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AIに人は裁けるのか?罰金刑を求める被告人に人間の裁判官だから出来た判断とは?(過失運転致死) 傍聴小景#76

「AIに人が裁けるのか?」

このテーマの議論は今後定期的になされるのではないでしょうか。

先日、東京大学の学園祭でもこれをテーマにした劇が行われていましたし、AIの爆発的な進化については、僕は非常に肯定的なのでどんどん議論がされたらいいと思っています。

ただ、今回裁判官が行った、「とある判断」というのは、同じことを将来的にAIが行うことができるのか。非常に気になるなぁなどと思いながら、傍聴していました。


はじめに 〜2月の春休み大学生に囲まれて〜

罪名 :過失運転致死
被告人:20代女性
傍聴席:平均15人(全2回)

この裁判が行われたのは2月のことでした。17名しか座れない小さい法廷には、春休みなのでしょう大学生が多くいました。

被告人は、そんな大学生に混じっても全く遜色ない雰囲気を持っていました。元々の風貌もあるでしょうが、職業は保育士ということで、仕事柄身に着いた雰囲気などもあったのかと。

だからこその罪名というか、起きてしまった事件の結果とのギャップに、裁判前から多くの関心が寄せられていたように感じます。


事件の概要(起訴状の要約)

事件は午前6時。
被告人は信号がある交差点を時速50kmで通行しようとした際、進行方向が赤信号であることを12m手前で確認し、急ブレーキをかけたものの交差点に進入し、78歳女性が乗っていた自転車と衝突し、翌日その被害者を死亡させた。

赤信号無視の事案です。12m手前で急ブレーキをかけたとのことですが、時速50kmで侵入してきたわけですからスピードは相当だったでしょう。

なにか数字を取ったわけでないですが、自動車事故の被害者の方って自転車に乗っているイメージがあります。
徒歩であれば気付いた際に、その場で姿勢を低くしたり、どちらかに避けたりはできそうですが、自転車だと防御しにくそうなどと思ってしまいます。

被告人、弁護人は起訴された事実を全面的に認めました。


採用された証拠類 〜遺族として厳罰は望まない〜

検察官提出証拠

被告人は短大を卒業してから保育士に。両親らと同居。
事件の時刻である朝6時は勤務先へ向かっている最中だった。その日の仕事を考えていて、交差点手前で赤信号に気付いて急ブレーキをかけたが、事故を起こしてしまった。事故後、110番通報など、可能なことは行った
その交差点付近の車両のドライブレコーダーにて、事故の様子やスピードを出したまま交差点に侵入したことなどが残されている。

事故状況は事件により様々ですが、通勤もしくは帰宅時の事故というのは多い気がします。通勤時であれば、始業ギリギリで焦っているとか、あまり車通りの少ない時間帯ならスピード出してしまっていたとか。帰宅時であれば子どもの迎えがある、早く帰って家で休みたいなどなど

今回は考えごとをしていたということ以外は明らかになっていないのですが、さすがに赤信号を直前まで見落としていたというのは注意力が散漫だったと言わざるを得ません。

こういう事故があるから、僕は運転者以外にも交通事故の裁判傍聴を薦めるんです。「悪いのは車を運転する側だけど、少し可能性を知っているだけで自分の身を守れるものもあるかもしれないよ」と。


ここから、被害者の息子さんの事故に対する意見が検察官の代読によって明かされました。

父(被害者の夫)は体調崩していて、介護なくして生活できない状態。それまで母と行っていたが、私が行うことになった。

事件の日、母の携帯からの着信で警察から連絡があった。それが最後の着信となり、その時間は今でも忘れられない。すぐに駆け付けたかったが、介護があったため別居中の姉に行ってもらった。

病院に着いたときには集中治療室に入っていた。脳の損傷が激しいとのことだった。
そのとき、思ったのは母に対して何も出来ないことの申し訳なさだった。
直近で、身近で面倒を見ている障害を持った人が事故で大怪我することがあった。自分のことに置き換えて、母に少しでも注意するように言っていられたら

母に対しては謝罪と感謝の気持ちしかない。
私の兄は8歳のときに亡くなった。そこから母は1日も欠かさずお参りに行っていた。今回の事件に関しても、時間的にこのお参りの帰りだと思う。今後私が継続したいと思う。

被告人の父親が事故当日に来て「謝らせて欲しい」と言ってきた。相手の気持ちは伝わりました。しかし、正直母の姿を思うと複雑な気分でした。被告人本人も釈放されたあと、通夜への参列を希望されたので受け入れました。
信号無視はどうして?という思いもあるが、110番も119番もしていると聞いている。

若い方なのでまだ未来があると思っています。特に厳罰を望みません。

かなり珍しい反応で正直驚きました。この意見陳述、怒りに満ち溢れた場合が多く、多くはそれに同情するのです。ただ今回、思い出もしっかりある大切な母を突然亡くし、複雑な心境になったことを吐露しつつ、最後には被告人の未来を案ずるという。

もちろん、被告人のその場の対応や父の謝罪の誠意などもあるのでしょうが、この息子さん本人、もしくは亡くなった母親のやさしい人柄なのでしょう。先に亡くなった兄のお参りの帰りにというのも、感じるものがあります。


被告人質問 〜罰金刑を求める理由〜

誠意を持って各種対応を行った被告人の父親が証人出廷し、事故後の被告人の状況、通夜や49日に参加した際の遺族の対応などについて証言しました。遺族は通夜以降、ひたすらに謝り続ける被告人家族に対し、できるだけ笑顔で対応してくれているも、やはり時折涙で言葉が詰まることもあった、という話が印象的でした。

被告人の口からも、そういった遺族の対応が供述されました。

弁「通夜に参列した際、あなたは何をしましたか?」
被「申し訳ありませんでした、とただただ頭を下げ、仏壇に手を合わさせていただきました」

弁「遺族の方は何か言っていましたか?」
被「“起きてしまったことは仕方がない”"新しい人生を歩んでもらうことが母の願いです”といったお言葉をかけていただきました」

弁「49日のときはどうしました?」
被「改めて謝罪させていただきました」

弁「遺族の方は何か言っていましたか?」
被「"家に来ることに勇気がいりましたね”“警察の人が言っていた通り、真面目な方でよかった”などと言っていただきました」

ホント失礼なこと書きますが、ここまで柔らかく来られると逆に怖いわ。
なんかこれらのかけられた言葉を都合よくしっかり覚えてるのも、「なんだかな」と思わなくもないし。

まぁ、これらの通り、遺族感情が相当に和らいでいるというのは、弁護活動上とても重要な話なので、ここ自体は問題ないんです。

問題というか、この話のポイントはここから(今さら?)なんです。

弁「今は保育士としてクラスなど持っているのですか?」
被「1歳児クラスを持っています」

弁「保育士は禁錮刑になると、執行猶予でも保育園で働くことができなくなりますね」
被「はい」

弁「それによるクラスを外れるとどうなりますか?」
被「途中で外れると世話をしている子の心情や、保護者への不信感など影響はあると思います」

保育士は禁錮刑以上の場合、その刑を受けることがなくなってから2年間は保育士になることができないというのが、児童福祉法という法律によって定められているのです。

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