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1時間半で終わった殺人事件の裁判。被告人の無罪主張は通るのか!? #130(殺人)
ちょっと特殊な裁判を傍聴してきちゃいました。
タイトルそのままの通り、殺人事件の裁判なのですが、1時間半で終わってしまいました。1時間半の回があったのでなく、人定質問から結審まで1時間半で終わったという意味です。
そんなことあるかいなと思うかもしれませんし、途中で内容に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、是非知って欲しい話なので最後までお付き合いくださいませ。
はじめに ~異例過ぎる殺人事件裁判の中身~
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罪名 :殺人
被告人:30代の男性
傍聴席:35人(全1回)
特殊な裁判と紹介しましたが、殺人事件なので、もちろん裁判員裁判です。裁判員はみんな同じくらいの40代以上の男性で、全員とも穏やかな視線を関係者に送っているのが印象的でした。
被告人は30代の男性で、穏やかな表情をしています。とても殺人を犯すタイプには思えませんでした。
そして殺人事件の公判で初めて見たのですが、身柄拘束をされておりませんでした。
事件の概要(起訴状の要約)
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被告人は、事件発生日の午前11時~午後1時20分の間の中で、被害者宅にて、殺意をもって被害者の頸部をひも状のもので絞めつけて、窒息させて殺害した
被害者は被告人と年齢が近い女性。自宅で殺害されたということで、顔見知りの犯行なのか、それとも誰かに押し入られた上での被害なのか気になるところ。
そしてこれに対する罪状認否。
被告人「私は殺していません」
弁護人「殺害したのは第三者で、被告人は無関係です」
完全な無罪主張。こうなると、今後どのような話の展開になるのか注目せざるを得ません。
双方の冒頭陳述 ~被害者との仲は良好なのか疎ましいのか~
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検察官の冒頭陳述
被告人と被害者は同じ静岡県内の高校のサッカー部時代に選手、マネージャーの関係で、歳は被告人が2つ上だった。なお、現在も両名とも静岡県内に在住している。高校在学中は特に交際関係でもなく、卒業後しばらく会っていなかったものの、たまたま被害者が働いていた夜のクラブにて被告人と再開し、交際することになる。
被告人と被害者は同居はしていなかったが、事件の日は被告人が被害者の勤務が終わる時間に車で迎えに行き、そのまま泊まった。時間は25時半ごろ。
被告人はフリーランスとして働いていた。
取引相手の会社の常務から見合いの話を受けた。継続的な仕事の依頼をもらえる約束もされており、被害者のことを邪魔に感じるようになっていた。
被告人は上記の通り、被害者宅に泊まった際に何かしらの紐状のものを用いて、被害者を殺害する。
その後被告人は被害者宅を出て、東名高速を用いて約1時間半後に愛知県内の食堂に入り、その後また高速道路に乗り、約2時間半後に大阪府内のカプセルホテルにチェックインする。その際、被告人は逃走の発覚を免れるため偽名を用いていた。逮捕当時、スマートフォンを所持しておらず、どこで無くしたかわからないとしている。
その後、連続して弁護側の冒頭陳述が行われました。これら2つを比べるとしましょうか。
弁護側冒頭陳述
被告人は被害者と交際時、関係性は良好であった。被害者が前の夫との間に授かっていた子も懐いており、殺害の動機は見当たらない。
事件の日は宿泊後、2日間の休日を使って旅行へ行こうと考えていた。
愛知県内まではゆっくり一般道で向かった。その後、食堂で食事をして高速道路で大阪へ向かった。殺害したとされる時間は一般道を走っている最中で、被告人は現場付近にはいなかった。
また被害者は前の夫、もしくは店の客と思われるストーカー被害に悩まされており、警察にも相談をしていた。
交際をしていた被告人と被害者。弁護側は関係は良好で殺害の動機はないとし、検察側は関係性に言及はしないものの大型の仕事のチャンスがあり、疎ましく思っていたとの主張が。
今後の話次第でもあるけど、疎ましく仮に思ったとしても殺害を決意するかね?と思ってしまうんですが。
検察側と弁護側で大きく異なっているのが、犯行時刻とされる時間帯の被告人の居場所について。
被害者宅の次の確実な居場所が愛知県の食堂となっているけど、検察側は犯行時刻は現場にいて、その後に高速でその食堂に行った、弁護側は下道でコトコト行ってるから、その時間は現場にいなかったというもの。
その後、愛知から名古屋へは高速を使って、大阪に行ったのは双方共通しています。このときの高速の支払い方法はなんだったのでしょう。それによって高速利用の可能性はもう少し分かりやすくなりそうですが、どうしてここまで割れるのでしょうか。
謎が深いというか、気になる点が多くて、ここからどんな点に進んでいくの?という意味で関心が続きます。
裁判長からもこの事件の争点は犯人性の有無だと述べられました。
証人尋問 ~2度の目撃情報は被告人なのか~
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検察側は1名証人尋問を請求しました。歳の頃は被告人と同じくらいの女性。
誰なんだろうと思ったのですが、どうやら被害者と同じ代のマネージャのようで、現在も付き合いが人物とのこと。この人が有罪立証したい検察側としてどう絡んでくるんでしょうか。
事件まで被害者と連絡を取り合い「なんでも話せる仲」だったという証人。被害者は、被告人と結婚したい思いなどを証人と話していたそうです。
しかし、
検「被告人と他の女性関係についてあなたは何か知っていますか」
証「1度、女性と歩いているのを見たことがあります」
検「その様子を見てどのように感じましたか」
証「手を繋いでるのかなくらいの距離感だったのでデートかと思いました」
検「そのとき、被告人と被害者はすでに交際関係にありましたか」
証「はい」
被害者以外の女性と仲睦まじく歩いている姿を目撃したとのこと。
被告人で間違いないとのことでしたが、相手が何者なのか、果たして本当にデートなのかは確証が持てません。あと、そもそも被告人と被害者がどこまで深い仲であったかもややわかりかねますし。
さて証人が証言台に立ったのは、この目撃情報だけが原因ではありませんでした。というか、次のテーマの方が大事でした。
被害者には子どもがいました。正確な年齢はわかりませんでしたが、行き帰りにお迎えに行かないといけないくらいの年齢なんだとか。
なので、被害者が夜の仕事で家を空けるときは、証人が預かって、実子と共に翌日の送りまでやってあげるんだって。被害者は周囲の方に恵まれていたのですね。
犯行推定時刻は午前11時~午後1時20分でしたが、その11時というのは証人が送りを報告した時間だったとのこと。そして、その後の午後1時過ぎのこと。
検「その時間は何を」
証「普通に被害者のアパートの前を歩いていました。近所なんで」
検「そのときの天気は?何か見えにくい事情とかありましたか」
証「いえ普通に晴れて、何もなかったと思います」
検「そこで何を見ましたか」
証「被告人がアパートの2階から降りる様子が見えました」
検「あなたはどこで見たんですか?」
証(地図に印をつける。傍聴席にはわからない。道路1本挟んだくらいと推測)
検「どれくらいの時間、あなたはどういう状態で見ましたか」
証「10秒くらいですかね、歩きながらですが」
検「被告人の服は?」
証「白のTシャツに紺色のジャケットだったと思います」
検「それは被告人で間違いない」
証「特に間違える理由もないと思います」
弁護側が下道でまったり行っていたと主張する時間なのに、証人はそのアパートで被告人を見たというのです。元々の先輩後輩の関係もあるし、被害者が交際をして食事に行くこともあって顔は合せていたので見間違えるはずがないとのこと。
確かに怪しく感じます。服の特徴も答えているけど、それが合致するかも気になります。
続いての弁護側の質問で、何か不合理な点を見つけることはできるのでしょうか。
弁「事件近くの時期、被害者と会う頻度はどれくらいでした」
証「週4~5日」
弁「被害者から相談を受けることなどありましたか」
証「よく話すんで、多いと思います」
弁「どんなことですか」
証「何でもです、子どものこととか」
会う頻度は多いし、子どもも預かるくらい仲もいいんだけど、気丈に振舞っているからなのかわかりませんが、あまり悲しさを見せないんですよね。ちょっと異様に感じるほどに。
その後、被害者の前の旦那のことを聞いていましたが、証人はよくわからないそうです。
そして、被害者が困っていたというストーカーの話に。
しかし、警察に相談に行っていたことは聞いているものの、それ以上に詳細は知らないとのこと。被害者があまり言いたくなかったのか、ここも気になってしまいました。
弁「あなたが被告人を町で見たとき、相手の女性は知っている人でしたか」
証「知りません」
弁「あなたとその二人の距離は」
証「顔がわかるくらい」
弁「一緒にいたことを被害者に伝えましたか」
証「いいえ」
弁「それはなぜですか」
証「曖昧な情報を伝えて混乱させたくなかったので」
目撃情報を「曖昧な情報」と引き出した弁護人は地味にグッジョブなのか。そして、この人の視認能力全体に関わるのか、アパートでの目撃情報の話に。
弁「アパートの階段とあなたの間に駐車場があると思いますが何台くらい停まってました?」
証「5~6台だったかと」
弁「色とか特徴は」
証「覚えてないです」
弁「日差しで見えにくいとかなかったですか」
証「昼間とはいえ、10月ですし、そんな厳しくもなかったんで」
弁「10月の昼間だとわからないんじゃないですかね」
証「いや、わかると思いますけど…」
急にパワープレイに転じた弁護人。見え方に曖昧さの印象を伝えたいのでしょうけど、それはどうなのでしょう。
そんな感じで弁護人からの尋問は終了。証人の間違いないという姿勢を崩しきれはしなかった感じ。とは言え、これでイコール殺人犯になるのも…。被告人質問では何が語られるのか。
被告人質問 ~ストーカーの相談を受けながら一人旅?~
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被告人は中学時代はサッカーで全国に、高校では全国に行けなかったようですが、大学でも少しやってたとのこと。自主練の計画を立てたりすることは好きだったんだとか。
弁「大学卒業後は」
被「システムエンジニアとして働いていました」
弁「年収は」
被「退職することは、年300万前後ですかね」
弁「その後フリーになって年収は?」
被「350万くらいですかね」
副業をしているか聞いたり、週何日働いてるか聞いたり、お金周りのことをなにかしらアピールしたい模様。
弁「同じくフリーランスのSEって知り合いいますか?」
被「何人か」
弁「その中に犯歴がある人っていますか?」
被「いやぁ、聞いたことがないですね」
弁「フリーランスで犯歴あると、仕事を取るのに影響あると思いますか?」
被「…まぁ、そりゃああると思いますけど」
なんだ、この質問は?犯歴あるとリスクがあるから犯罪をするはずがないという主張?ちょっと被告人も戸惑っていました。
その後、被告人との関係に。家に泊まったりするのは週に1~2度ほどあったとのこと。夜が遅いので、迎えに行ってあげてそのまま泊まることが多かったのだとか。
そしてもう一つ気になるお見合いの話。
弁「交際を初めてから、他の女性とお見合いしたことありますか」
被「あります」
弁「その理由は」
被「先輩に声をかけられて、大きい団体の常務の娘さんなのでとりあえず会って欲しいと」
弁「そのお見合いの場で相手からは何か言われましたか」
被「その常務からは元々気に入られていたので、もし結婚したら仕事の支援をするなどとも言っていただきました」
弁「それを聞いてどう思いましたか」
被「仕事は魅力ですが、自分の気持ちが大事だと思うんで、嬉しいですが…って感じ」
弁「被害者と見合い相手とどっちが大事でしたか」
被「被害者です」
なんだかドラクエ5のビアンカなのか、フローラなのかという論争を思い出します。ぽっと出のキャラなのに「イオナズンを使えるからフローラを選ぶ」って言っている人に、正気かとの疑いはこの歳になっても晴れません。
そんな感じで、いきなり仕事を約束すると言われてもと思ってしまうんじゃないかなぁ。まぁ人の色恋は好きにしてくださいという感じです。
続いて検察官から。
検「被害者からストーカー相談は受けていましたか」
被「はい」
検「それに被害者は心当たりはありそうでしたか」
被「クラブにしつこい人がいると言っていました」
検「何か対策は考えていたんですか」
被「アパートは人の目がつくところだから大丈夫だよと安心させていました」
検「ストーカーの相談を受けているのにあなたは一人で旅行に行こうとしたんですね」
被「そこまで深刻と思っていなかったんで」
被告人以外の犯人の可能性を示したい弁護側と、そんな大して心配してないほどの愛情だし、あんたが犯人なんでしょと言いたい検察官。
どれだけ家が人通りのある場所か知りませんが、深夜1時とかに帰ってくる人に、人通りがあるから大丈夫でしょは寂しい気がします。
検「あなた、スマートフォンはどうしたんですか?」
被「いや、ホントどこかで無くしちゃって」
検「全然気付かなかったんですか」
被「僕、休日はデジタルデトックスって言って、できるだけスマホに触らないよう通知もオフにするんです」
まぁた、本当に心配をしていたのかという検察官の疑いの目の地雷を踏んでいく被告人。
大阪のホテルでは偽名を使って宿泊しているのですが、ご自身の名前がちょっと珍しいので、電話とかで伝えやすいようわかりやすい感じで答えているだけなんだとか。それは警察の捜査の手から逃れるためなのでは?と疑いの目を向けられて質問は終わりました。
この裁判は何を伝えたいのか
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と、お伝えしてきたのですが、皆さんいかがお感じですか?
そもそも殺人部分の証拠が足りていなくない?とか、双方とも質問と結び付けたい主張が強引過ぎない?とか色々お感じになる部分があるかもしれません。
だって、それもそのはず、
この裁判の弁護人と検察官って高校生なんだもん!
今回、お届けしたのは、日本弁護士連合会が(多分)主催している、高校生模擬裁判関西大会の様子でした。今年で第17回を数えるこの大会、私は昨年から傍聴席にて傍聴をしているのです。
関西大会は大阪地裁の法廷を使って、事前に与えられたお題を元に、証人尋問、被告人質問、論告弁論(今回は割愛)を用意して発表し、現役の法曹関係者が座る裁判員がどちらの主張が良かったというのを審査するのです。
なので、ちょっと無茶な質問があるのももちろんご愛敬なのでございます。
それを踏まえて質問部分とか読み返すとなかなかに面白いかも。
あと、フリーランスとはなんぞや、年収どれくらいだったら満足かって感覚は高校生には難しいだろうと思ったり。
途中で出てきた証人、被告人役も事前にある程度の設定が渡された大人。当然、どんな質問が来るかわからない中、自分でないキャラについて受け答えするから大変です。
この高校生の模擬裁判ってなんか見たくなっちゃうんですよね。もちろん、高校生が必死に頭を使っている姿を見て微笑ましいというのもそうなんですが、このイベントって弁護士だけでなく、裁判官、検察官も加わるんですよね。
そのオールスター感がファンにとってはたまらないし、学生の主張についてそれぞれの立場で意見を言ってく様が非常に興味深いのです。今年も大変堪能させていただきました。
この模擬裁判用に用意された設定なので、犯人が誰かとかはないのです。モヤらせてごめんね。
目下私の目標としては、その裁判員席に1席記者枠があるので、そこに座ることなのです。
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