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「今、山の中なんで裁判行けないです」居場所を嘘ついて出頭拒否。法曹三者と警察の大変さが伝わる裁判。 傍聴小景 #121(公務執行妨害)
裁判のイメージと聞かれたら、人それぞれかとは思います。
しかし、裁判を受ける、もしくは自ら起こすとなれば「大変なこと」と意見が大多数の意見としては間違いないのではないでしょうか。
しかし、その大変な裁判ですが、定期的にすっぽかしちゃう方がいます。
人ですから本当にうっかりということもあります。
裁判所なんてどこにあるかわからない。建物に入ったけど、どこへ行ったらいいのやらという人もいます。また、スケジュール多忙な弁護士さんが、完全に忘れてたみたいなのもあります。
それならまだいいんです。
でも、自分の意思で明確にすっぽかす人もいます。
直面するのが恐くて、無視していれば時が解決してくれるのでは?と叶わぬ思いを抱く人もまぁまぁ。
でも、想像以上に本意気でサボってくる人ってのはいるもので。
裁判所内を走り回る弁護人
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特に事前知識がなく法廷に入った、第一回目の裁判。
5分前くらいに着席したのですが、弁護人が席を行ったり来たりして電話したり、法廷の外に出ても、何か焦っている様子が聞こえてくる足音からも伝わってきます。
しかし無情にも開廷時間が来てしまい、被告人以外みんな自席に着きます。
被告人が定刻に着かないことというのは珍しいことではありますが、全然ないというほどではありません。100回に1回くらいの割合でしょうか。弁護人としては気が気でないでしょうが。
裁判長が今の状況を訊ねます。
弁「遠方から来るとは聞いていて、昨日電話したときは来るって言ってたんですけどねぇ…」
「昨日は来ると言っていた」に対し、そりゃそうだろと言いたくなる気持ちをみんな押さえつつ、まぁ連絡が取れる人だというのなら、次回こそは絶対に来させるようにと強く念を押され初回の裁判は終わりました。
そして、1ヶ月後の2回目の裁判。
またも被告人は来ませんでした…。
弁護人が最後に被告人と連絡が取れたのは、1回目の裁判の前日の夜。
すなわち「明日は行きまーす」以来、連絡が取れなくなったとのこと。弁護人が把握している、被告人の親戚に連絡を取ってみても、連絡が取れないとのこと。
バイトの新人だったら「あいつ飛びやがったな」で済むところを、国が行う裁判にそんな舐めた姿勢が許されるはずがありません。
裁判官は割と強く検察官に対し、所在調査を依頼しました。その対応により、裁判の出頭を強制させる勾引状(こういんじょう)の発行に踏み切るとのこと。
この辺りの裁判官と検察官のやりとりまで公開していただいて感謝感謝です。この記事が少しでも広がって、裁判サボったらこうなるぞという認識に繋がりますように願います。
まぁ後述する法改正により、このような様子は見れなくなるのかもしれませんが。
そして、2回目公判から実に3ヶ月半もの時間を要して3回目が開かれたのであります。
3回目の初公判
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罪名 :公務執行妨害
被告人:20代の男性
傍聴席:平均5人(傍聴した3回)
僕の目の前に現れた被告人は、手錠をかけられた姿でした…。
ホント何をしているんだか。普通に裁判に出廷していたら、こんなことにならなかったのに。わざわざ裁判から逃げないといけないくらい、実刑確実な事情などあるのでしょうか。
見た目だけでいうと、髪を染めた短髪で、そこそこにいかつい雰囲気を持っています。どうして裁判に来なかったのか、そして何をしたのか二軸で気になります。
事件の概要(起訴状の要約)
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被告人は、パトロールをしていた警察官の文句を言いに警察署内に入り、それに対応した警官に対して平手で頬を叩く暴行を加え、その職務を妨害した。
やったことは、「警官に対して1度平手打ちをした」という暴行行為ではありますが、警官の文句を言いに警察署に行ったというのが強烈すぎて困ります。「さっきの警官出せや~」ってことですよね。
その権力への対抗心を考えれば、裁判をすっぽかす判断をするというのも、多少整合性があったりもするのか…?
採用された証拠類 ~とんでもない無法地帯に~
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検察官証拠
被告人は事件時、運転中に前を走る警官2名のバイクの速度に不満を持ち、クラクションを鳴らすなどしていた。警官がそれを受け、道を譲る形になったが、そこですれ違った警官が自分を睨んでいたと被告人は激昂する。
その警察署に文句を言い、謝罪に応じなければ暴力に出ようと、ハンマーの柄の部分だけを持って、警察署に乗り込む。
該当の警官2名は見つかり、1名は「不快と感じたなら謝る」としたものの、もう1名が「身に覚えがない」と回答し、押さえつけられながらも犯行を行う。
被害者は「命がけで職務をしており、暴力がまかり通るのであれば、とんでもない無法地帯が生まれてしまう」とその思いを供述した。
「とんでもない無法地帯」すでに目の前で生まれてしまったようですね…。
そんなことはないとは思いますが、本当に被告人のことを睨むような形になっていたとしても、「ハンマーの柄の部分」とかいう、ドラクエでいうと、ひのきの棒以上、こん棒未満みたいな武器を持って殴り込みかける人なんていないんですよ。
しかも酒の勢いといった証拠もないので、素の状態のようでしたし、お仲間がいるわけでなく単身乗り込んでます。ありとあらゆる意味で恐いです…。
被告人質問 ~謝る気はないです~
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特に情状証人などおらず、即被告人質問でした。そりゃあ、監督できるような関係者の人がいたら、2回の逃亡も許さず、あらかじめどうにかしとけという感じです。
弁護人からの質問では、その睨まれたとされる際の状況を聞いています。時間は夜だったが、街灯で明るかったと。
弁「その後、どうしたんですか?」
被「警察行って文句言ってやろうと思って、2人を呼んでもらいました。それで『何見とったんや』と」
弁「相手の反応は」
被「ほくそ笑んでいました」
弁「それで?」
被「持ってた棒で殴ろうとしたけど止められたので、木の棒は置きました」
弁護側立証なので、被告人に同情したいのですが、どうしても短絡的な印象ばかり残ってしまいます。
警察署内でも日々いろいろなトラブルがあるでしょうが、睨まれたと因縁つけられ、木の棒一つ持って単身で乗り込む男がどれほどいるのか気になるところです。
弁「それでどうなりました」
被「一人が『不快にさせたら謝ります』と言ってきました」
弁「もう一人は?」
被「『僕は先を走ってたし、あなたのクラクションも聞こえなかったんで』と」
弁「それで」
被「我慢できなくて頬を叩きました」
エピソード全体的に我慢をしていた描写がないと思うのですが…。
自分の認識では決して強く叩いたわけでもなく、相手も痛がっていた様子もないと主張。実際、被害者の負傷状況は立証されていないので、そういうことなのだとは思います。
弁「被害者へ謝るつもりはありますか」
被「ないです。人を馬鹿にした態度が腑に落ちないんで」
弁「それじゃ、またしないか心配なのですが」
被「しません。家族とかにも『何しとるんやアホちゃうか』って怒られたんで」
家族は怒ってくれる人で良かったです。できれば出廷しなかったことにも同じテンションで怒っていただきたいです。
弁「過去2回出廷しなかったのは?」
被「ちょっと遠方で仕事してて忙しくて。正直軽く考えていました」
弁「最後に言いたいことがあれば」
被「当時は生活が乱れてたこともあり、今後はちゃんとします。警察の態度には納得してないけど、したのは悪いと思っています」
うーん、不安は拭えないですが、仕事はしっかりしているようですし、今後は家族の目が届くところでの仕事に変えるようです。家族の繋がりは大事にしている感じはあったので、その点からの今後に期待です。
続いて検察官。
検察さんは、被告人の身柄を押さえたりと大変だったので、最初から怒り気味。
検「どういう出来事があったか知らないけど、あなたが手を出したのは間違いないわけですね」
被「そうですね」
検「嫌なことがあったら、手を出していいんですか?」
被「ダメだと思います。でも、警察は悪いことを取り締まる機関なのに、あまりにも態度がおかしいんで」
引かない被告人。事の真相はわかりませんが、相当腹に据えかねていることは本当のようです。
検「先ほど、裁判のことを軽く考えていたと言ってましたがどういう意味?」
被「呼び出されているのはわかってたんですけど、まぁ仕事があったし」
検「あなたは友だちや仕事の約束を破る人なんですか」
被「いいえ。でも、ごめんと謝りはします」
検「最初逮捕されたあと、身柄釈放される際に裁判官と何か約束してませんか?」
被「連絡をとれるようにと」
検「そして何か要請があれば出頭するようにとも言われてますね」
被「僕の理解が追い付いていませんでした」
検「私は1回目の裁判のあと電話をして、きちんと裁判に出るように言いましたね。そのとき、あなたはどこにいると言った?」
被「仕事忙しい中だったんで、『山の中』って嘘を言いました」
検「私は『山の中』と聞いた上で、それに嘘があれば勾留すると言いましたね」
被「覚えていません」
検「今回の事件もだけど、今後短気を起こしてまた過ちを犯して欲しくないから私は強く言っているんです!」
検察官の向き合う姿勢はとてもかっこよかったです。
検察官の求刑は懲役10月でした。「身勝手な理由で、粗暴性も顕著」とは、多くの裁判で使われる言葉ですが、ここまでしっくりくるのも珍しい。
一方、弁護側の「不利とわかりつつも、このような主張を続けていることは、当時の警察官の態度がいかに悪かったを示している」という主張は面白かった。「普通こんな主張するはずないっすよね?」という弁護人の心の声が聞こえてくるようでした。
昨年、刑事訴訟法が改定され、保釈中の被告人が正当な理由なく出頭しないことに罰則が設けられることになりました。
これで何も考えず出頭しない被告人は減るかもしれませんが、法ができればその網目を見つけるのが人間というもの。今後、この改定された刑事訴訟法がどのように浸透していくのか注目していきたいと思っています。
今回の裁判、動画にもしております。併せてどうかご覧ください。
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