっていることをビシビシ言われ続けたら、そりゃ不機嫌にもなります。
検察官としては、十分すぎるワードを引き出しているので、なんとかもうちょい未来を見せてあげて欲しいんですが、それはなく質問は終了。
被告人質問 ~AIが裁判やってこの質問出せんのか!?~
ここまでで15分足らず。質問しない裁判官もいるので、もしかしたら20分を切るかも?裁判の予定時間は50分なので、30分浮いてやったーと思ってたりしないだろうな、などと思っている中、裁判官の質問が始まりました。
(証拠類をペラペラと見ながら)
裁「出所後、腰の手術を受けたんですか?」
被「え、はい」
それまで一切、そんな話が出てこなかったので不思議な始まり。「腰が痛くて仕事ができません」みたいな話になるのか?などと予想。
裁「その腰の状況は?仕事はできるの?」
被「良くはないですけど、普通にそれまで仕事はしてきたので」
裁「職場はよく変わって、長くは働けていないですけど、いろんなところで働いていますね」
被「そうですね」
裁「じゃあ、働く意欲はあるわけですね。辞めちゃうのは人間関係ですか?」
被「すぐ喧嘩になっちゃったりで、居づらくなっちゃって」
裁「人間関係は得意ではない?」
被「基本的に苦手っすね」
なんか、ここグッと来たんですよね。腰は痛いかもしれない中、2週間だ、3ヶ月で辞めているけど、でも働くというそもそものフィールドには何度も立てているよねと。
僕も一瞬、会社の採用とかしてたけど、短期で辞めている人って採用しにくいんですよね。すぐ辞められてもなって。そういうハードルがある中でも、働く意欲を見せていると。そういうものの見方は全くできなかったので、素直に驚きました。
ほら、僕素直ですし(ΦωΦ)
裁「西成にはどうして来たの?」
被「仕事を探そうと思って」
裁「探しました?」
被「タウンワークを見たんですけど、見つからなくて」
裁「では、どうすれば良かったと思います?」
被「早めに役所に相談に行けばよかったと」
事件直前まで仕事を探す意欲があったことを引き出しつつ、困ったときに抱えるのでなく、役所を頼る方向に持っていっている。地味ですが重要なやりとりです。
裁「繰り返したらマズいのはわかります?」
被「はい」
裁「1回目の刑務所より、2回目の方が長かったですよね」
被「はい」
裁「今回のことは今回のことで、きちんと責任をとってもらわないといけないけど、その後が心配なんです。仕事する意欲はあるんだから、仮にうまくいかなくても然るべき頼るところがありますから」
被「はい」
裁「福祉に頼ることは恥ずかしいことでないんでね、簡単に挫けないようにしてくださいね」
被「はい」
100点でしょ、裁判官の質問。AIがこの質問できるならやってみろってんだ!どういう形で掘り下げるかは、やっぱ裁判官の個性が出るので、どうしても裁判官が好きになっちゃうんよなぁ。
被告人が最後に意見を言える最終陳述の場で、最初は「いや、特に」と言ったのですが、「いや、やっぱ」と言い直し
今回のことは反省しています。仕事については長続きできるよう努力し、人の手を借りてちゃんと被害弁償をしたいと思います。
と述べた被告人。
正直、これから先、まだまだ苦しいことが待っていると思うので、彼がどうなるかはわかりません。でも、犯罪への抵抗感がなくなって以降は、最大限反省した瞬間だったのではないでしょうか。
判決は懲役2年(求刑2年6月)、未決日数30日算入でした。
前刑も懲役2年だったので同じ刑期になったのは、裁判官からの最大限の気持ちが乗ったものだったのではないかと感じました。
今回の記事は動画にしております。よろしければ、こちらもどうぞ。
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