特殊詐欺のヤバさが詰まった裁判。「お金貸してー」レベルで犯行決意(窃盗、窃盗未遂、詐欺) 傍聴小景#72
サスペンスものを見ていると、ほぼほぼ登場するのが「犯人の指紋」。犯人の決め手となる、思わぬところに残っていたというもので、視聴者も唸る展開ですね。
もちろん、リアルな捜査現場でも指紋は重要視されているのでしょうが、僕が普段見ているような裁判では、あまりワードとして出てくることはありません。やっぱ、窃盗とか違法薬物とかだと防犯カメラとか、その他の物証が強いんでしょうね。
でも、もちろん時には指紋が絶大な効果を発揮することがあるわけで。
はじめに 〜5ヶ月にも渡る長い裁判〜
被告人は、年齢以上に若くというか幼く見える、坊主でくりんくりんの男の子。親も傍聴席に来て、ちゃんとコミュニケーション取っているのかなぁとも思えるし、何を3つも罪を重ねたものかと不思議に思う感じ。
それしてもこの裁判が長かった。約5ヶ月に渡って続きました。裁判が長くなるのにはだいたい決まった理由があるので、長く傍聴をしている身であれば1回目の裁判を傍聴していたら長くなりそうかというのはだいたい目安が付きます。そんな中、5ヶ月も追い続けたということは、1回目の裁判で惹かれるものがあったのです。
事件の概要(起訴状の要約) 〜多岐に渡る被告人の役割〜
最近、非常に多くてため息も止まらない特殊詐欺の事案です。やったこと自体は、他の事案と比べて何か特筆するものがあるわけでもなく、あえて言えば自分でカードを受け取ったり、引き出したり、監視したりと多くの立場を経験しているなぁくらい。
こういうのって、実行している人は割と捕まりやすいから、関わっている事件数って多くないんですけど、人を使っている側だとそこまで捜査が届かなかったりで関与が多くなりがち。
今回、5件の事件に関与しているので、組織の末端というよりかは立場があったのかな?なんて想像もしちゃいます。
検察官が提出した証拠類 〜誰かに見られたらどうしよう…〜
「犯人と思われる人物が遺留したものから指紋が検出され、それが決め手となった」
と書いたら、ちょっとかっこいいミステリーっぽいですが、今回の実情はメチャ喋るお婆ちゃんに耐えきれず、その場をちょっと離れたらそのときペットボトルを置き忘れたという、なんともおマヌケな話。僕だったら、ペットボトル置き忘れたことに気付いたら血の気引くだろうな。
その他、お婆ちゃんを思い出すから詐欺行為は無理だとか、なんとも可愛らしいエピソードが続きます。犯罪エピソードに可愛らしいも何もないのですが、ちょっとこれは細かい事情が気になるということで、事件数が多く長期化が予想されましたが傍聴を続けることを決めたのです。
それにしても明らかにこの種事案の実行に向いていないと感じる被告人です。詐欺行為に向いていないことは当然悪いことではないのですが。
それでも辞めることなく続けたのは相当根が深いのか、それとも他に事情があるのか気になるところです。
証人尋問 〜「お金貸してー」は被告人のSOS?〜
事件が多数に渡ったので、証人に話を聞くまで4回もの期日を要しました。
証人は被告人の母親。事件前、そして保釈されている現在も旦那さん、娘、義母と生活しているようです。現在ではそれなりに大きな家族構成の中で生活を続け、今回どうしてこういう経緯になったのでしょうか。
なんか料理屋で修行という言葉が昔気質な感じで少しニヤけてしまいました。なんでだか、昔の漫画、ドラマの「味いちもんめ」を思い浮かべてしまった僕。厳しい上下関係にやってられねぇよと、家を出るきっかけにならなければいいのですが。
「やってることは一丁前」、名言ですねぇ。この弁護人さん、この後もちょいちょい歯に衣着せぬ言動と言いましょうか、独特の言い回しが面白い方でしたので、どうかご注目を。
なんか、弁護人の言動に心奪われてしまったのと、証人がただただ反省の言葉を述べてはいたものの具体性がちょっとなぁと思っていたところ、次の検察官からの質問で気になる点が。
どうやらこのやり取りを見る限り、被告人はお金に困っての犯行のようですね。まぁ、そりゃそうか、お金が欲しい以外にこの犯行をする人はいないと思いますが。
ただ、その緊迫度がどれほどだったのかという話です。普段の家族間のコミュ程度の「貸してー」くらいで何かに気付けというのは難しい気がしますし、それとは別に何かSOSサインを出していたのか。俄然、これからの被告人質問気になるところです。
被告人質問 〜辞めるとは言ってたんですけどね〜
さてくりくり坊主の被告人くん、見た目通り誠実な受け答えをしてくれたらいいのですが。
とりあえず、犯行に関わるきっかけは知人から「稼げる仕事があるから」と言われて、何もわからず現場までついていって、その場で仕事内容を聞かされたという、犯行意欲が強かったわけではないという印象と、そんなホイホイついていくなよという不安を残す問答からスタートしました。
いや、お前途中まで辞めるって言って辞められなかったんだよ。なんで最後のだけ自分の意見が通ると思ってんだよ。なんという甘い見通し。
それにしても、事件に関わったそもそもは知らされずにということかもですが、お金に困ってたほどじゃないってことは、親に「貸してー」っていうのと同レベルの犯行への関与決定とみて良さそうですね。
なんだよ、最後のエピソード。そんなん聞いてないんだよ。脅されて辞めにくい感じでしたと持っていきたい弁護人に対し、我を通していたという被告人。
「いや、俺、組織にもビシッと言ってたんで」じゃないんだよ。だったらちゃんと辞めるんだよ。
こういう自分わかってます的な被告人は恐いんですよねぇ。自分より弁が立つ人が、うま〜く話したらコロっと言っちゃう感じで。
「やったらあかんこと」って何?「これは大丈夫だよ」って言いくるめられたら、ほいほい言っちゃうんじゃないの。いやぁ不安だなぁ。
なんというかですね、もちろん犯罪行為ということに対しての怒りや、何故という感情もあるのですが、本質的なところで何が悪いかわかっていない感じがするんですよね。
検察官からも少し聞いていきます。
やっぱ根本がなんか間違ってるんだよな。
実家暮らしでギャンブルでお金溶かしているのに、借金の理由は生活費って言っちゃうし、家族に「お金はない」って言ってたか知らんけど、その情報だけでまさか実家にいながら借金を重ねているかなんて思わんし。
家族間のコミュニケーションの不和というか、まぁでも多くの家でこんな齟齬は発生しているんだろうなぁとは思うし。
本人は大真面目に話していると思うんですけど、やっぱ認識の悪さのドツボにどんどんはまっている気がするんですよね。
「やめた方がいいのにな」ってどの立場で、どんな感情で言ってるつもりなんでしょうか。
今回の被害者全員に詫び状を書いてはいるようですが、結局、330万円の被害のうち、31万円の被害弁償のみが実現。他の人には謝罪や弁償の申し入れをするに留まっており、身勝手な動機であるとして検察官から懲役4年が求刑されました。
判決 〜判決までの間に何が出来たのか〜
被告人質問の回から判決まで1月ほど空きました。裁判官もしっかり検討したいと言っており、余裕を持って期間を空けたようです。
被害額と弁償のされなさから考えると、かなり厳しい結果が予想されますが、しっかり検討という名目で、その間に弁護人に頑張って示談交渉せいよというメッセージなのかなと思ったり。
結局、その1ヶ月で示談絡みは進むことがなく、被告人が日本弁護士会、大阪弁護士会に対して、27万円の贖罪寄付をしたという追加証拠の提出のみとなりました。
検察官としては、被害者に弁償されたわけでないので、必要以上に評価すべきではないと意見されていました。僕もまぁそう思います。
判決が出た瞬間、机に肘をついてうなだれたように見えました。「自分は辞めたい」と言っていたか知りませんが、結局これほどまで関わり続けたことは強い非難が向けられるとし、実刑は免れないと評価されていました。
恐らく、軽い気持ちで参加して、目の前で誰かから強奪したりとか、怪我させたりしたわけじゃないので、実刑という感覚がわきにくいかもしれません。
でも、この事案って被害件数も増えていますし、一発で実刑となるケースというのが増えています。
どんな犯罪行為でもダメなのですが、特にこの手の事案は、犯行にいたる意思決定が甘いというか、ヌル過ぎて本当に罪悪感に乏しい人が多いんだろうなというヤバさを感じています。
事件を啓蒙して被害者を出さない努力というのはもちろん大切ですが、なんとか実行する人を減らすためには何ができるのかと考えずにはいられないのです。
今回の事例は動画化もしております。よろしければ、こちらも御覧ください。
ここから先は
傍聴小景 会員限定ページ
毎月約100件の裁判を傍聴している中から、特に印象深かったもの、読者の方に有意義と思われるもの、面白かったものを紹介します。 裁判のことを…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?